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唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

広島・尾道からフェリーで尾道水道を渡り向島へ。その後は車で山の中腹までくねくねとひたすら登っていきます。

こんな山深い場所に本当にあるのだろうかと不安になった頃、ふいに見えてくるのが白い建物。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

尾道市が管理する施設「立花自然活用村」の2階に、手作りの温かみを感じるチョコレート工場『USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)』があります。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

世界各国の良質なカカオ豆を仕入れ、豆の焙煎から製造、販売まで。チョコレート作りの一切を自分たちで行うお店です。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
ショーケースには広島空港内に製造工場を構えるヴィーガンチョコレートの姉妹ブランド「foo CHOCOLATERS」のパッケージも並ぶ
唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

カカオの産地ごとに作られたチョコレートは、それぞれ異なる個性的なパッケージ。店内には他にも、温泉手ぬぐいや開運グッズなどが並びます。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

今回は『ウシオチョコラトル』の代表を務める中村真也さんにインタビュー。

ブランド立ち上げの経緯や、チョコレートに留まらない取り組みについて伺いました。

 

バイブスを感じた尾道で、日本で一番目立つ店をやろう

――中村さんは福岡出身とお聞きしましたが、なぜ広島・尾道で、しかもチョコレート店を開こうと思ったのでしょうか。

 

2009年頃、自転車で放浪しようと思って福岡を出たんです。

熊本から大分に行って、船で松山に着いて。しまなみ海道を渡ってきたら尾道があって。

初めて来た場所だけど、土地柄も人もみんな温かくて「なんだかスーパービンビンにバイブス感じる街だな」って気に入ってしまって。ご縁もあり暮らしはじめました。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
サイクリングコースとしても有名なしまなみ海道が近いため、自転車で訪れる方も多い。立花海岸を見下ろす見事な景色に、辿り着いた人たちはみな解放感や達成感を覚えるそう

その後「山猫カフェ」っていうところで働いていたんですが、当時の上司が僕に「君は独立した方がいいよ」って勧めてくれて。自分でもお店をやってみようかなって思ったんです。

でもせっかくやるなら、ありきたりじゃなく、日本で一番目立つ可能性があることをやりたいなって。その世界で台頭しないなら意味がない!と思いました。

 

そんな時、ブルックリンのチョコレート店「マストブラザーズ」を知ったんです。紹介されている記事を読んで「自分でチョコレートをイチから作ってるってめちゃくちゃかっこいいやん!」って。

 

しかもただかっこいいだけじゃなく、味もすごくおいしかったので感動してしまって。

日本で同じように作っている人がいないか調べてみたんですが、タブレットを作っている人はまだいないようだったんですね。それで、これはいける、仕事にできるぞと。

 

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ウシオチョコラトル店内。地元作家の作品や商品も多数飾られている

――それまで、料理やお菓子作りのお仕事をしたことはなかったんですか?

 

そうですね。でも物心着いたころからマンガ「美味しんぼ」を読んで育ってきたので、食への興味はずっとありました。

チョコレート屋を開くにはどうすればいいかを考え、「まずはカカオ豆を買おう」と動き始めたのが2011年くらいですね。

 

――その当時、小売りのカカオ豆を購入できるところはあったんでしょうか?

 

全然なかったんです。大手から大手へ、という流通経路しかなくて。

色々問い合わせてみたんですが「小ロットはやってない」って言われて「始められんやん!」って(笑)。

そこで気づいたんです。コーヒー豆の買い付けに行く人がいるなら、カカオ豆もやればできるんじゃないかって。逆に調達のハードルが高くなればなるほど、他に始める人は出ないはず。ラッキー!とアドレナリンが出てきましたね。

 

スタートはグアテマラから。人脈がつないだカカオ農園までの道

――最初はどこの国に行かれたんですか?

 

中南米のグアテマラです。「尾道でチョコレート屋さんしたい」って色々な人に言っていたら、「グアテマラにバックパッカーとして行った、中道さんというご夫婦が尾道にいるらしい」と聞いて。以前から自分でもカカオ産地を調べていたのですが、その頃出てくる情報はアフリカのいくつかの国と、南米ではブラジル、ベネズエラ、ペルー、エクアドルなどの主要な産地だけ。グアテマラは一切出てきませんでした。この時にお話を聞かなければ行く候補には入りませんでしたね。

 

色々なツテを辿って、現地でレストランを経営している日本人女性を訪ねて行ったんです。

そしたら偶然このレストランに、世界中を自転車で旅している男の子や、グアテマラのナッツを日本に卸している女性が訪ねて来ていて。その4人でチームを組んで、カカオ農園を探しに行きました。

 

――実際に行ってみていかがでしたか?

 

もう大冒険で、楽しかったです!

行ってみて分かったんですが、グアテマラってカカオ豆の国内需要が高いんですよ。カカオマスの塊を削って溶かしたものを甘くして飲む「チョコラテ」が文化として根付いているんです。

                    

最初に伺ったカカオ農園は生産者さんたちが製造・販売する分しか育てていなかったのですが、ここで色々教えてもらい、グアテマラの市場価格や事情を知ることができました。

最終的に、アグロフォレストリーという、自然と共存したカカオ農園を運営しているロレンソさんに出会って。ダイレクトトレードでの取引を初めて、今もう6年目です。


実際に農園を訪ねてみて驚いたのは、エコに関する意識がすごく高かったところ。

最初に訪ねた先も、ロレンソさんの農園も、どちらも電力は水力自家発電でまかなっているんです。と

 

とくにロレンソさんは、カナダのケベック州からマヤ文明に惚れてグアテマラに移住した人。はげ山同然だったコーヒー農園を買い取り、30年以上かけて自然に配慮した環境を創り上げてきていて、本当にすごいなと思いましたね。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
ジャンさんの台湾農園で育つカカオポッド

――他に、ウシオチョコラトルさんがダイレクトトレードをしている産地はあるのですか?

 

台湾ですね。ジャンさんという元商社マンが引退後に始めた農園で、5年くらい前に初めて行きました。

当時カカオ農園は観光農園かジャンさんの農園しか見つけられなかったのですが、ここ数年で増えてきているそうです。 

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
ジャンさんのカカオ農園にて
唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

――お店では他にもガーナやベトナムなど、さまざまな産地のチョコレートが並んでいますよね。

 

ガーナ、ベトナム、ハイチですね。これらは仲介を通して購入しています。

その他、瀬戸内の乾燥温州みかんや有機アーモンドをトッピングした「柑橘ブレンド」や、岡山県倉敷市で自然栽培されているハッカ『秀美(しゅうび)』を使った「薄荷ブレンド」など、地元素材とのコラボ商品もあります。

 

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3人で創業。「ここにしかない店作り」で他店との差別化をはかる

――創業メンバーは中村さんのほか、栗本さんと宮本さん、3名で立ち上げられたんですよね。もともとご友人だったのでしょうか。

 

やっさん(栗本さん)とチョコレートピエロ(宮本さん)は僕がチョコレート屋さんを始める準備をしている時に尾道に引っ越してきたんですよ。2人とも、僕が働いていたカフェによく食べにくるお客さんでした。

 

僕もちょうど仲間が欲しいな、ひとりじゃ無理だなって思い始めていたところで。

めちゃくちゃ目立つ店を作るにはスピード感が大事ですから。でも予算がないので最初は3人くらいでと。「なんでチョコレート屋さんなの?」って最初は断られましたが必死に口説き、一緒に取り組んでくれることになりました。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
お店のロゴやチョコレートのモールド(型)のデザインは、デザイン関連のお仕事をされていた中村さんの奥様が手掛けたそう

そこからは、製造音が近隣の迷惑にならないようにと、尾道ではなく向島の方で物件を探し始めました。この建物は外観もダサいし、どうしようかと思ったんですけど、自分たちで改装して、外観と内観のギャップを楽しむくらいにできればいいかなって。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
工場長をつとめる虹子さん。温冷手ぬぐいのデザインも彼女が担当した

空港や豆の選別所を含めると、現在のスタッフは15人です。

創業メンバーの宮本は、1年前から大阪の「蜜香屋」っていう焼き芋屋さんを始めました。

チョコレートピエロから芋男爵に肩書が変わりましたね(笑)

 

――チョコレートづくりは独学ですか?

 

そうですね、ほぼ独学です。

でも当時、中目黒のパーキングコーヒーでクラフトチョコレートを作られていた(現・Minimalの製造責任者)朝日将人さんを知り「つくり方を教わりたい」とお願いしに行きました。

チョコレートにかける僕らの想いが伝わったのか、協力してくださることになって。

後から知ったのですが、朝日さんもその時Minimalを立ち上げる準備の真っ最中だったそうで。そんな中、尾道まで教えに来てくれて嬉しかったですね。

あとは、グアテマラに行く前に寄ったアメリカのデンバーにあるチョコレート店、
『RITUAL CHOCOLATE』でも教わりました。

 

――ウシオチョコラトルさんのラインアップには、ザクザク食感のクランチタイプと、なめらかなスムースタイプがありますよね。分けているのはなぜでしょうか?

 

カカオ豆の個性がより活きる方に合わせています。

僕個人は粗めのクランチの方が香りもより強く出るし、歯ごたえもあっておいしいと思うんですが、豆の種類によっては酸味が出すぎてしまうものもあるんです。そういうカカオ豆は、すっと溶けるスムースタイプにしていますね。台湾はどちらも合うので、2種類販売しています。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

――チョコレートをつくる上で、大切にしていることはありますか?

 

僕の根底にあるのはやっぱり「美味しんぼ」の考え方で。「おいしい」とは何かを考えながらも伝統は大事にするという、差異の尊重を学びました。

伝統があるから革新的な味が相対的に評価されるんだ…という教えを大切にしています。クランチとスムースの対比も、そこから生まれた結果ですね。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
和紙を思わせる厚めの紙。書道家やデザイナー、イラストレーターが手掛けたもののほか、高野誠鮮さん祈祷済み「月刊ムー」とのコラボレーションも。“ジャケ買い”するお客さんも多いそう

――パッケージデザインは、さまざまなアーティストさんとコラボしていると伺いました。

      

他のお店ではしないであろうことを想像して、パッケージデザインは個性的なものにしたかったんです。最初に発売した産地別の6種類はどれも尾道在住の作家さんにお願いしました。そこから少しずつ、知り合った方にお願いするようになりましたね。

 

最初にうちのチョコレートを食べてもらって、そのインスピレーションで書いてもらっています。

一番新しいパッケージは「ロッキンジェリービーン」という著名な作家さんです。パッケージがご縁で、うちのお店で1ヶ月だけ個展も行うことになりました。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

――チョコレートの形が6角形なのにも、何か意味があるんでしょうか。

 

これも他のお店との差別化が狙いです。世界のチョコレートを調べてみましたが、長方形、正方形はあっても、多角形はなかったので。

3人で創業したこともあり“3”に関連する数字にしたかったこともあります。

モールドは3Dプリンターで。6角形の効率的な折り方は、創業メンバーのひとりであるやっさんが考案してくれました。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
店名は、中村さんの娘さんの名前“潮(ウシオ)”ちゃんから。海面が朝日に照らされた状態を示す “ウシオ”と、マヤ文明の時代の飲み物“チョコラトル”から命名。名前にちなんだチョコレート型デザインも奥様が考案

――カカオ豆の調達からお店作りまで、これまで色々なことがあったと思うのですが、一番大変だったご苦労はどんなことでしたか?

 

ないんですよね。あったかもしれないですけど、どれもこれも初めての経験でワクワクしました。「自分で仕事するってこんなに楽しいんだ」って実感することばかりです。

 

ユニークな個性を武器に、幅広い活動を
唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

――最後に、今後の展望や、これからやってみたいことはありますか?

 

色々あります!まずは、ウシオチョコラトルでアジア圏に自社農園を持ちたいですね。

欧米のビーントゥバーチョコレート店が中南米からカカオ豆を買い付けるのって、やっぱり近いからなんですよ。

日本人の僕らが取り組むなら、身近なアジアのカカオ豆を扱う方が絶対良いです!

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力
打ち合わせのためウシオチョコラトルに来ていた「マウントコーヒー」山本さん。世界各地の個性豊かなシングルオリジンを自家焙煎する、広島の人気店主

じつは今、ウシオチョコラトルとはまた別で「シャンドンコーヒー」っていう会社を作ろうとしているんです。僕らと、広島「マウントコーヒー」山本さんと、岡山「オンサヤコーヒー」の東さん。

山本の“山”と“東”で山東(シャンドン)。そこでカカオ豆の自社農園を作ったり、各国の民族衣装を扱ったりして、アジアのより深い魅力を伝えていけたらいいなと考えています。

 

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

また、これは僕個人でやっていることですが、日本ならではの在来野菜を守る活動もしています。広島には少ないんですが、「女山三月大根」や「平家大根」「博多すわりカブ」など、中国・九州地方にも江戸時代から残る野菜があって、焼いて塩を振るだけでもめちゃくちゃおいしいんです。

 

シンプルな料理法でもおいしく食べられるから、逆に“料理人泣かせ”とも言われるんですが、それでもチャレンジしている方がいるんですよ。

船山義規さんというシェフは、ヨーロッパに古くから伝わる郷土料理を文献で調べ、日本の在来野菜で再現されています。

 

また、長崎県雲仙市にある「岩崎農園」さんや、福岡の八百屋・金子商店さんも「古来種や在来野菜を毎日の食卓に並ぶように」と尽力されている方の一人です。

 

その土地の風土に合わせて育ってきた原種が消えてしまわないよう、種を採り次につないでいく。素晴らしい活動に僕もかかわっていきたいと思っています。

 

いつかウシオチョコラトルで、在来野菜とチョコレートソースを使った料理を提供したいです。お客さんにもぜひ、古来からのロマンを感じてもらえたらいいなと思います。

 

文=田窪綾

写真=新井まる

 

【profile】

唯一無二。チョコレートに留まらない「USHIO CHOCOLATL」のユニークな魅力

中村真也(Shinya Nakamura)

 

USHIO CHOCOLATL(公式サイトリンク:https://ushio-choco.com/)代表。

栗本雄司さん、宮本篤さんらとともに2014年11月、広島県尾道市向島に小規模チョコレート工場『ウシオチョコラトル』を創業。現在は経営管理を担当するほか、海外のカカオ農園へ買い付けも行う。その他、在来野菜を育て種を継いでいく取り組みや、オルタナティブロックバンドラップクルー「ChemiCal Cookers」結成など枠にとらわれないシームレスな活動を行っている。人生の教科書はマンガ『美味しんぼ』。