カカオニブ×あんこの可能性。日本最古の製餡所「きたかわ商店」の新たな挑戦
和歌山市内に工場を構える「きたかわ商店」は、日本で最も古い歴史を持つ製餡所。
1900年(明治33年)に創業後、和菓子店やパン店への卸を中心に、自社ブランドの和菓子店「一寸法師」の運営などを行っています。

2010年の秋には菓子職人・小幡寿康さんから独自の製餡指導を受け、これまでの作り方を一新。小豆の味が生きる、極上のあんこづくりを習得します。
「変えてはならぬ、変わらねばならぬ」を信条にするきたかわ商店さんに、APeCAはカカオニブとのコラボレーションを提案。
チョコレートの原料であり、近年はスーパーフードとしても注目されているカカオニブと、きたかわ商店のあんこを組み合わせたら、どんな化学反応が起きるのでしょうか。

今回は三代目社長の内藤和起(ないとう わき)さんに、あんこにかける想いや、コラボ商品の開発秘話などを伺いました。

――まず「きたかわ商店」のルーツを教えていただけますか?
大阪・日本橋の「北川製餡所」で製餡技術を学び、和歌山にお店を開いたのが、私の祖父である内藤直作です。
その後、戦争による工場焼失や代表の急死などが続きましたが、母の恭子が18歳で事業を再開。受け継いだ伝統をもとに、大切にあんこを作り続けてきました。

――受け継いできた伝統的なあんこづくりを、がらりと変えるきっかけがあったとか。

はい。菓子職人・小幡寿康さんとの出会いです。
自身の店を持たず全国を渡り歩き、これまでに30以上のお菓子店を復活させてきたすごい方なのですが、私は当時よく知りませんでした。だから、紹介してくれた材料の卸業者さんに「別にあんを変えたいとは思っていないのだけど」と断っていたんですね。
でも、訪ねてきた小幡さんが「小豆の香りが漂うあんこ屋はろくなあんこ屋じゃない」と言い、さらにうちのあんこを食べて「このあん、くさってますわ」とも言うんです。
“くさってる”とは“おいしくない”の意味だったんですが「何て失礼なんだ」とカチンときましたよね。

そこで小幡さんにその場であんこを作って見せてもらったら、そのおいしさに驚きました。同じ材料なのに私たちのあんこと味がまったく違うんです。誇りを持って作っていた私たちのあんこが急に色あせて見えました。
急に手のひらを返して「先生、教えてください」って言っちゃいましたね(笑)

先生の教えてくださるあんこづくりは、常識を覆すようなことばかり。
小豆は一晩水に漬けて、時間をかけてコトコト炊くのが伝統的かつ一般的な炊き方です。
でも先生は、小豆にいきなり熱湯をかけて気絶させる「豆殺し」をするんです。
「小豆だって子孫繁栄のために生まれた植物。食べられるために生まれた来たわけではない。水に漬けたら食べる準備だと気づかれて毒(シアン) を出すんだ」って。

煮る温度、時間、渋切りの仕方やタイミングなども、これまでとはまったく違っていました。豆の色や風味が逃げないうちに炊き上げるので、時間もかけないんです。


先生の製法は独特ですが、どれも科学的な裏付けがあり理に叶った方法だと思いました。
作り方は小豆の収穫時期でも微妙に異なるので、時間をかけて自分たちの体に染み込ませていきました。

つい今までのクセが出たり、作り方が戻ってしまったりすることもありました。でも先生が抜き打ちで指導に来ると、また良くなります。「もう大丈夫だろう」と言われるまで、3年ほどはかかりましたね。
――長年作り続けてきたあんこの作り方を変えることに、抵抗はなかったのですか?
老舗の意地も反発もありましたけれど、それを覆すほどに小幡さんのあんこが素晴らしかったんです。もし口だけの指導だったら信用できなかった。実際に食べて衝撃を受けたからこそ、教えてもらおうと思えました。

それに、私はもともと接客をメインに働いてきました。もし昔からあんこを炊き続けている職人だったら受け入れられなかったかもしれませんね。
「お客様に喜んでもらえるあんこづくりを第一にしよう」という想いが社員にも伝わったから、変われたのだと思います。
――今回のコラボでカカオニブを使ってみて、どう感じましたか?

私、今回のお話で、初めてカカオニブを知ったんです。
そのまま噛んだら苦くて、ナッツのような食感で、これをどうあんこに合わせればいいんだろうとしばらく悩みました(笑)。
近所の洋菓子屋さんに相談もしましたけど、洋菓子屋さんもすでにチョコレートになったクーベルチュールを仕入れているから、カカオニブの使い方は分からないと。

色々考えて取り組んだ最初の試作は大失敗でした。
カカオニブは硬いから、小豆と一緒に最初に炊いてみたんです。すると、カカオニブに含まれているカカオバターが溶け出てきて、ドロドロな何かが出来上がってしまって。
これは違うなあって。

次は、できあがったあんこに混ぜてみようと。
カカオニブは見た目がコーヒー豆に似ていたので、コーヒーミルで細かく挽いたものをあんこに混ぜてみたんです。これが意外に合いました。
そこからは、粒あんにするかこしあんにするか、カカオニブは粗くするか細かくするか。分量は何%くらい混ぜるか……と、少しずつ調整していきました。

最終的に、なめらかなこしあんに、細かく挽いたカカオニブを合わせることに決めました。この配合だとカカオニブの香りと粒感がはっきりと引き立つんです。
優しい甘みのあんこと、力強いカカオニブ。
トーストやパンケーキに合わせたり、お菓子の材料にしてもおすすめのあんこペーストができあがりました。
――これまでに、こうしたコラボレーションの経験はありましたか?
いいえ、初めてです。
これまではOEM商品として他社さんの名前で作らせてもらっていたので、きたかわ商店の名前が表に出ることはほとんどなかったんですね。

近年、低品質な輸入餡の増加による価格競争が進み、国内の製餡業者の数と餡の国内製造量は年々減少しているんです。それが原因なのか、若い方のあんこ離れも進んでいます。そんな状況だからこそ私たちは、心から美味しいと思ってもらえる本当のあんこの味を伝えるために、「きたかわ商店」のあんこの魅力を発信することが大切なのでは、と考えるようになりました。

今回のAPeCAさんとのコラボレーションを通して、ひとりでも多くの方においしさを伝えられたらいいなと思いますね。

【商品概要】
KITAKAWA ANKO PASTE
カカオニブ入りほか、つぶあん、こしあん、オリーブオイル入りの4種を展開
価格
・カカオニブ、オリーブオイル:800円
・こしあん、つぶあん:600円
容量:200g
公式サイト:http://kitakawashoten.jp/
販売サイト:https://issunboushi.buyshop.jp/
【Profile】

内藤和起(Waki Naito)
株式会社きたかわ商店 3代目代表
<きたかわ商店の歴史>
M33年 1月23日
北川製餡所創業(北川勇作)
43年12月28日
和歌山市東紺屋町に和歌山支店設置
S32年11月18日
日本最初の輸入豆許可受ける
33年 5月16日
北川製餡㈱設立
56年12月 2日
和菓子の店一寸法師開店
H11年10月28日
内藤和起 社長就任
22年 10月28日
小幡寿康先生との出会い
R 2年 9月17日
ANKO PASTE(あんこペースト)新発売