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カカオとコーヒーが出逢う場所で。 猿田彦珈琲 大塚朝之×カカオハンター 小方真弓 vol.1

2011年の初夏、大塚朝之は、東京・恵比寿にスペシャルティコーヒー専門店「猿田彦珈琲」を開いた。一方、「理想のカカオ」を探し求めて世界中を旅し、現在は南米コロンビアでカカオの生産者支援とファクトリーを営む、カカオハンター小方真弓。コーヒー豆とカカオ豆をめぐる、甘くて苦くてちょっぴり酸味もある語らい。その1回目。

 

カカオとコーヒーが出逢う場所で。 猿田彦珈琲 大塚朝之×カカオハンター 小方真弓 vol.1
カカオとコーヒーは、少しだけ離れた姉妹か兄弟。

コーヒーとチョコレートの相性は抜群だ。おいしいコーヒーの隣に、もしチョコレートバーのひとかけらがあれば、最強の組み合わせとなる。

 かつて世界中で大ヒットした、アメリカの連続テレビドラマ『ツイン・ピークス』で、主人公のFBI特別捜査官、エージェント・クーバー(カイル・マクラクラン)は、毎日ドーナツ片手にコーヒーを飲んでいた(または、コーヒー片手にドーナツを食べていた)。さらに、部下に向かって、その組み合わせの「最強さ」を熱く語っていた。このドラマではもうひとつ、「コーヒーとチェリーパイ」という、さらなる「最強のカップリング」も頻繁に登場していて、放映当時、アメリカはもちろん日本でも「チェリーパイ大ブーム」が湧き起こった。『ツイン・ピークス』は、観ていてコーヒーが無性に飲みたくなるドラマだった。

 

「なぜ、コーヒーとチョコレートは、相性抜群なんでしょうね?」とカカオハンター小方真弓に訊くと、「油脂(あぶら)がコーヒーに合うんですよ」と小方は言った。

「チョコレートは成分の40%くらいが油脂です。コーヒーは油脂と合うんだと思いますよ。ドーナツも油ですから」

 なるほど、そうだったのか。さらに小方は、「カカオ豆とコーヒー豆は、少し離れた姉妹か兄弟みたいなものですから」と話を続けた。

「赤道を真ん中に北緯と南緯それぞれ25度以内ほどが、コーヒーベルトと呼ばれる地域です。私たちが飲んでいるコーヒーのほとんどが、そのコーヒーベルトにあるコーヒー農園からやって来ています。一方、カカオベルトは、赤道から北緯・南緯それぞれ20度くらい。コーヒーの樹は少し海抜の高い土地、涼しいところを好み、カカオの樹は熱帯地域で育つから、生育する環境や土壌は異なっています。でも俯瞰して見れば、コーヒーベルトとカカオベルトは重なっている部分が多いので、コーヒー豆とカカオ豆は、少し離れた場所にいる姉妹か兄弟のようなもの、とも言えるように思います。また、コーヒーもチョコレートも、ロースト、発酵など、いくつか共通する過程を経て商品になっていきますよね。カカオ豆の方がより複雑ですが。とにかく、コーヒーとチョコレートは、一緒にいただくと、お互いを引き立て合える、まさにパーフェクトなカップルだと思います」

 

カカオとコーヒーが出逢う場所で。 猿田彦珈琲 大塚朝之×カカオハンター 小方真弓 vol.1
猿田彦珈琲とカカオハンターの出逢い。

大塚 小方真弓さんの名前はもちろん知っていました。いろんなメディアに登場して、カカオの世界ではめちゃくちゃ有名な方ですから。僕が初めて小方さんと直接お会いしたのは2〜3年前でしたよね。あるとき、僕のコーヒーの師匠でもある丸山さんから(丸山健太郎「丸山珈琲」創業者)、「小方さんのチョコレートは最高においしいから、一度食べてみないか」と言われて食べたんです。ものすごくおいしいと思いましたが、丸山さんの知り合いだからと遠慮していた。すると、丸山さんがある日、「猿田彦で小方さんのチョコレートを扱ったら?」と言ってくださって。それで小方さんと直接会えることになったわけですが、会ってみたら、小方さんのプレゼンがすごいんですよ!」

 

小方 ひたすらカカオの話(笑)。

 

大塚 「私の大好きなカカオちゃんが」みたいな感じで、カカオがまるで恋人か我が子のような感じで熱く語り続け、さらに、コロンビアのカカオ農園での苦労話とか、ジャングルの中で虫刺されがひどいんだという話、あと、「カカオ農園では、日本野鳥の会の長靴が重宝する」とか(笑)。話があちこち展開するんですが、どんどん引き込まれてしまう。そして、話の真ん中にはいつも「カカオちゃん」がいたんです。

 

小方 猿田彦珈琲さんに声をかけてもらえたのは、すごく嬉しかったんです。私、毎日たくさんコーヒーを飲みますが、もともと猿田彦珈琲のコーヒーが好きでしたから。いち客として猿田彦は利用していたんですが、スタッフの皆さんがやさしくて、コミュニケーションもとりやすくて、いいんですよね。私は自分たちのことを、「カカオを使ってもの作りをしている人たち」と考えているんです。だから一緒に仕事をするときには、相手の人たちがきちんと見てくれているか、理解して一緒に作ろうとしてくれているか、というところが大切なんです。

 

大塚 猿田彦珈琲の池袋店では、小方さんのカカオを使ったパンを作っているわけですが、僕は最初、小方さんが気持ちを込めて作ったチョコレートを「パンに使いたい」なんて言ったら怒られないだろうか、ってものすごく不安だったんです。でも、小方さんは僕らのことを理解してくれて、「それならば」といろんなアイディアまで出してくれました。

 

カカオとコーヒーが出逢う場所で。 猿田彦珈琲 大塚朝之×カカオハンター 小方真弓 vol.1

小方 最初はドリンクに使ってくださったんですよね。私たちのチョコレートを使ってカフェモカを。とてもおいしかった。このパンもすごくおいしいです。沖野さんが焼くパンは、やさしい味ですよね。(沖野さんとはパン職人の沖野高司。猿田彦珈琲の池袋店には、同社がプロデュースするベイカリーブランド「オキーニョ(Oquinho)」が入り、日々たくさんのパンを焼いている。カカオハンター小方真弓が手がけるチョコレートを使ったパンも)

 

大塚 猿田彦珈琲でパンをやる前に、僕は沖野さんと一緒にスペインとフランスを旅してきたんです。「本場のパンの取材、勉強」と称して。スペインでは観光地巡りもして、2人とも楽しんでいたんですが、パリに入った途端に、沖野さんの目つきとテンションが変わりました。沖野さんは、パリでは文字通り朝から晩までパンを食べ続けていた。1日30軒近くブーランジェリー(フランスのパン屋)を回るんですよ! 一緒についていた僕は、「俺、コーヒー大好きだけど、そんなに飲めないわ。この人すごい!」って思いました(笑)。沖野さんは心底パンが大好きで、いつも小麦やパンのことを考えている人なんです。

 

小方 そんな人に遣ってもらえるカカオちゃん、幸せですよ。

(敬称略)

 

文・写真=今井栄一

(写真=新井まる)

 

vol.2に続く

 

【Profile】

猿田彦珈琲

2011年6月に、大塚朝之が恵比寿の街角に小さなスペシャルティコーヒー専門店としてオープン。その恵比寿本店の他、現在は、新宿、原宿、池袋、武蔵小山ほか、各地に。台湾・台北店や、オンライン・ショップも。詳細は上記WEBサイトへ。

 

CACAO HUNTERS JAPAN

カカオハンター小方真弓が、「すべてのカカオの可能性を見出し、チョコレートの香味へと繋げる」をテーマに、コロンビアのカカオ生産者と日本そして世界を結ぶ、カカオ・ファクトリー&カンパニー。オンライン・ショップも。また、この8月、東京駅構内のグランスタ東京に、「チョコを愉しみカカオを学ぶ」をテーマにした初の店舗「CACAO HUNTERS Plus」をオープンした。