千代紙のような美しい和柄が印象的な「千代ちょこ」を始め、繊細な美しさを兼ね備えたショコラにファンが多い「パレスホテル東京」。そのショコラを生み出す小林美貴さんに、ショコラティエールの仕事について、そしてショコラの美しさの秘密について聞いた。

 

文・本間裕子
写真・チダコウイチ
パティシエールからショコラティエールへ
「パレスホテル東京」のショコラティエール  小林美貴さんのショコラが美しい理由

繊細で美しいショコラを生み出す確かな技術とセンスに定評があり、食のプロからも絶大な人気を誇る「パレスホテル東京」のショコラティエール、小林美貴さん。栃木県の葡萄園に生まれた小林さんは、料理好きな母の影響で子供の頃からお菓子作りに親しみ、中学生になる頃には「高校は調理科に進む!」と自分の中で決めていたという。

 

「調理科では、初めて同志に出会えたことが何より嬉しかったですね」と小林さん。和洋中、家庭料理が中心で製菓の授業はなかったものの、卒業制作で作ったクロカンブッシュが先生の目に留まり、「製菓専門の道に進んだ方がいい」とアドバイスを受け、国際製菓専門学校に進学。卒業後は、ベルギー発のパティスリー「ヴィタメール」に就職しパティシエとして順調にキャリアをスタートさせた。「ヴィタメール」が東京第一号店をオープンするに際し、ショコラの製造を兼任することになった。

 

「ショコラは形を自由自在に変化させることが出来たり、スピード感を必要としたりするところが性に合っていたのか、すっかり魅了されてしまいましたね。さまざまな食材とも相性が良く、色を付けられることも魅力。ていねいに手順を重ねた分、確実に美しく仕上がるのも嬉しかったです」。

「パレスホテル東京」のショコラティエール  小林美貴さんのショコラが美しい理由

しかし、仕事に明け暮れる毎日を過ごす中で、小林さんの手に原因不明の不調が現れる。指がスムーズに動かなくなり、「冷凍物は触ってはならない」とドクターストップを受けた。それを小林さんは、「(冷凍物に触れる機会の多い)パティシエールではなく、ショコラティエールの道へ進めというお導きなのかもしれない」と、落ち込んだ時期はあったものの、ポジティブな気持ちで受け取ったという。当時、ショコラティエ(男性)が多かったこともあり、ショコラティエール(女性)として表現できるものがあるのではないかという思いもあった。

 

自分の進む道を決めてからはフランスへ渡り、「フランソワ・ジメネーズ」でショコラティエールとしての経験を積んで帰国。ロッテの「シャルロッテ チョコレート ファクトリー」の立ち上げや、有名ブランドやホテルの焼菓子やチョコレートのOEMを手掛けるメーカーでさらなる経験を重ねた。「OEMメーカーは、スーパー職人チーム。各ホテルのシェフが求めるものを熟知していて、その期待を超えるクオリティーのものを日々生み出していました。職人さんたちがクオリティーを追求する姿からは学ぶことが多く、今でも心の師匠です」と小林さんは頷く。

 

誠実な仕事で美しさを隅々まで行き渡らせる

ショコラティエールとして様々な経験を積む小林さんに、リニューアルオープンを控えた「パレスホテル東京」から声がかかったのは2012年のこと。当時、小林さんは27歳を迎えたばかり。ホテルのイメージ同様、ラグジュアリーなショコラを提案していくというコンセプト、そして、ショコラ専用の部屋で作業が出来るという恵まれた環境に心が高鳴ったという。

 

「パレスホテル東京」のショコラティエール  小林美貴さんのショコラが美しい理由

現在は「パレスホテル東京」のショコラティエールとして、バレンタイン、ホワイトデーの他、シーズン毎の新作開発に試行錯誤の毎日を送る。「東京駅近くという場所柄、海外からいらっしゃるお客様も多いので、 和のテイストも意識しています。ショコラを通して、パレスホテル東京の世界観を表現できれば。お泊まり いただいたお客様にはその余韻を感じていただき、ビジターのお客様にはぜひ泊まってみたくなるようなショコラづくりを 目指しています」。

 

10月からの半年間が繁忙期になるため、それに備えて半年前から商品開発を始めるという。食べて美味しいと思ってもらえるのが一番の喜びではあるものの、目に触れた時に誠実に作っていることが感じ取ってもらえることも大きな喜びであり、ショコラティエールとしてのやりがい。取材当日も有名百貨店のバイヤーから「こんな美しいフリュイ セック オゥ ショコラは見たことがない」と感想を伝える電話がわざわざ入るほど、小林さんの生み出すショコラには確かな美しさが備わっている。

 

「パレスホテル東京」のショコラティエール  小林美貴さんのショコラが美しい理由

「パレスホテル東京」のシグニチャー、千代紙や着物の模様など日本の伝統美を取り入れた厚さ約2mmのショコラ「千代ちょこ」も小林さんらしい繊細で美しいショコラだ。一度、その作業工程を目にした海外の有名ショコラティエは「とんでもないことをしているね」と驚きの声をあげたという。「。“千代ちょこ”は千代紙をモチーフにした和柄を採用し、一枚一枚カカオ含有量が異なっています。見た目だけ でなく味にもこだわったっており、国内にお住まいのお客様はもちろん、海外からのお客様にも大変好評です」。転写シートは、割れれる、剥がれるなど細心の注意を必要とするが、小林さんは几帳面な作業を持ち前の集中力で楽しめているようだ。

 

ショコラティエールとして心がけていることは?という問いに対しては、「美しいモノを気に留めるようにしている」と即答。「自分が美しいと感じたモノに対し、何に惹かれたのか、どうして美しいと思ったのかを因数分解して、言葉にしてみるようにしています。自分自身の感じる美しさの秘密を理解することが、ショコラ作りの糧になっている気がします」。

 

「パレスホテル東京」のショコラティエール  小林美貴さんのショコラが美しい理由

小さな一粒を一日で何千個も作ったり、同じ仕事を何時間も繰り返したりすることもあるので、一番大切なのは持久力。ショコラのツヤを出すために行なうテンパリングは、精神状態が表れるため、時間を見つけてはヨガで心と身体を整えるのが日課。現在は母校である宇都宮短期大学附属高等学校の調理科で一年に一度、講師を務めることが大きな喜びだ。

 

「ショコラは日本ではまだまだ高級なものというイメージが強いのですが、もっと身近なものとして浸透していけるように、新しいショコラを提案していきたいです。いつか実家の葡萄園とコラボレーションするのも秘かな夢です」と小林さん。これからも小林さんが生み出す繊細で美しいショコラに注目だ。

 

 

 

パレスホテル東京

ペストリーショップ「スイーツ&デリ」

住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-1-1 地下1

電話:03-3211-5315

オンラインショップ:http://www.palacehoteltokyo.com/shop

 

 

 

文・本間裕子

編集者・ライター。大学卒業後、(株)INFASパブリケーションズに入社。ファッション週刊紙「WWD JAPAN」、コレクションマガジン「FASHION NEWS」の編集を経て、美容週刊誌「WWD BEAUTY」に創刊時より携わる。退社後、フリーランスの編集・ライターとして、化粧品、食料品メーカーをメインクライアントに、ブランディング、広告制作等に携わる。甘いものは得意ではないが、カカオは大好きでコーヒー、赤ワイン、ラムに合わせて日常的に食している。料理家など食に携わる人たちとの交流が深い。

Instagram:@uozazaza