フーズカカオ代表の福村瑛(ふくむらあきら)氏との出会いは、ツイッターのタイムラインだった。インドネシアからカカオ豆を持って帰りたいが、植物検疫に引っかかるのか分からなくて困っている、そんなツイートを見かけた。面白い人がいるなぁ……と思ったものだった。ツイートを遡るに、彼は「チョコレートの原材料が作られている現場をみてみたい」その好奇心だけでインドネシアに飛んだようだった。同じようにチョコレートが好きで、カカオを見てみたいと思いつつも、当時現地にまで足を運んだ経験のなかった私は、その行動力に惹かれ、つい協力したくなった。カカオに詳しい友人たちに状況を相談し、返ってきた内容を氏に伝えた。私と彼の関わりはその時から始まった。当時の彼は、ベンチャー企業の社長ではなく、好奇心の強い一人の若者だった。

 

文・カデカワミズキ

写真・チダコウイチ

日本とカカオ原産地の付き合い方を変えていく。Whosecacao(フーズカカオ)代表・福村氏を見つめて。
オフィス兼工房の前で

インドネシアから帰ってきた福村氏は、さっそく、カカオ豆からチョコレートを作ってみたい!と、手作りチョコレートを試しに作り始める。もともとはベンチャー企業に勤めていた彼だったが、ベンチャー勤めの人間らしいチャレンジ精神を発揮し、あれよあれよと言う間に起業への道を走っていった。カカオ産業を変える事業を興すにはまず勉強からと、蔵前のダンデライオン・チョコレートに入社。面接ではあらかじめ、起業のために勉強させてもらいたい旨を素直に伝えたという。それで受かったのだから、ダンデライオンは懐の広い企業だなと思ったものだ(今でもダンデライオン・チョコレートは、日本のクラフトチョコレート業界を牽引している。情報を惜しみなく共有すること、協力して業界を盛り上げることを大事にしてくれている)。

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取材日に工房にいらしたのは、福村さんと、レシピ開発・製造を手掛けるプロダクト責任者の岡さんだった。美味しさ、クオリティに対するこだわりを持つ職人肌に、事務作業をテキパキとこなす処理能力、自分の意見をはっきりと伝えるベンチャーでの意見交換に必要な素質を兼ね備えた岡さんは、フーズカカオを陰で支える逸材だ。

Whosecacao(フーズカカオ)は初め、彼が初めて訪れたカカオ産地であるインドネシアの農園の管理、カカオ豆の輸入販売から始まったが、その後、タイ王国でもインドネシアの知見を求められたことから、タイのカカオ農園にも手を広げた。また、カカオを製菓材料として卸す事業をメインとしながらも、カカオにとってどういったカタチが1番美味しいのかを知っているのは自分たちである、という自負と、原料販売では分からない消費者の反応を見るためにお菓子ブランドとして「カカオがいちばん美味しいカタチで、 もっとたくさんの人に届くこと。」をテーマにCROKKA(クロッカ)を立ち上げる。

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美味しい原料をつくるには、自分達で最終商品を作り、そして直接消費者に届けることで自分たち自身が作り手と食べ手の気持ちを理解することが必要なのではないか。これが福村の考えだ。まだ開業まもない原料屋であるフーズカカオが原料以外に手を出すことは得策とはいえないのかもしれないし、社内外でも幾度となく「フーズカカオは原料屋なのだから、原料に集中した方がいいのではないか」という意見があった。それでもクロッカというブランドを残したのは、そういった生産・加工・製造までの一連の流れを知ることで、より良い原料としてのカカオを生産できる、という自信があるからだ。

 

結果的に、原料屋である自分たち自らがお菓子を作ることで、どのような原料がお菓子に向いているか、求められているかを知ることができた。直接販売をしていると、お客さんには何が喜ばれるのか、お客さんが美味しいと思うものと自分たちが美味しいと思うもののズレや共通点が見えてきたのだという。

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クロッカには、他にも大事な役割がある。それは、フーズカカオのメイン事業であるBtoBの原料販売において役立つ、ということだ。フーズカカオの取引先は、カカオ豆から板チョコレートを作る「ビーントゥバー」方式のお店だけではない。ケーキ、焼き菓子、パフェといったデザートを作るパティスリーやカフェがある。そのような場所で、カカオだけをサンプルに渡しても、どう使えばいいのか、最終的にどんな風味になるのか、といったイメージを持ってもらえない可能性がある。クロッカという、フーズカカオが自社開発したカカオを美味しく味わうお菓子があることが、カカオがどのようにしてお菓子として活かせるか、という一つのアプローチになっている。

 

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地道ながらも、コツコツと取引先や流通量を増やしてきたフーズカカオだが、その認知度はまだまだ低い。

 

福村氏から聞いた話の中で、印象的なことがあった。インドネシアの農園では、ヴァローナ(フランスの大手チョコレートメーカー。主に製菓材料としてのチョコレートをメインに販売している)との取引経験があるカカオ農家の方々がいて、彼らはそれをとても誇らしく思っているという。ヴァローナといえば、世界中のパティスリーで質の高い製菓材料として選ばれているチョコレートブランドだ。鼻が高くなる気持ちも理解できる。

 

福村は、フーズカカオもそんな存在にしていきたい、と話す。考えてみれば、国内のチョコレートメーカーは、質の高い商品こそあれ、ヴァローナ社のようにブランドとして消費者に認知されているケースがほとんどない。自社原料の質の高さを、直接的なクライアントであるパティスリーやショコラトリーの作り手たちだけでなく、間接的なクライアントである消費者にまで知ってもらうことには、大きな意味がある。ブランディングができれば、購入者の購入意欲が刺激され流だろうし、作り手たちも積極的にフーズカカオの素材を取り入れることができるだろう。何より、ブランドとして大きく成長すれば、前述したように生産者たちにも、著名なブランドに選ばれているという自負を与えることができる。

 

日本とカカオ原産地の付き合い方を変えていく。Whosecacao(フーズカカオ)代表・福村氏を見つめて。
フーズカカオ代表・福村氏とインドネシア・エンレカン県の農園の皆さん。(提供:Whosecacao)

フーズカカオの大きな目標は、国内で流通しているカカオを数千トン、1万トン単位で彼らが扱っているようなスペシャルティカカオに変えていく、というものだ。しかし、現在のスペシャルティカカオのチョコレート原料は、一般に流通しているカカオと比べ価格の開きが大きく、誰もが頻繁に手にできる価格ではない。この問題は、買い付け量の増大と生産の効率化によって解決していけるだろう、というのが福村氏の考えだ。

 

補足:

FCCI(Fine Cacao and Chocolate Institute)は、スペシャルティカカオについて以下のように説明している「バルクで取引がなされるコモディティカカオ市場における取引価格よりも、品質が高く高価で取引されることを意図し、細部にこだわって作られたカカオのこと」

引用元(英語サイト)

https://www.chocolateinstitute.org/

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生産から販売までの中間コストには、輸送はもちろん、加工にかかっている部分が大きい。加工コストを削減するには、一度に大量のカカオ豆を加工してしまうことだが、これがまた難しい。カカオ豆からチョコレートを大量に作るには、多くの工程と、それに伴う専用の機械が必要になる。大手の工場に設置されるようなチョコレート専用の大型機械は非常に高価であり、かつ設置するための広い場所を必要とするため、すぐに設備を整えることは難しい。

 

将来的にはカカオ農園地域での原料加工を完結させることを目指しているフーズカカオだが、現在は加工ノウハウの蓄積と日本人の嗜好性に対する商品設計を目的とし、世田谷区奥沢のラボで商品加工を行っている。人の手を多く必要とする加工プロセスを取っていることを考えると、原料加工コストはまだまだかかってしまっている状態と言えるだろう。事業の成長と共に、常に設備投資を先駆け、加工を効率化し、品質と消費者の需要に対応するだけの柔軟性を保ったままコストダウンを行う、というのが当面の課題であるようだ。今できる投資でより良い設備と商品開発を、と福村は考えている。

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しかし、どんなに価格を抑えていっても、スペシャルティカカオの価格が、現在流通しているカカオと同程度の価格にはならないだろう。たとえフーズカカオ1社の力でなくとも、スペシャルティカカオを現在の市場の主流にしていくということは、カカオの流通構造そのものを変えていくことに他ならない。

 

現在、我々が安くおいしいチョコレートを食べられているのは、植民地時代に形成されたネットワークの利益を享受をしているからだ。生産国の人件費が安いからこそ成り立っている価格である。加工国の日本では、1枚100円程度でチョコレートが食べられる。

 

カカオ豆を輸入し、チョコレートを作る加工国側が「買い叩く」という面がある一方で、チョコレート加工国はカカオを「買い続けて」きた。求められなければ農作物は育てられない。チョコレートが作り続けられなければ、原材料であるカカオはもっと少なかったかもしれない。それに定期的な収入は生産者にとって重要だ。このようなことを考えると、現在のカカオ市場、流通の構造の全てを否定するのもまた、極端な話だろう。

日本とカカオ原産地の付き合い方を変えていく。Whosecacao(フーズカカオ)代表・福村氏を見つめて。
提供:Whosecacao

しかし、それでもやはり、生産者に支払われる対価の少なさは問題視するに値する。カカオは決して生産の楽な農作物ではないのだ。手作業で収穫し、収集し、木の実であるカカオポッドを割って、発酵させ、乾燥までして初めて売れる、言ってしまえば非常に手間のかかる農作物である。

 

より質の良いカカオを生産してもらい、生産者にもより多くの報酬が支払われるというフーズカカオの取り組みに、私は賛同する。ただ高い報酬を支払えばいい、支援すればいい、ということではないと考えるからだ。カカオの買い手が、クオリティに応じた賃金や情報提供を通して、継承可能な技術を根付かせることに協力することが大事ではないか。そうすれば、カカオはより、あらゆる意味で持続的で品質的にも安定した農作物になるはずだ。

 

このようなカカオにまつわる問題は、私たちを取り囲む全てのモノにも当てはまる。

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昨今、SDGs、なんて言葉が世間では叫ばれているが「持続可能」であるとはどういうことか。それはなぜ必要なのか。私たち一人一人はどうすればいいのか。一筋縄には行かない問題を、私たちは自分自身で考える必要がある。

 

ああ、甘いチョコレートの話をするには、少々真面目が過ぎただろうか? でも。

 

私は、フーズカカオが今より良い仕組みづくりを目指しているように、絶望ではなく、希望を持ってこの社会と対峙したい。私はチョコレートが大好きだ。大大大好きだ。できれば死ぬまで食べたい。それに、後世の人たちにも、おいしいチョコレートを食べてほしい。だから考えたい。自分なりに、できることをしたい。久々に福村さんと話して、そんなことを思った。

 

 

 

文・カデカワミズキ

チョコレートおたくのフリーライター。子どもの頃はチョコ嫌いだったが、ハイカカオが世に出てからはチョコ好きに。クラフトから大手まで、幅広くチョコを愛しています。現在は都内大学で哲学を専攻。「食べる」という行為を考えていきたい。

twitter:@mizuki1010uk