今年2月に発売したばかりの宮西達也さんによる絵本「でんせつのチョコレート」。チョコレートをきっかけに繰り広げられる冒険とハートフルな物語は、子どものみならず世代を超えて楽しめる一冊だ。本に込められた思いや、大ベストセラー絵本「おまえうまそうだな」をはじめ、世界中で愛される絵本の創作について伺うと、子供の頃の記憶やそこから無限に広がる発想を、目を輝かせながら語ってくれた。

 

写真/チダコウイチ

取材・文/西村依莉

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話
「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

宮西さんは静岡県駿東郡清水町出身。現在はお隣の三島市にギャラリーを運営していて、今回はそちらへお邪魔した。ちょうど桜の時期で、すぐ近くにある三島大社は花見客で賑わっていて、コロナ禍でなければギャラリーも人の出入りが多かっただろう。現在は感染対策で予約制となっているが、それでもふらりと「入れませんか?」と立ち寄る人が少なくなかった。このギャラリーの他に、東京と三島に家とアトリエを構え、コロナ禍以前は行き来する生活。以降は三島にいることがほとんどになった。

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話
「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

「僕は三島で育ったし、ここは新幹線が止まるから編集者も来てくれやすいし便利なんですよね。地元に恩返しをしたかったのと、仕事場とはまた別の、読者のみなさんとコミュニケーションを持てる場を持ちたくて、2017年にオープンしました。コロナ禍からはほとんど東京へ行くことがなくなったけど、たまに東京で編集者と飲んで酔っ払った時は東京の家で寝るから、大事な拠点です(笑)。

地元の魅力はなんと言っても、自然豊かで水が美味しいところ。環境が創作のヒントになるからここにいるということでもないんだけど、やっぱり地元が好きなんですね。友達もいるし、土地勘もあるし。あと僕はカントリーボーイなので、ごちゃごちゃしたところが好きじゃなんですね。シティ派じゃないんですよ(笑)」

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話
「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

とはいえ、描く場所にはこだわらない。机さえあればどこででも描けると話す。場所もそうだし、画材も臨機応変に変える。水彩、クレヨン、色鉛筆。もちろんデジタルも。どのタッチで描こうと「読む人が楽しい気持ちになる」ということを何より大切にしてる。

 

TBS系列の人気番組「マツコの知らない世界」で読み聞かせたい絵本として紹介された『あなたがとってもかわいい』は宮西さんの代表作のひとつ。親目線でこどものさまざまな愛らしさをつぶさに描いたこの本は、放送の翌日には、あらゆるネット書店で売りランキング1位になった。「本当にいい絵本なのに、マツコさんのおかげで売れたみたいになっちゃった」と宮西さんは笑うが、こうした親近感を覚える表現のヒントやインスピレーションって、一体どんなところ得ているのだろうか?

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

「大体が子供時代の記憶なんですよね。水が豊かで森や林がある、自然の中で遊んで僕の感性は育まれました。幼い頃に感じたことや感動したこと、体験した出来事がほとんど本になってるんです。『そういう記憶ってだんだん忘れていってしまわないですか?』なんて聞かれることもあるけど、僕、全然忘れないんですよ!

たぶんね、それが特技なんだと思う。かなり覚えてるんですよね。日記なんて全然つけてないけど、あの時のことははっきり覚えてるということが、普通の人でもいくつかあると思うんです。自転車買ってもらって最初に乗った時、すっごく嬉しかったなー!あの交差点を曲がって……とか、そういう記憶。初めて食べたカキフライ、さいっこうに美味しかったなー!とかね。これは僕の話なんですけど(笑)。カキフライを初めて食べたのは、小学校5年生の時で、父にバイクに乗せてもらって、伯母がやっている旅館に行った時。腹ペコだった僕に伯母が『たっちゃん、お腹すいた?』って、揚げ物を出してくれたんですよ。『なんだろう?コロッケの小さいやつかな?』と思ったら『これはカキフライだよ』って言われて。その時のカキフライの味がいまだに忘れられない!いやーびっくりしましたよ。食べたことがない味でしょ?まして牡蠣じゃないですか。子供からしたら、『大人の味だ』と思いましたね。そんな感動を一つ一つ覚えてて、練って作品に描いていってるんです」

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

宮西さんの思い出話は、まるでつい最近体験したことかのように臨場感たっぷり。遠い記憶も、ささやかな出来事も、面白おかしく話してくれる。その楽しさを入り口に、伝えたいメッセージを届けている。

 

「もちろん、創作のヒントは子供時代からだけではなく、大人になって、例えば今、ロシアがウクライナに攻めていって戦争をしているけど、どうしてみんな戦争がいけないとわかっているのに、戦争をやるんだろう?とか、そういう日々思ったこと、感じたことも絵本で表現したりもするし。子供時代のこと、今思っていること。それから子育てしてた時の視点。この3点が創作の大きな柱かな。だけど子育てしてた時の視点って、一番少ないんですよ」

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

大人になってからの記憶の方が鮮明だから、幼い頃の記憶が元になった作品が多いとは少し意外な気もするが、初めての経験による感動のインパクトが発想の種となっていると言う。新刊の『でんせつのチョコレート』の場合だと、どう言う“初めて”が落とし込まれてるのだろうか?

 

「この本はね、チョコレートありきだったんですよね。ちょっとイレギュラーな作り方だったかな。他の本は縛りがないから、さっき言ったみたいに自分の感動や体験を元に考えるんですけど、『でんせつのチョコレート』はチョコレートの作り方を載せるという決まり事があったんです。だけど、パンフレットみたいな本は作りたくはないし。チョコレートと言ったら、小学校の頃にもらったバレンタインデーだ!と思いまして。チョコレートを初めてもらった時の記憶や、ふられた時の記憶から始まっています。チョコレートについてだけ描こうとすると本当に小さい世界になってしまう。それならば、逆にものすごい広い世界のお話にしようと思ったんです。そしたらもう、大冒険しかない!子供時代って、大冒険してるんですよね。秘密基地を作ったり、よくわからない竹藪へ行ったり。この本はまさにそういう冒険譚。ほんとはね、最後結婚するところまで入れたかったんだけど、ちょっとページが足りなかったですね(笑)」

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話
「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

宮西さんはそう話すが、身近に感じるエピソードから、めくるめく大冒険、チョコレートの作り方まで知れて、伏線回収もばっちり。優しさや愛情に繋がる壮大かつハートフルなストーリーは年齢問わずに楽しませる内容だ。そして何より「チョコレートを食べると幸せな気持ちになる」というメッセージが宮西さんのチョコレート好きぶりを物語っている。『でんせつのチョコレート』には、カカオ豆からチョコレートができるまでを説明しているくだりがあるのだが、複雑な工程を楽しく読ませるものにするには、なかなか苦労があったのでは?

 

「たくさん資料を見て考えたんですよね。人によって作り方が違うこともあるし、どう描けばいいかな?と。子供が見てわかりやすいのはこれかな、と総合的な手法をベースに描きました。いつも食べているものができるまでの工程を知ることは食育にもなるし、食べることへの好奇心を煽りますよね。バナナの皮を使ったり、現代的な手法じゃないんだけどね。パンフレットみたいにならないように、主人公の猫が島で出会う雌猫『アモル』が喋ったことにしたんですよ」

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

宮西さんの作品には、猫に限らず色々な動物が登場するが、それも子供の頃の経験が元になっている。今は犬2頭と暮らしているが、昔は犬も猫も飼っていたし、ハリネズミやハツカネズミ、モルモットやウサギなど、いろんな動物を育てた。そんな思い出がキャラクターとなって作品に登場する。それぞれの役割や理由があって登場するキャラクターは、時に実在しない生き物で表現することも。世界中で翻訳され、幾度も映画化されたベストセラー『おまえうまそうだな』だと、主人公はティラノサウルスだ。

 

「僕がまだ新人だった頃は生活なんてできなくて、アルバイトしながら、必死になって描いて、持ち込みして。段々仕事が増えて、印税が入って、食卓が潤って。売れてくると、世の中の子供たちが『お金を持ってる人はすごい人。大きな家に住んでて偉いな、大きな車に乗っててすごいな』って言うようになったんです。だけど僕はそんなことがすごいことじゃない!って思って。僕は普通の家とほしい車を買ったけど、人の価値は、そんなことで決まらないんだ、というテーマで書きたかった。金、地位、権力の象徴になるようなキャラクター…狼じゃないよな~、キツネでもないし。すげえやつがいいんだけどな、そうだ、恐竜だ! それも一番大きかったT-REX、ティラノサウルスだ!と閃いて、お金と地位と名誉と力の象徴にしたんですよ。かたや出てくるのは草食恐竜アンキロサウルスの赤ちゃん「ウマソウ」。赤ちゃんって、お金も力も権力も持ってない。この子はただ単に無邪気で優しさと思いやりの心しかない。そんな心とお金と地位と名誉と力の象徴のティラノが相まった時に、人はどっちを本当に素敵なものだ、いいなと思うかなと考えて出来上がった本なんです」

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

普遍的なコンセプトを持つ宮西さんの作品の中でも『おまえうまそうだな』は特にファンが多く、「ティラノサウルス」が主人公のシリーズは、その後14冊刊行され、テレビアニメ化に加えて3度の映画化にとどまらず、何カ国もの国で出版された。アメリカ、フランス、ドイツ、韓国、マレーシア、ポーランド…国や文化を超えた、琴線に触れる物語だ。

 

「ギャラリーには各国の『おまえうまそうだな』が揃ってるので、読み比べるてみるのも面白いですよ。国によって色もずいぶん違う。ちなみに、日本の印刷が一番きれいでいいですね。信頼度が違いますよ。ファンキーだったのは中国かな。原画と色が全然変わって出てきたりして(笑)。国の個性が見えれて面白いですね」

 

「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話
「でんせつのチョコレート」制作秘話と作者・宮西達也さんの話

ギャラリーは宮西さんが在廊できる時のみオープンする不定期営業。読み比べて、ご本人から色んなお話が聞けて、オブジェやグッズまで揃っていて、宮西さんの世界を思う存分楽しめる場所。ただし、先にも書いたように感染対策のために現在は完全予約制となっている。

 

来店予約は下記URLから。ぜひ一度、宮西さんの世界を体感してほしい。

 

 

 

TATSU’S GALLERY

静岡県三島市中央町4-10

https://ssl.form-mailer.jp

 

 

 

文 : 西村依莉

編集者・ライター。1960~70年代を中心とした昭和期のカルチャーと猫やファッション、ライフスタイルをテーマに書籍や雑誌、WEBで活動中。近刊に『スペースエイジ・インテリア』(グラフィック社)、『桂浜水族館公式BOOK ハマスイのゆかいないきもの』(実業之日本社)など。

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