北海道・旭川市は、100年以上続く「家具の街」として知られる。近郊に良質な森林資源が豊富にあったことから木材の切り出し場として栄え、ナラ材を「OTARU OAK」としてヨーロッパに輸出。婚礼用の箪笥を、地元のミズナラやタモなど広葉樹の木材でつくり、全国に供給してきた家具生産の一大拠点だった。未来に繋がるモノづくりを志向する、造形作家と家具職人を訪ねた。

 

文・本間裕子

写真・チダコウイチ

 

椅子に想いを託して
豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

家具の街、旭川に、造形作家の荒木孝文さんが主宰する「kochia craft design laboratory(コキアクラフトデザインラボラトリィ)」はある。

神奈川県横浜市の出身の荒木さんが北海道に移住したのは、高校生の頃のニセコ通いがきっかけ。「大好きなスノーボードが思う存分できて、以前から関心のあったモノづくりができる場所がいいな」という想いから、旭川にある東海大学芸術工学部に進学。ミッドセンチュリーのモダンファニチャーや北欧を中心としたヨーロッパの家具と、戦後の日本の家具デザインを専攻した。学ぶほどに家具デザインへの興味は増し、大学院に進み椅子の研究を続けた。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

「伝承され続ける知恵と工夫が美しいデザインに落とし込まれた生活の道具として、椅子にとにかく惹かれます。イギリスのアーコールをはじめ、デンマークやスウェーデンの大衆椅子の佇まいが特に好きですね」と荒木さん。

 

最初に就職した京都のデザイン事務所では暮らしの道具への関心を深め、その後、「自分で手を動かしたい」という想いから岐阜・飛騨高山の北欧家具をライセンス生産する家具メーカーに転職。同社では木工の現場と設計や復刻などを担当した。再び旭川へ戻り、イタリア系家具メーカーのファクトリーにて研究開発職に就いた。研究開発に従事する傍ら、「いつか自分の手でモノづくりの研究をする際に使いたい」と集めていた資料や機材を置く場所を探していた折、荒木さんは運命の出会いをする。「ギャンブレル屋根」の大きな厩舎だ。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

「本当に一目惚れでした。屋根裏を見た瞬間に、ここを自分のアトリエにするしかないと思いました」と荒木さん。「kochia craft design laboratory(コキア クラフトデザインラボラトリィ)」の始まりだ。現在は、家具や生活道具のデザインやオーダーメイドを中心に作品制作を行っている。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

アトリエの一階は工房になっていて、製作のための道具が揃っている。

 

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを
豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを
豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

二階へと上ると、窓から日の光が差し込み、自分がいる場所や時代がわからなくなるような、不思議で心地よい空気が流れているのを感じる。屋根裏には柱も梁もなく、高い天井が開放感を生み出している。近所の農家さんから譲り受けたという木製のカヌーや、荒木さんが愛して止まないという年代物の椅子も所狭しと並び、心地よいアクセントを生み出している。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

そんな荒木さんに『MEMU EARTH HOTEL』の家具製作の依頼が舞い込んだ。「ホテルのカンファレンス棟もギャンブレル屋根だったことが、嬉しい縁を運んでくれました。コンセプトを伺い、自分たちで森を切り拓いて、生活道具を作るようなイメージが浮かび、実用的な中に美しさを備えた家具を作ることを目指そうと思いました」。さまざまな葛藤を経て生まれたのが「Dear SHAKER BENCH」。脚に施された独特のカットは、荒木さんが以前から製作していた、カッティングボードのカタチに由来しているという。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

「生活道具であるカッティングボードは、立てかけた時に接地面を少なくすることで、手入れがしやすいようなデザインにしています。椅子の脚も点で支えるのは同じなので、取り入れてみたら、空気が抜けるような気持ちの良いものになりました。実際に『MEMU EARTH HOTEL』の空間に溶け込むように配置された瞬間は、今でも忘れないほどの喜びがありましたね」。「Dear SHAKER BENCH」は、これまでの荒木さんの経験や哲学を、その静かな佇まいに内包している。

 

「家具職人さんやクラフト作家さんがたくさんいる旭川には、本当に学びの多いところです。モノづくりの喜びを共有できるこ人に囲まれていることは本当にありがたいです。魅力的な方達もたくさん移住してきて、旭川がさまざまなカルチャーが交流する拠点になってくるのではないかと楽しみ。モノづくりを通じ、地域に恩返しできたらと思っています」。デザイン事務所kochiaではデザインのメーカーとして、主宰する ギャラリィ箒木では作品紹介や研究発表を行っている。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを
使い捨てない、長く愛す家具を

新たな素材が生み出される中にあって、今なお多くの家具に木材が選ばれてきたのにはたくさんの理由がある。軽くて強いこと、色合いや木目、経年変化により変化する姿を楽しめること、見た目にも温もりが感じられること。挙げればキリがない木の家具の魅力を大切に次世代に繋げたいという想いで活動するのが、旭川も家具工房、「AISU project (愛すプロジェクト)」。家具のデザインから制作までをほぼ一人で手がけるのが、家具職人の小助川泰介さんだ。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

函館市で生まれ育った小助川さんは高校卒業後は建築の道を志すも、英語を学んで世界を広げたいという想いからアメリカへ留学する。さまざまな経験を重ねる中で、子どもの頃から好きだった、モノづくりの道へと徐々に向いていく。日本に帰国すると、旭川のメーカーで家具職人としての道を進みはじめた。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

家具づくりに没頭する日々は充実していたものの、せっかく作った店舗の什器などを、使いまわせないことを理由に捨ててしまうしかない現状に心が痛んだという。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

「家具に使われる木は、数十年、数百年という年月をかけて育つもの。そして大きく育った木を伐り、乾かし、木材として使えるように加工するのにも、月日を費やします。一本の木には尊い時間がたくさん詰まっているからこそ、『使い捨てない、長く愛す』をテーマにしたモノづくりをしていきたい。その想いが『AISUproject』の起点です」。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

生活様式も多様化する時代。一人ひとりの暮らしに寄り添いたいからオーダーメイドの家具づくりを。手入れをしながら長く使って欲しいから、シンプルで飽きの来ないデザインを。小助川さんが作る家具はまわりの空気を整えるような温かさがある。まさに「simple is rich」といえるだろう。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

家具を作るときには、使い手はもちろんのこと、森や木々に思いを馳せるという。「森を育てることで、少しでもこの地に恩返しができればと考え道産材の活用に力をいれています。地元の子供たちに『旭川は家具の街』であることを知ってもらえるよう、さまざまなカタチで旭川家具の魅力を伝えていきたいですね」。

豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを
豊かな資源を大切に 新たな循環を生み出す家具作りを

豊かな資源を大切に、未来に繋がるモノづくりの在り方を考える。長年にわたり魅力的な家具を生み出してきた街は、まだまだ進化していきそうなエネルギーを秘めている。

 

 

 

【kochia craft design laboratory(コキア クラフトデザインラボラトリィ )】

デザイン事務所kochia / ギャラリィ箒木

住所:北海道上川郡当麻町4条南3-3-10

電話:0166-56-8686

HP:https://www.kochia-craft-design-laboratory.com

Instagram:@_araki_

 

 

【AISUproject(愛すプロジェクト)】

住所:北海道旭川市永山4条2丁目2-5

電話:0166-49-7736

HP:https://www.aisuproject-mori.com

Instagram:@aisuproject

 

 

 

文・本間裕子

編集者・ライター。大学卒業後、(株)INFASパブリケーションズに入社。ファッション週刊紙「WWD JAPAN」、コレクションマガジン「FASHION NEWS」の編集を経て、美容週刊誌「WWD BEAUTY」に創刊時より携わる。退社後、フリーランスの編集・ライターとして、化粧品、食料品メーカーをメインクライアントに、ブランディング、広告制作等に携わる。甘いものは得意ではないが、カカオは大好きでコーヒー、赤ワイン、ラムに合わせて日常的に食している。料理家など食に携わる人たちとの交流が深い。

Instagram:@uozazaza