〈菓子屋ここのつ〉を主宰する溝口実穂さんと、ライフスタイルコーディネイターの山藤陽子さんは、共にカカオを愛し、その魅力を独自のアプローチで表現した作品を発表している。東京・浅草にある〈菓子屋ここのつ〉で、カカオに魅せられる理由、そして作品に込めた想いについて尋ねた。

 

文・本間裕子

写真・チダコウイチ

カカオ愛は素材へのリスペクトから

菓子職人とライフスタイルコーディネイター。ともすると交わることがないような二人だが、完全予約制の店舗を構え、自分が本当に納得したものだけを提供するなど、いくつもの共通点がある。

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

菓子職人である溝口実穂さんは、東京・浅草で完全予約制の茶寮〈菓子屋ここのつ〉を主宰している。昼と夜に開かれる四季折々の恵みを生かした茶寮は、溝口さんと数名のゲストだけの小さな会。溝口さんがつくり出す料理と菓子の間のような「糧菓」と、それに合わせたお茶を求め、予約受付開始と同時に埋まってしまうほどの人気だ。

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

一方、ライフスタイルコーディネイターの山藤陽子さんは、南青山のヴィンテージマンションの一室に、アポイント制サロン『HEIGHTS』を主宰。五感を刺激する気持ちいいものを独自の審美眼でセレクトし、サロンを訪れるファンは後を絶たない。

 

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

二人の出会いは、共通のお客さまがいたこと。山藤さんが〈菓子屋ここのつ〉を訪れたことを機に意気投合し、忙しい時間の合間を縫っては互いの店に行き来するうようになる。そんな公私共に親しい二人が、近しいタイミングでカカオをモチーフとした作品を発表した。

「茶寮では定期的に『偏愛シリーズ』と銘打った会を開催しているですが、昨年末そのテーマに、カカオを取り上げました。チョコレートは元々大好きなのですが、カカオへ興味を持つようになったのは、製造過程であったり、食材としての奥深さに触れたことがきっかけ。素材としての興味とリスペクトが前提にあるんです」

 

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

「偏愛シリーズ〜カカオの巻〜」では、5つの糧菓を創作。その一つが、「カカオと米粉のクレープ」だ。クレープが包んでいる中身はてんさい糖の柚子キャラメルと熟れた柿。食感が愉しいカカオニブとまるでナッツの風味、マカンボ(ホワイトカカオの種)、冬の香り柚子を飾っている。

 

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ
(※溝口さん提供)

「この組み合わせは、口の中が美味しさで忙しくて、師走にぴったりなひと皿でした。カカオは懐が広い素材であることを改めて確認した感じです」と溝口さんは頷く。

 

カカオは官能を秘めた素材

一方、昨年ボタニカルパフュームブランド「SCENT OF YORK. (セントオブ ヨーク)」を立ち上げた山藤さんも、今年2月にカカオをモチーフにした香りをリリースした。チョコレートと焼いたマシュマロをグラハムクラッカーで挟んだデザート、「S’MORE(スモア)」を表現した香りだ。インドの試薬瓶に収められた佇まいは、美しい存在感を放つ。

 

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

「古くは貴重で神聖なものであったチョコレートは、愛の媚薬ともいわれており、いつか香りで表現したいと思っていました。ガールスカウト発祥のアウトドアデザートの定番デザート、スモアは、英語の『some more』の縮約系でもあることから、“もう少し欲しい”と思わせるような、心を捉えて話さない幸福感を表現しました」と山藤さん。

 

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

上質なカカオとバニラが織りなす甘いハーモニーに、ベルガモットとマンダリンがほのかに香り、どこまでも魅惑的で、幸福感を纏うように心地よさが広がる。

 

「さまざまなパフュームがあると思いますが、『SCENT OF YORK. 』では、センシュアルをテーマにしています。希少な植物たちの香りを調合した、纏う人の魅力を引き出すスイッチになるような香りにこだわっています」と山藤さん。懐かしさのなかに官能が共存する香りは本能に訴えかけ、纏う人の一部になるかのようになじむ。パフュームに苦手意識があったという溝口さんも、「SCENT OF YORK. 」の香りなら、どんなときでも纏えると太鼓判を押す。

 

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

「良質の自然原料から作られた『SCENT OF YORK. 』の香りには、自分になじんで行くような柔らかさ、心地よさがあるんです。カカオの味わいはもちろん大好きですが嗅覚での出会いはとても刺激的。山藤さんの生み出す香りに触れると、人間の感覚の中で一番敏感なのが嗅覚であることがよく分かかります」と溝口さんは言う。

〈菓子屋ここのつ〉的、カカオ糧菓

そして今回特別に、溝口さんがカカオをテーマにした2皿を用意してくれた。

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

 

 

一皿目は、和にも洋にもカテゴライズされない、まさに〈菓子屋ここのつ〉的な糧菓。白いんげん豆とカカオが織りなすやさしい味わいは、一口食べるごとに身体のすみずみまで多幸感が広がる。軽羹に載せられたホワイトカカオの種も、心地よいアクセントとなっている。

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

 

 

続く二皿目は、わらび餅のような見た目であるが、その味わいは全く別物。カカオときなこの意外なマッチングに、五感が刺激される。

味覚と嗅覚で表現する それぞれの“カカオ偏愛”のカタチ

「実穂さんが創り出す糧菓は、彼女が生きてきた中で感じてきたこと、そして、いままさに感じていることが偽りなく表現されているから、心にストレートに響くんだと思います。こだわりというような頑ななものではなく、やはりこれは愛であって、彼女だけの偏愛のカタチ。このような親密な体験ができる場所は、唯一無二ですよね」と山藤さん。

 

カカオに魅せられた二人が、カカオをモチーフに作品を発表し、互いに刺激を与え合う。偏愛から生まれた心地よいエネルギーの循環は、また次なる作品の糧になりそうだ。

 

 

 

 

溝口実穂

『菓子屋ここのつ茶寮』主宰。和菓子店勤務を経て、菓子と茶のコースを提供する『菓子屋ここのつ茶寮』を東京・浅草鳥越にて始める。日本に古くから伝わることを学び、変えなくて良いことと変えていくべきことを、糧菓を通して表現。著書には陶作家・安藤雅信との共著『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』(小学館)がある。

HP:https://9-kokonotu.com

Instagram:@_____9__

 

 

山藤陽子

パフューマー、YORK.代表。1本の精油との出会いから「プロダクトはただのモノではなく、人生を変えるきっかけをもたらしてくれる」ことを実感し、以来モノと人をつなぐ仕事を志す。南青山に完全予約制サロン「HEIGHTS」を主宰するほか、「気持ちいいこと」をテーマに、ブランドコンサルティングや化粧品の商品開発など幅広く活躍。昨年、ボタニカルパフュームブランド「SCENT OF YORK.」を立ち上げ、オリジナルのパフュームも生み出す。

HP:http://york-tokyo.com

Instagram:@heights_yokoyamafuji

 

 

 

 

文・本間裕子

編集者・ライター。大学卒業後、(株)INFASパブリケーションズに入社。ファッション週刊紙「WWD JAPAN」、コレクションマガジン「FASHION NEWS」の編集を経て、美容週刊誌「WWD BEAUTY」に創刊時より携わる。退社後、フリーランスの編集・ライターとして、化粧品、食料品メーカーをメインクライアントに、ブランディング、広告制作等に携わる。甘いものは得意ではないが、カカオは大好きでコーヒー、赤ワイン、ラムに合わせて日常的に食している。料理家など食に携わる人たちとの交流が深い。

Instagram:@uozazaza