昨年10月、「アマン東京」がある大手町タワー「OOTEMORI」地下2階にオープンし、都会のFOODIEたちの話題を集めているのが「ラ・パティスリー by アマン東京」だ。

 

「アマン東京」のペストリー部門のトップでありエグゼクティブペストリーシェフを務める宮川佳久さんによるケーキやパンが並ぶ。フードエッセイストとして活躍する平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪れ、その美味しさの秘密を紐解いた。

 

文・本間裕子
写真・チダコウイチ
実直な佇まいは美味しさのサイン

柔らかな光に照らされた巨大な天然石。自然素材が組み合わせられた美しいショーケースの中に、シックな美しさを放つ生菓子とパンが丁寧に並べられている。パティスリーを手掛ける宮川佳久さんは、2014年のホテル開業時からペストリー部門を牽引し、「ザ・ラウンジ by アマン」のアフタヌーンティーや、イタリアンレストラン「アルヴァ」のドルチェ、「ザ・カフェ by アマン」の季節のデザートのほか、ギフトアイテムを含むホテル内すべてのペストリーを監修している。

 

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

ショーケースを前にした平野さんは「ラグジュアリーなホテルのスイーツと聞いてイメージするようなタイプとは違って、華美とはまた違うシックな美しさがとても好みです。その実直な佇まいに、“信用できる!”って一目見て思ってしまいますね」と思わず笑顔がこぼれる。

 

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

迷いに迷いながらも平野さんが選んだのは、「タルトシトロン」「フレジエ」、「タルトタタン」「クラシックショコラ」「ピュイダムール」の5つ。

 

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問
愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

【一皿目:タルトシトロン】

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

平野:レモンタルトは大好物で、メニューにあると必ず頼むんです。宮川さんのタルトシトロンは、ミルキー感があるのに、しっかりレモンの酸味も感じられる絶妙なバランス。そして何より土台となるタルトが香ばしくて美味しいです。

 

宮川:食感と香ばしさを楽しんで欲しいという思いから、実は生地は2度焼きしています。オーブンに入れてジッと眺めている時間が好きなんです(笑)。ビストロで味わえるようなざっくり感とはまた違いますよね?他のお店で自分でもいただくことがありますが、生地は作り手の考え、想いが出るところですね。食べ比べてみると面白いと思います。

 

 

【二皿目:フレジエ】

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

平野:バタークリームがめちゃくちゃ軽くて、スポンジと一緒に溶けていきますね。すべてが一体化して、消えていく速度が一緒。そして最後にいちごの存在感が残ります。

 

宮川:スポンジに使っているピスタチオクリームは、シチリア産のもの。いろいろと比較した結果、焼いた時に香ばしさが出るのがシチリア産のものだったんです。いちごは酸味と甘味のバランスが良いとちおとめを使っています。

 

【三皿目:タルトタタン】

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

平野:最初に甘さがあり、その後にほろ苦さがある、まるで人生のようなタルトタタン。濃い部分はヌガーというか、羊羹のような密度ですね。パイ生地もりんごの邪魔をすることなく、アクセントになっています。

 

宮川:パイ生地以外は、りんご、砂糖、バターととてもシンプル。りんごをしっかり味わっていただきたいから、1ホールで青森産のりんご10個を使用しています。200度で3、4時間焼いて、りんごの水分を飛ばして酸味と甘味を残していきます。りんごによって個体差があるので、その時々で個性を見極めるのが重要ですね。

 

 

【四皿目:クラシックショコラ】

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

平野:クラシックショコラということは、材料はチョコレートと卵とメレンゲとバターと砂糖ですよね。しっかり重そうなのに、口の中に入れるとフワーッて解散していく軽やかさに驚きです。北海道の雪のようになめらか。そしてクグロフ型も惹かれます。

 

宮川:チョコレートのなめらかさ、香ばしさ、香りが立つようなものが作りたかったんです。チョコレートはフーズカカオさんにお願いしオリジナルブレンドのものを作ったのですが、『カカオの酸味は要らないから、カカオの苦味が立つような昔ながらのチョコレートを作って欲しい』とリクエストしました。ここまでしっかりローストして作るのは初めてだとおっしゃっていましたね。フルーティなものもいいけど、焼いた香ばしさも欲しいし、チョコレートのしっかりした味を出すために、カカオ70%のチョコレートにたどり着きました。

 

 

【五皿目:ピュイダムール】

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

平野:他人事とは思えないぽってり感というか、素朴な見た目の愛らしさで選びましたが、これは初体験のお菓子。キャラメルの燻製のような味わいが堪らない。これは、美味しいっていうより、“うまいっ!”って言いたくなる感じです。手で掴んでかじりたい!この美味しさ、世の中にもっと浸透して欲しい。

 

宮川:僕もこのお菓子は、手で掴んで食べて、うまいっ!が正解だと思います(笑)。若い頃にフランスで出会ったお菓子なのですが、気取りがない見た目と緻密に考えられた美味しさとのギャップにノックアウトされた思い出があります。

長く愛されてきたスタンダードを追求

素材が持つ自然の色合いを尊重したシックな美しさと、フランスの伝統菓子を基本とするオーセンティックで奥深い味わいを堪能した平野さん。宮川さんのスイーツは、「見た目の華やかさや、技巧的なものを追求するのではなく、誰もが知っているようなお菓子の中で自分らしさを表現されているところが魅力的に感じた」という。

 

平野:ラインナップにオーセンティックとも言えるスイーツを選ばれているのも、きっと宮川さんのご意向ですよね?

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

宮川:そうですね。流行は意識せず、長く愛されてきたスタンダードなものを美味しく作ることを大切にしたいと思っています。控えめで奥ゆかしいというのがアマンのデザインコンセプトにあるのですが、それに通じるお菓子作りを心掛けていますね。ホテルのケーキにはホテル名を示すタグやプレートがのっていることが多いと思うのですが、食べられないものはのせたくないので基本的にそれがありません。ラグジュアリーホテルとしては珍しいかもしれませんね。

 

平野:食べられないものはのせない、その考えを理解してくださる「アマン東京」が素敵ですね。宮川さんがスイーツ作りで大切にされていることはなんですか?

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

宮川:毎日お菓子を作っていると強く思うのですが、美味しいものを作るのに一番大切なのは、丁寧に作ることに尽きると。適した材料を見極める、しっかり焼く、しっかり混ぜる…言葉にすると当たり前のことなのですが、新しさや技巧を追い求める時間があったら、いまは一つひとつを丁寧に作ることに時間を注ぎたい、生産者さんの元を訪ねたい、そんな気分なんです。オーブンの前に立っていられたら幸せな人間なんです(笑)

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

平野:ピューレやチョコレートもスイーツに合うものを一から作られていたり、そういう宮川さんの実直なところが、スイーツのすみずみまでいきわたっていました。私は誰にも真似できない、再現性が低いものにキュンとする傾向にあるのですが、宮川さんのスイーツにはまさにそれを感じました。追求しながら一点ずつ積み上げていったからこその完成度、絶対的な美味しさがあるのだと、一口ごとに納得。たくさんスイーツの写真を撮ったので、疲れた時に何度も見返すと思います。

 

宮川:ありがとうございます。自分の作ったケーキを目の前で食べていただく経験は家族以外になかったので緊張しましたが、自分が伝えたいと思っていた以上のことを感じとっていただけて嬉しかったです。これからもシンプルでありながら記憶に残る、『もう一度食べたい』と思えるものを作っていきたいと思っています。

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

平野:私も緊張しました(笑)。今日お話しをうかがって、いろいろな経験や思考を経た結果いまのスイーツにたどり着いたことがわかったので、これから10年後、どんなスイーツを作っているのかもまた、勝手ながら楽しみです。いまとは全く異なるアバンギャルドな方向に進んでいたらそれもそれで面白いですね。

 

宮川: シンプルでありながら記憶に残る、『もう一度食べたい』と思ってもらえるようなものを作っていきたいと思っていますが、決していまの形がゴールではないですし、10年後のことは自分にもわかりません。これから自分の中に起きる変化をどのようにお菓子で表現していくのか、自分自身も楽しみです。

愛すべきスイーツを求めて 平野紗季子さんが「ラ・パティスリー by アマン東京」を訪問

 

 

 

 

平野紗季子

小学生から食日記をつけ続け、大学在学中に日々の食生活を綴ったブログが話題となり文筆活動をスタート。雑誌・文芸誌等で多数連載を持つほか、ラジオ/podcast番組「味な副音声」(J-WAVE)のパーソナリティや、NHK「きみと食べたい」のレギュラー出演、菓子ブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」の代表を務めるなど、食を中心とした活動は多岐にわたる。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)、『味な店 完全版』(マガジンハウス)など。

Instagram: @sakikohirano

 

 

ラ・パティスリー by アマン東京

営業時間:月 – 金 7:00~20:00、土・祝日 10:00~19:00、日曜定休

住所:東京都千代田区大手町1-5-6 大手町タワー OOTEMORI 地下2階

お問い合わせ:アマン東京レストラン予約 03-5224-3339(10:00 – 19:00)

※キャッシュレス決済のみの取り扱い。

※ケーキをはじめとする取扱商品は季節により異なります。

https://www.aman.com/

 

 

 

文・本間裕子
編集者・ライター。大学卒業後、(株)INFASパブリケーションズに入社。ファッション週刊紙「WWD JAPAN」、コレクションマガジン「FASHION NEWS」の編集を経て、美容週刊誌「WWD BEAUTY」に創刊時より携わる。退社後、フリーランスの編集・ライターとして、化粧品、食料品メーカーをメインクライアントに、ブランディング、広告制作等に携わる。甘いものは得意ではないが、カカオは大好きでコーヒー、赤ワイン、ラムに合わせて日常的に食している。料理家など食に携わる人たちとの交流が深い。

Instagram:@uozazaza