「北の国から」で知られるJ R富良野駅から車で20分。北海道のほぼ中央に位置する農村地帯に、ビーントゥバーの専門店「Wolves tracks small batch chocolate(ウルブズトラックス スモールバッチ チョコレート)」はある。オーナーは異色の経歴を持つ、土村尚貴さん。北の地で作られる、ビーントゥバーに込められた想いを尋ねた。

 

文・本間裕子

写真・チダコウイチ

 

戦闘機の整備士からチョコレート作りへ
上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

上富良野の農村地帯に、北海道では数少ないビーントゥバーの専門店「Wolves tracks small batch chocolate(ウルブズトラックス スモールバッチ チョコレート)」はある。直訳すると「狼たちの足跡」。絶滅したエゾオオカミをモチーフに、この地に足跡を残したいという思いが込められている。「ウルブズトラック」に続く「スモールバッチ」とは小規模生産で品質を追求する工房を意味し、その意気込みが伝わってくる。

 

上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

大手メーカーによる大量生産が主流であった日本のチョコレート業界に、ショコラティエが存在感を発揮するようになり、さらにビーントゥバーの流れから異業種出身のユニークな作り手が参入して渾然一体となっているのが今のチョコレート業界の面白いところ。「ウルブズトラック」のオーナー、土村尚貴さんはまさにその筆頭格、戦闘機の整備士だったという経歴を持つ異業種からの独立組だ。

 

上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」
上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

北海道・旭川市出身の土村さんは、18歳で地元を出て自衛隊に入社。戦闘機の整備士として「行ったことのない都道府県を数えた方が早い」というほど日本全国を約30年回ってきた。その土地に根付くさまざまな食や文化に刺激を受けるなかで、「いつかは自分の手で新しいものを生み出したい」という思いを抱くようになったという。

 

金属加工とチョコレート作りは似ている

土村さんがビーントゥバーのチョコレート作りを決意したのは退職直前の勤務地だった沖縄でのこと。当初は飲食業を立ち上げる予定だったものの頓挫し、今後について模索する日々の中で何気なく買ったチョコレートに、大きな衝撃を受けたという。「チョコレートの存在も忘れていた頃にふと口にして、何も情報がないのにポリシーやこだわりがはっきり感じられたんです。チョコレートでこういう表現ができるのは面白いなと思いました」と土村さん。

 

上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

カカオ豆から手作業でチョコレートを製造するビーントゥバー作りにこれからの道を決めた土村さんは、「地元でもできるのではないか」と帰郷を決意。旭川から美瑛町を経由して車で約40分にある上富良野に場所を定めた。周囲はじゃがいもやグリーンアスパラ、ビールの原料となるホップなどが育てられている農村地帯に自らの手でログハウスを建て、2019年7月に「ウルブズトラックス スモールバッチ チョコレート」をオープンさせた。

 

上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」
上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

菓子製造の経験はなかったものの、チョコレートの基本的な作り方を調べる過程で口当たりを決める温度調整作業「テンパリング」が、戦闘機整備で行う金属加工に似ていることに気づいた。「子供の頃から手を動かすことが好きで、構造を把握するのは得意な方だったかもしれません。情報を一通り頭に入れてみて、イメージが立体的に浮かび上がれば、それが自分でも作ることが出来るというサイン。チョコレートはイメージが掴みやすかったです」と土村さんは振り返る。

 

原材料は主にベトナム、インドネシア、タイから取り寄せた無農薬栽培のプレミアムカカオ豆と沖縄県宮古郡多良間産の黒糖やインドネシア産のココナッツシュガーのみ。甘みや酸味、食感などその個性を引き出すため、自らの手で一貫製造している。チョコレートは70gと5gの2タイプ、豆の種類や糖度、大きさなどにより常時10種類程度を揃える。チョコレートは気温や湿度の影響を受けやすいため、厳しい北国では季節に合わせた作り方をしなければならないという。

 

上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」
上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

「カカオの酸味と苦味を生かしたチョコレートがどれだけ地元の人に受け入れられるかわからなかったものの、中にはお母さんと共に足繁く通ってくれる幼稚園生もいて嬉しいですね」と土村さんは笑う。

 

その他にも、全国を移動しながら採蜜する瀬尾養蜂園が富良野で採ったアカシア蜜の中に、粗く砕いた浅炒りのカカオ豆を入れたオリジナル商品の開発も行う。トースト、ヨーグルトに合うとファンも多い。

 

上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

「情報はあまりない方がいい」と、あくまで自分の頭で納得するまで考えて、ひとつひとつの課題をクリアにしていくスタイルを貫く土村さん。今後は地元で繋がった人と共に、新しいチョコレートも提案していく予定だ。

 

上富良野のビーントゥバー「Wolves tracks small batch chocolate」

 

 

 

Wolves tracks small batch chocolate(ウルブズトラックス スモールバッチ チョコレート)

〒071-0524  北海道空知郡上富良野町東4線北19号

TEL:080-4511-7392(代表)

営業時間:

夏季 10時~19時

冬季 10時~日没

定休日:不定休、製造のため閉店する場合も有り

HP:https://www.big-advance.site/s/140/1236/company

 

 

 

文・小泉恵里

APeCAディレクターで、フリーランスのエディター・ライター。「流行通信」「WWD JAPAN」「GQ JAPAN」などでファッションエディターを勤めたのち、独立。ファッション、食、ライフスタイルの取材・執筆活動をしている。食べログマガジンでは食レポ系連載を2年半続け、リサーチしたレストランは約100店。生クリーム系スイーツは苦手だが、チョコレートは毎日食べるカカオ党。毎朝のグラノラ×カカオニブが習慣で、チョコはカカオ率高めのタイプが好み。

Instagram:@erikoizumileo