窓の向こう側に見えるのは屋根が連なる街並みとおだやかな瀬戸内海。まるで時間が止まってしまったかのような空間に、唯一無二のチョコレート工場がある。その名は「USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)」。チョコレート業界の枠に収まり切らない健やかな異端児、代表の中村真也さんに話を聞いた。

 

文・本間裕子
写真・チダコウイチ
尾道のバイブスに惹かれて移住
代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)

広島県尾道市街の対岸にある周囲約28kmの小さな島、向島。白い看板を目印に山道をぐるぐる回って辿り着いた高台に、一風変わったチョコレート工場「USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)」はある。「立花自然活用村管理センター」の2階スペースを利用し、尾道で出会った若者3人が始めたビーントゥーバーチョコレートは人気を呼び、今や県外からも注目を集め、尾道の観光事業にも大きく貢献している。

 

代表を務めるのは、福岡から移住した中村真也さん。高校を卒業後、飲食店で働いていたが、「このまま狭い世界で生きるのはもったいない」という思いが芽生え、自転車で放浪の旅に出た。福岡から出発して、熊本、大分、松山と来て、しまなみ海道って偶然立ち寄ったのが尾道で、明らかにほかの街とは異なるバイブスに魅了されて移住を決断したという。

代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)

尾道に移り住んでからも飲食店で働いていたが、ある日ニューヨークのブルックリンにある「マスト・ブラザーズ・チョコレート」の記事を読んだことがきっかけで、チョコレート作りに興味を抱くようになった。自分たちの目と手の届く範囲で手作りする製造スタイル、そして「ビーン・トゥ・バー」という考え方を世界に広めたチョコレートショップのポリシー、スタイルのカッコよさに痺れたという。菜食主義の中村さんにとって、「マスト・ブラザーズ・チョコレート」が、カカオと砂糖だけだったことも魅力的だった。

 

記事を見た直後、偶然地元のお店でサンフランシスコ、ミッションにある「ダンデライオン・チョコレート」のチョコレートを食べて、自分が今まで食べてきたチョコレートとは全く別モノであることに衝撃を受けた。包装紙などすみずみまでブランドの世界観が表現されていることにも感動し、「日本にもこのムーブメントは必ず来る」と確信。尾道のカフェやイベントで顔を合わせる友人2人をメンバーに誘った。みな音楽が大好き移住組。年齢も近く、「尾道で新しいことをしたい」という想いも共通していた。

 

あらゆる課題をDIY精神で乗り切る

チョコレート作りの知識は皆無だったため、インターネットを活用し研究を始める日々がスタートする。海外のチョコレートメーカーの動画サイトを見ながら機材のことを調べたり、チョコレート作りを行っている人の元を訪れ、基礎知識を伝授してもらった。当時はカカオ豆自体が一般に流通していなかったため、グアテマラやパプアニューギニアへカカオ豆を探しに行った。何のツテもないまま行ったため、最初の交渉は失敗に終わったものの、その時に現地にいた日本人と友達になり、つながりが作れたおかげで、結果的にはダイレクトトレードを成立させることができた。

 

代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)

また同時に、物件探しも始めた。現在、工房が入っている建物は尾道市が建てた公共のもの。利用者が減少し、スペース利用の募集をかける新聞記事を偶然に見かけて市役所に直談判に赴き、運よく借りることができた。「最初から本土と行き来しやすい向島で探していました。自然豊かなローカルな場所に、デザインにもこだわったチョコレート工場があらわれたら絶対面白いし、都会の真ん中でオープンさせる以上のインパクトが得られる思ったんです」。

 

代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)

長年使用されていなかったため、引き渡された物件は見事に荒れ放題。壁板をはがし、天井を塗り、製造機を輸入し、好きな家具を置いて自分たちが気持ちのいいと思える空間へと仕上げていった。そして201411月、向島の高台の上に「ウシオチョコラトル」はオープンした。名前は、中村さんの娘、潮(うしお)ちゃんに由来する。

シンプル製法でカカオの個性を引き出す

ビーントゥーバーの主役はなんといってもカカオ豆。素材の味を引き出すため、油脂や添加物は一切加えない。ウシオチョコラトルでは、砂糖はオリジナルの有機黒糖「和二盆」と、ブラジル産のオーガニックシュガーをカカオ豆の個性に合わせて使っている。

 

代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)
代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)

作り方もいたってシンプルだ。まずは割れた豆や大きさが揃ってない豆を丁寧に取り除き、風味を逃さないよう殻付きのまま焙煎。殻を取り除いて中のカカオニブを取り出し、石臼で半液状になるまですりつぶして砂糖を加える。そしてテンパリング作業でツヤを出し、冷やして包装すれば完成。この工程を全てを手作業で行なっている。

 

代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)

店内で購入できるチョコレートは、季節によって種類は変わるものの常時約7種類。フルーティーな酸味と香りが楽しめる「ベトナム」や、ほのかに甘く紅茶のような風味が広がる「ハイチ」など産地ごとの味わいが楽しめるシングルオリジンのもののほか、尾道をイメージしたブレンドやアーティストとコラボしたものがラインナップ。食感もなめらかな「スムース」と、ザクザクと粗い噛み応えのある「クランチ」の2種類揃うのが嬉しい。いずれも口に入れると、カカオ豆の凝縮した美味しさをストレートに味わうことができる。コーヒーはもちろん、ワインやラム酒にも合いそうだ。

 

代表・中村真也さんに探る USHIO CHOCOLATLのチョコレートが楽しい理由(前編)

最近では東京などで開催されるポップアップショップへのお声がけも増え、卸先も広がった。チョコレート工場に併設されたカフェは尾道の観光スポットとなり、行列ができるほどの人気に。8年の間にメンバーも入れ替わり、立ち上げ時とは違った局面も幾度となく迎え、その都度アイデアを出し合い乗り切った。「今年は大きな変革の時になる」と中村さん。「ウシオチョコラトル」のチョコレートが楽しい理由は、中編へと続く。

 

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USHIO CHOCOLATL

住所:広島県尾道市向島町立花2200 立花自然活用村 2階

電話:09073911746

営業時間:午前9時〜午後5

HP:https://ushiochocolatl.stores.jp

Instagram:@ushiochocolatl

 

 

 

文・本間裕子

編集者・ライター。大学卒業後、(株)INFASパブリケーションズに入社。ファッション週刊紙「WWD JAPAN」、コレクションマガジン「FASHION NEWS」の編集を経て、美容週刊誌「WWD BEAUTY」に創刊時より携わる。退社後、フリーランスの編集・ライターとして、化粧品、食料品メーカーをメインクライアントに、ブランディング、広告制作等に携わる。甘いものは得意ではないが、カカオは大好きでコーヒー、赤ワイン、ラムに合わせて日常的に食している。料理家など食に携わる人たちとの交流が深い。

 

インスタグラム:@uozazaza