食材豊かな高知県に魅せられ、小さなチョコレート工房を開いた姉妹がいると聞いて、やってきたのは高知県佐川町。江戸時代には城下町として栄え、名酒『司牡丹』の酒蔵がある歴史ある町。「日本植物学の父」こと牧野富太郎出世の地でもある。

 

2人に会いに行ったのは、台風が高知に直撃した日のこと。霧が立ち込める山道を抜け、やがて見えてきた里山の景色はちょっと不思議で感動的だった。

 

写真・チダコウイチ

取材&文・西村依莉

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート
移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート

『ポワリエ・ショコラ』を営む姉の山田朋世さんは食材探しや営業を、ショコラティエで妹の金親梨恵さんが商品作り。縁もゆかりもないこの土地をなぜ選び、どんなふうに高知県と関わっているのか、夏のインタビューを経て、この春にも近況を伺った。

 

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神奈川県の“なんてことない、いわゆる住宅地”で生まれ育った朋世さん・梨恵さん姉妹。高知県とは縁もゆかりもない2人が高知へやって来るまでのストーリーは、朋世さんの学生時代にまで遡る。

 

「私は高校生の頃に植物の面白さに夢中になって、園芸の短大を卒業した後、イギリスの園芸カレッジへ留学、その後はイギリスの王立ウィズリー・ガーデンで研鑽を積みWisleyDiplomaを取得しました。ウィズリー・ガーデンはエリザベス女王が総裁の、“イギリス人に最も愛されている庭”と言われるガーデンで、様々なスタイルの美しい庭が見られる場所です。夫も神奈川県出身なのですが、彼とはそこで出会いました。イギリスから帰国後は京都の薬用植物園で働いていましたが、夫が牧野植物園に就職するタイミングで私も高知に来て牧野植物園へ就職しました。最初は3年くらい住んだらまたどこか違うところで暮らすつもりで、高知市内に住んでいたんです。佐川町には牧野富太郎の生誕地ということでよく遊びに来たり、海外から友達が来た時に『司牡丹』の酒蔵ツアーを案内したりしていました。高知って84%が山というだけあって、ほとんど山なんだけど、なんだか開けた雰囲気もあって、気持ちがいい場所。農産物も美味しくて、酒蔵があるくらいだから、当然水も美味しくて。すっかり高知が好きになっちゃって、ちょうど育児休暇中だったので、子育てするならこういう場所がいいなーと思ったのもあって、思い切って佐川町に家と山を買って住むようになりました」(朋世さん)

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート

高知県の魅力にすっかりハマり、時間があれば近くの里山を散策したり、山登りに出かけたり。そんな時間を過ごしながら、この豊かな環境から生まれる食材を使ったチョコレート工房の構想が浮かんだ。そこで、東京でショコラティエとして働いていた梨恵さんを呼び寄せることを思いつく。

 

「私は高校生の頃から『自分にしかできないことを仕事にしたい』と考えていて、フランスに語学留学をしたんですけど、その時に食べたチョコレートの美味しさに感動して、ショコラティエになろうと思ったんです。チョコレートの勉強するために、一度ベルギーの専門学校へ進学し、フランスの製菓店で修行を積んだのち、帰国して東京でショコラティエとして働いていました。いつかは自分の店を持ちたいなと思っていましたが、全然具体的にどこで店をやりたい、というイメージはなくて。高知に遊びに来た時、新鮮な食材がすぐに手に入って、自然に囲まれた環境で暮らす姉の様子を見て、『ここで店をやるのもいいかも』と思い切って移住を決めました」(梨恵さん)

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート

姉妹で全く違う職業を選び、別々の道を歩んでいたが、同じ目標を持ち、実現させたのが2018年。庭付き、農地付きの元々小さな雑貨店だった住居兼店舗を購入し、店舗部分を工房に改装し、インターネット販売をメインに営業をスタートした。朋世さんが食材探しや営業、梨恵さんが製作と分業しているが、相談しながらアイディアやヒントを出し合う。当初は農家との交渉も難航したが、少しずつクチコミで評判が広がり、徐々に知名度を高め、最近では先方から話を持ってきてくれるまでになった。

 

特に高知はレモン以外にも文旦や柚子、八朔などとにかく獲れる柑橘の種類が豊富。チョコレートと相性がよく、そういう点もショコラティエにとって魅力だ。

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート
高知の文旦、香川のブラッドオレンジ、レモン、ベルガモットを使った「シトラスパレット」。

3年の仮暮らしのつもりが、すっかり地元に溶け込む暮らしをしている二人だが、他の移住者の視点よる気づきや驚きも少なくないと話す。田舎だから「何もない」と思うのか、田舎だから「たくさんある」と思うかは視点や価値観の違いによるが、二人とも高知を豊かな場所だと話し、心底楽しんでいるのが伝わってくる。

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート

「私は、神奈川、長野、イギリス、京都、高知と住んでみて、高知の自然に圧倒されたんです。横に長いから室戸と足摺の方では獲れる魚も違うし、高低差が激しい地形なので高山植物から海岸沿いの植物まで、種類もすごい量。そんな場所、なかなかないと思うんです。イギリスだと植生は限られていて、自生の植物が少ないからこそ、プラントハンターが海外から色々な植物を持って来て、それを楽しむ文化があるんですけど、日本は南北に長いから植物の種類がとにかく豊富。北海道から沖縄まで、全然育つ植物が違うでしょ? その中でも高知県は、県内だけでもそんなふうに色々な植物が育っているので、一年中食材豊か。イタドリやツクシ、ヨモギが自生しているし、山の斜面で育てる柑橘類は、日当たりが良くて排水性がいいから味の濃い。施設園芸をするには平な土地がないのでデメリットはあると思うんですけど、反対に山ばっかりあるという点ではメリットもたくさんあるな、と思います。山があって高低差があるからこそ育つものも色々違って。大規模の農業をやるにはちょっと不利な点はいっぱいあると思うんですけど、自然の豊かさをダイレクトに感じられるんです」(朋世さん)

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート

地元の生産者が作り出すものだけでなく、自然を満喫しながら食材を探す。そんな風にして巡り合ったものを今年のバレンタイン用のチョコレートに落とし込んだ。朋世さんのライフワークでもある山歩きをしている際、クロモジの木を見つけた。クロモジとは高級爪楊枝の原料となることが多いが、その香りのよさからハーブティーや精油としても楽しまれている木だ。クロモジのフレーバーを使い、ボンボンショコラを作った。今は夏に向けてパフェを試作中。昨年、パフェを売り出すと全て完売した。

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート
バレンタイン用のボンボンショコラ。一番左がクロモジを使ったもの(写真提供:ポワリエ・ショコラ)

「昨年は高知の果物をふんだんに使ったパフェを作ったんです。メロンやすももやマンゴー。あとは香川県のブラッドオレンジも。チョコレートとフルーツを合わせたパフェを冷凍で発送していました。今年は工房の畑に生えている蓬と佐川町のイチゴを使ったパフェを新作で考えています。昨年は土佐市で作られている近澤メロンを使ったパフェが大好評でした。今年はまたどんな食材と出会えるか楽しみです。私たちは地元の人の協力がないと何もできないので、彼らが美味しい食材を作ってくれるから、私たちも美味しいものを作れると思うんです。地元の人あってこその私たち。高知が大好きです」(梨恵さん)

 

移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート
春の新作のパフェ「SAKURA」はすでに完売。初夏には八朔とショコラのパフェを販売予定。
移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート
移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート
移住者姉妹が手がける、高知の自然と旬を包み込んだチョコレート
忙しい年末、再訪した日はよく晴れていた。

 

 

ポワリエ・ショコラ

高知県佐川町東組

WEB:https://poirier-chocolat.jp

Instagram:@poirier_chocolat.jp

 

 

 

文 : 西村依莉

編集者・ライター。1960~70年代を中心とした昭和期のカルチャーと猫やファッション、ライフスタイルをテーマに書籍や雑誌、WEBで活動中。近刊に『スペースエイジ・インテリア』(グラフィック社)、『桂浜水族館公式BOOK ハマスイのゆかいないきもの』(実業之日本社)など。

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