高知県土佐清水市は四国最南端のおだやかな小さな町。東京からの道のりは遠く、移動にもっとも時間を要する市のひとつとも言われる。そんな場所でもビーントゥーバーチョコレートを作っている人がいると聞いて、遠路はるばる訪れた。前日までの台風は抜け、残暑厳しい土佐清水の街の中心部にその店はあった。

 

写真・チダコウイチ

取材&文・西村依莉

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート

最寄駅がある隣町の四万十市から車で40分以上。そこからの交通の手段は約1時間に1本ペースのバスか車のみという交通の便の悪さとその道中の景色が旅情を掻き立てる。山と海の町でビーントゥバーチョコレートを作っているのは“昔ながらの珈琲屋さん”だった。

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート

店主の渡辺昌也さんは『珈琲店トップ』の2代目。高知県は人口あたりの喫茶店数が日本一多い“喫茶県”で、土佐清水市も街の規模の割に喫茶店(それもチェーン店ではなく個人経営店!)の数が多い街だが、そこへ置いても昔から「美味しいコーヒーが飲みたいならトップ」と言われていた。そんな中で育った渡辺さんだったが店を継ぐ気はなく、カリスマ美容師ブームの影響もあって、高校卒業後は高知市内で美容師の道へ。しかし酷い手荒れに悩まされ、志半ばで断念してしまう。その後飲食店勤務を経て、自動車整備士の資格を取るための準備をしていた24歳の時、先代である父親が病に倒れ、土佐清水へ戻ってくる。残念なことに、そのまま父親は急逝してしまったが、その時に母親と姉から「店を継がない?」と持ちかけられた。

 

「父が亡くなった後に自動車整備士の資格試験に合格したから、正直迷いはありました。けど、母親を家でひとりにするのも心配で。それで思い切って地元に帰って店を継ぐことにしました」

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート
先代のころからの調度品を生かしたインテリア
四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート
店の裏は図書館の庭。緑の借景を眺めながらのんびりできる

「店に立ち始めた頃は、何もせんでも両親が続けてきた店やし、常連さんもおるし、お客さんが来てくれるやろ、と甘いことを思っていました。やけど、いざ売り上げや利益を見て、冷静に考えて、この商売の仕方で一生食べていけるのやろうか? というと疑問を持ちたんですね。勉強のために他の店に行ったりして考えたのが、モーニングや人気メニューを作って、お客さんを呼べんかな?ということでした」

 

高知県の喫茶店はほとんどがモーニングをやっていて、その内容は充実。地域差はあるが、500円ほどでコーヒー(または紅茶)にトースト、サラダ、ゆで卵がセットになっており、高知県西部ではそこへ味噌汁までついてくる。東海地方に次ぐモーニングの充実ぶりだ。また、定食や軽食を出す店も多く、コーヒーとケーキ類などがメインだった『トップ』もそういったスタイルを取り入れようかと思案した。

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート
ちなみに『トップ』のモーニングはこんなかんじ。サラダや卵の代わりにボリュームタップリのサンドイッチ!

「そんなことを考えよった時に、雑誌で見た島根県にある『カフェロッソ』のことがなんだか気になって、直接店へ行ってみたんです。世界バリスタ選手権の2位をとったような人が経営しよる店がながですけど、うちの店でもエスプレッソマシーンを入れて、ラテアートなんかをしたら若い人にも喜んでもらえるがやないかなと思って。コーヒーだけやなくて、カプチーノやラテが飲めるようにして、間口を広げたかった。それで研究を兼ねて、妻とロッソへ行ったんですけど、店を開けた瞬間、コーヒーのいい香りだけが漂っていて『コーヒーに対する姿勢が違う!』と感じました。タバコの臭いも味噌汁の匂いもしない。高知県の喫茶店とは文化が違うと感じたがです。店の人に「どんな豆を使っているんですか?」と聞くと、誰が作っているコーヒー豆かわかるものを使いよるっていう。今はスペシャリティコーヒーって珍しくなくなってきましたが、当時はサードウェーブブームのスペシャリティコーヒーの時代で、高知県にはまだそういう文化はほとんど届いてなかった。うちは父親の時から付き合いのあるUCCやナンベイコーヒーの豆メーカーさんから生豆を取りよったけど、もうちょっと踏み込んだことをしたいと思い、雑誌の「カフェスイーツ」のコーヒー特集を見たりネットで調べたりして、農園指定の豆を入れるようにしました」

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート

自分の代の『珈琲店トップ』はスペシャリティコーヒーが楽しめる店にするという道筋が見えた渡辺さん。それ以降はそのための奔走が始まった。

 

特に印象的だった出会いは神戸の『松本珈琲』。豆の取り寄せができる店を探していた時に仕入れの交渉をしたところ、社長による焙煎テストがあった。『松本珈琲』では確かな技術を持たない焙煎士には豆を卸さないらしい。渡辺さんが焙煎した豆を神戸へ持って行って社長に試飲してもらい、取引の許可をもらった。

 

「豆の焙煎はメーカーの人に教えてもらったりしながら、完全に独学で身につけました。人の数だけやり方があるけど、僕の場合は適切な豆の大きさに合わせて火を入れるようにして。青い豆は水分が多く、白っぽい豆は水分が飛んじょう。そういう豆の状態を見ながら一番いい状態に火を入れていきます」

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート
四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート

その後、自分の持つ焙煎の技術を活かせることは他にもないかと考えるようになった渡辺さん。コーヒーは店の主役でありつつ、それ以外のウリになるものはないだろうか。そんなことを考えていたある日、山口県にあるチョコレーショッショップ『tete』のビーントゥーバーチョコレートのことをTVのニュースで目にする。カカオ豆から自社で製造・販売というスタイルに興味が沸き、数日後には直接山口県まで足を運んでいた。

 

「これが衝撃的な美味しさで。僕はあんまりチョコレートが好きじゃなかったがですけど、『tete』さんのチョコレートはめちゃくちゃ美味しかった。ガーナ、タンザニア、ブラジル、それぞれ国のカカオ豆を使ったチョコレートを食べて、すごく違いが分かりやすかったがです。コーヒーとの共通点の多さにもびっくしりたし、それでいてコーヒー豆よりも随分違いがわかりやすくて。それから結構色んな種類を食べ比べしました。豆だけじゃなく砂糖が変わればまた味が違わるのも面白かった。自分でもカカオ豆を仕入れて焙煎して色々研究して、表現の仕方に幅が興味深いですね」

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート
店をリフォームした際、チョコレートの製造コーナーを確保

ここならではのチョコを作りたくて、高知県津野町の土佐茶を使ったチョコや、地元で取れる足摺黄金糖を使ったチョコレートを製作。また、ビーントゥーバーチョコレートは、渡辺さんにとって、別の嬉しい効果もあった。

 

「僕は一番多い時で体重が92キロあって、生活習慣病で悩んだこともありました。コーヒーをたくさん飲んだおかげで痩せたって言いたいところやけど、特にそんなこともなく(笑)。ダイエットを色々していく中で知ったことですけど、朝ごはんを食べる前に低GI食品を摂ると、血糖値の上昇を緩やかにするからいいんですよね。パンや白米みたいな高GI食品をいきなり食べると血糖値がいきなり上がって下がるやないですか。この上下する時に、体に糖がいっぱい入ってくるそうで。低GI食品で血糖値をゆるやかに上げて、ゆるやかに下げてると余分な糖の吸収を抑えると言われるがですよね。チョコレートの甘さは満足感も満たしてくれるし、僕にはダイエットにちょうどいい食べ物やった。有酸素運動や筋トレと一緒にそうやって糖質やカロリーのコントロールをして、27キロのダイエットに成功しました。そんなこともあって、僕のようにダイエットしている人に向けた低GIのチョコレートを作ったんです」

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート

話を聞いている合間にも次から次へと来客があった。コロナ禍の平日なんで、そんなに混まない時間です、と指定された時間だったが、店内でコーヒーを楽しむ人以外にもコーヒーをテイクアウトする人、コーヒー豆やチョコレートを買いに来る人など、ひっきりなしだ。『トップ』はコーヒーの店としてだけでなく、チョコレートの店としても少しずつ定着しているようだ。

 

その証拠に、土佐清水市のふるさと納税の返礼品のラインナップの中にも『トップ』のチョコレートが並ぶ。

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート
四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート

「アピールの仕方は難しいですね。職人気質じゃダメだし、こんな辺鄙なところでチョコレートを売っても、地元の人はいくらか興味は持ってくれても、県外から来て、わざわざここに入ってチョコレートを食べてくれるとは思えんし……。今、土佐清水は新しい水族館が完成したり、アウトドアブームで県外からの観光客も多いから、そういう人らにどう訴求していくかが今後の課題ですね」

 

冒頭に書いたように、土佐清水市への道のりは長い。その分、到着した時の自然の豊かさや食事の美味しさはひとしおだが、長旅の後にはちょっと一息つきたいもの。その時はぜひ、『珈琲店トップ』で、足摺黄金糖を使ったチョコレートとスペシャリティコーヒーを。もうすぐ創業60年を迎える店内は、何度かリフォームしているものの、ゲームの筐体テーブルがあり、昭和の趣を感じる。四国の南端の小さな喫茶店で、思いがけない美味しさを味わってほしい。

 

四国最南端の町にある老舗喫茶の ビーントゥーバーチョコレート

珈琲店トップ

高知県土佐清水市幸町4-3

9:00-17:00

月曜・第3火曜定休

http://www.coffee-top.com

 

 

 

文 : 西村依莉

編集者・ライター。1960〜70年代を中心とした昭和期のカルチャーと猫やファッション、ライフスタイルをテーマに書籍や雑誌、WEBで活動中。近刊に『スペースエイジ・インテリア』(グラフィック社)、『桂浜水族館公式BOOK ハマスイのゆかいないきもの』(実業之日本社)など。

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