高知県西南部に位置する四万十町は、JR土讃線・予讃線、土佐くろしお鉄道のターミナルとなる窪川駅があり、古くから旅の中継地として栄えてきた場所。四国八十八ヶ所霊場の37番札所である岩本寺があることからも、旅人がいるのが当たり前という感覚で、“余所者”をあたたかく受け入れる土壌があった。

 

写真:チダコウイチ

取材・文:西村依莉

 

「勘のいい人は、『脱法ショコラ』と聞いたら何かしらピンとくるはずや」 自然豊かな四万十の景色の下生まれたアングラ&ストリート・カカオ・カルチャー
町民にも昔から親しまれ、愛されてきたお寺・岩本寺

そんな町だからか、それとも南国特有の大らかさからか、はたまたその両方なのか。ここはどうやら異質さに寛容な町のようだ。国道56号線を車で走っていると、のどかな風景に突如現れる真っ赤な平家。そこは、コピーライターで写真家の日下慶太氏に「田んぼの中の高円寺」と言わしめた高知随一のアングラさを誇る、古着・雑貨・本と喫茶の店『太陽の眼』だ。

 

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赤い!

その様子はまさに異質。高知県東部生まれ、県庁に勤務していた今井綾花さんが移住し、2019年に夫の良介さんと共に始めた店である。古い店舗型住居を購入し、ほとんどをセルフリノベーション。カフェスペースは妖しくも魅力的な国内外の雑貨とインテリア、そして貴重な書籍やレコードがひしめき、ショップスペースには1970-80年代の古着と厳選した雑貨やアクセサリー、書籍が陳列されている。どれも一球入魂のセレクトで、圧は強いが宝探しのワクワクを味わわせてくれるラインナップだ。

 

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時を忘れて長居してしまう、盛りだくさんなのに落ち着く店内

地方によくあるナチュラルでほっこりした店の雰囲気はまったくなく、様々なカルチャーのごった煮。情報量が多く、都市的な土臭さととでも言うべきか。スパイスが効いたカレーもチャイもやたらと美味しいし、とにかくパンチが効いた刺激的な店が、こんなのんびりした場所にあるなんて。

 

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一体、地元の人はこの真っ赤なアングラショップのことをどう思っているんだろうか? などと考えながら今井さんと会話をしていると、あたり前に地元の知人友人の話題が出てくる。お客さんの多くが観光客で、県外や高知市内からわざわざやって来る人ばかりだが(わざわざ来る気持ちは、とてもよくわかる!)、もちろん地元客もいるし、地元の人としっかり繋がっている。

「高知でチョコレート作りをしている人の取材をしようと思っている」と話をするとすぐに紹介してくれた地元・四万十町の友人。その人もまた『太陽の眼』に負けないインパクトの屋号の持ち主だった。

 

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待ち合わせ場所の老舗喫茶。全国からお客がやって来る名店でもある

今井さんが紹介してくれたのは、『脱法ショコラ』。実に危険な予感のする名前である。

有機ローカカオとドライフルーツ、国内外の食材、そしてスパイスを使ったローチョコレートの通信販売と委託販売をしている。製作者もまた今井さんのような移住者なんだろうかと思いきや、意外にも窪川生まれ、窪川育ちの生粋の地元っ子だった。特にパティシエをやっていたわけでもお菓子作りが好きだったわけでもない。多くのローフード愛好家のように、美容や健康がチョコレート作りを始めるきっかけだったわけでもないという。

 

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『太陽の眼』とはまた違う趣の圧を感じる店内だが、静かに時が流れている感じが居心地が良い

サトコさんは地元高知の酒蔵で製造部門に携わっていたが、様々なストレスから味覚障害になってしまった経験の持ち主。そのリハビリとして、分量や時間など、規定の数字をしっかり守れば美味しくできるはずのお菓子作りをするようになった。やり始めるとのめり込む質で、毎日自分や家族では消費しきれない量のお菓子を作るようになったため、作りすぎたお菓子を友人たちにあげるようになっていった。やがてローチョコレートのワークショップに参加したのをきっかけに、ローカカオを使ったチョコレート作りもするようになる。食材の処理や味の組み合わせのヒントは、酒蔵で見聞き味わい扱ってきた世界中の甘味料や果実や蜂蜜の知恵、精進料理の技法、愛読してきた「ミスター味っ子」や「美味しんぼ」などの料理漫画からの情報、そして自分のセンスと勘。基本を押さえつつ、型に捉われることなく、自由な発想で実験的に楽しみながら製作し、それを周りに配っていると、その美味しさが話題となった。

 

「この味はちょっと規格外やね」「脱法ハーブならぬ脱法ショコラや!」

 

いつしかサトコさんが作ったチョコレートはそんなふうに呼ばれるようになった。人伝てに評判が広がり、購入希望者が増え、販売許可を取ることになった。試しに『脱法ショコラ』の屋号で申請して、果たして許可が下りるんだろうか? とダメ元で申請するも、無事OKに。酒蔵勤務時代に取得した食品衛生管理士の資格がここで役に立った。そしてキリよく2020年1月11日から正式に販売を開始。

 

「ノリで申請したもんやから、まさかこの名前で許可が下りるとは思いませんでした(笑)。ヤバいもんが入ったチョコレートなんですか? って誤解されそうやけど、全然そんなことはなくて(笑)。ヤバいくらい美味しくなるように食材の組み合わせのひらめきは大切にしちゅうけど。勘のえい人は、『脱法ショコラ』と聞いたら何かしらピンとくるはずや、って思ってます」

販売スタイルはInstagramのDMからのオーダーメイドと委託販売。

 

『脱法ショコラ』のロゴは、ストリートカルチャーの第一線で活躍するペインターのESOW氏に手がけてもらった。知人デザイナーに当初依頼していたロゴデザインは「脱法」がコンプライアンスに触れるという理由で断られしまい、スケーターの友人に「脱法、で迷惑がかからんデザイナーさんを紹介してください!」と泣きついたところ紹介されたのがESOW氏だった。高知にルーツを持つ彼は「高知の人の頼みなら」と快諾。模索する間もなくトントン拍子にコトが運び、トラブルは伏線、回収のたびに脱法ショコラができていく。見えない力に突き動かされていたようだったという。

 

「勘のいい人は、『脱法ショコラ』と聞いたら何かしらピンとくるはずや」 自然豊かな四万十の景色の下生まれたアングラ&ストリート・カカオ・カルチャー
プレートやステッカーもESOW氏にオーダーした。

ほんの3年前まで、チョコレートショップを始めるなんて夢にも思っていなかった。福祉系専門学校に入り精神科ソーシャルワーカー(PSW)の国家資格をとることを目標に専門科目に加えて心理学や社会学、医学一般への知識を得た。一度はPSWを諦めたお客さんと来年一緒に合格しよう! と共に励まし合いながら国家試験の勉強も続けている。

 

遠回りの回り道にしか思えなかったという精神医学の知識は、DMでオーダーを受ける際にとても役立っている。サトコさんの元へ舞い込むオーダーは、相手からテーマをもらうことが多い。予算と食材の指定をもらったり、組み合わせをおまかせしてもらうことももちろんあるけれど、オーダーの場合、Instagramでユニークな依頼内容や制作過程まで披露している。なぜ、こういうテーマで依頼してくれたのか。チョコレートを食べる人は何が好きで、どういうコンディションなのか。そこをやり取りしながら探りながら作っていくため、『脱法ショコラ』の商品はとてもコンセプチュアル。

 

たとえば“スケーターの子の門出のお祝いに、おまかせで甘めのチョコレートを”というオーダー。いくつかのやり取りを経て、作り上げたのは「愛には様々な側面がある」というブレンドのベリーと花のスパイスミックス、有機エディブルフラワーや有機ドライフルーツ、地元産の山椒をトッピングした華やかなデコレーションのタブレットチョコレート。型や撮影の際に使った器には「幸せがいつまでも長く続くように」という願いと祈りが込められた紗綾形、七宝、青海波、麻柄など連続した幾何学の伝統文様を選んだ。

 

「勘のいい人は、『脱法ショコラ』と聞いたら何かしらピンとくるはずや」 自然豊かな四万十の景色の下生まれたアングラ&ストリート・カカオ・カルチャー
サトコさんのおすすめ、『淳』のサンドイッチ。

「うちのチョコレートは『この日に絶対食べたい』『大勢にプレゼントしたい』という人にははっきり言って不向き。なんぼでも他にそういう対応をしてくれるところがあるき、って他を勧めるようにしてます。わざわざオーダーするくらいやき、『人生の節目に食べるためのチョコレート』という人も少なからずおって、そんな人らにはなるべく応えたい。DMで密にやり取りしていくうちに子育ての話とか、関係ない話に脱線して行くけど(笑)、濃いめの聞き取りはイマジネーションの素になるき、大切な行程ですね。脱法ショコラは『聖者にも悪人にもカカオは平等だ』が初心。そういうローチョコも必要やろうと。キラキラした映えな世界と同じくらい日の当たらない世界がある。過去に受けたオーダーですが、

 

『夫と離婚裁判があるので、奮い立たせるためのチョコが食べたい』(https://onl.bz/sX3xAHb

『余命宣告を受けている身だが、恋人と1日でも長く過ごしたい』(https://onl.bz/WJEnQas

『これから子どもをひとりで育てていく決意のためのチョコ』(https://onl.bz/RQPgEns

 

など、そんなハードめな依頼にも、チョコレートできっちり応えたいなって思っています」

チョコレートのための聞き取りが、相手にとってカウンセリングになっているケースもあるのかもしれない。食べる人にパワーを与えるチョコレートを作る人。スピリチュアルな意味ではなく、エネルギッシュなサトコさんはそう思わせるエピソードをいくつも聞かせてくれた。

 

「勘のいい人は、『脱法ショコラ』と聞いたら何かしらピンとくるはずや」 自然豊かな四万十の景色の下生まれたアングラ&ストリート・カカオ・カルチャー
「勘のいい人は、『脱法ショコラ』と聞いたら何かしらピンとくるはずや」 自然豊かな四万十の景色の下生まれたアングラ&ストリート・カカオ・カルチャー
地元を知り尽くすサトコさんの案内で新鮮な窪川ポークが食べられるお店へ

ところで、味覚の方は戻ったのだろうか? だいぶ味を感じるようになったものの体調や気候に影響されることもあって、100%戻ったわけではないという。だが、チョコレート作りは回復への貢献度はとても高かった。味覚以外の感覚が勝手に鍛えられたという。

「ベートーベンは耳が聞こえんなっても頭の中で音楽を奏でながら作曲できたでしょう、味がわからなくても見える風景がある。ベートーベンにできるなら私にもできるんです。同じ人なんだから。お客さんの話を聞いていくうちに完成図が先に浮かぶ。それを形にするだけ。お客さんが私のいっぱいある引き出しの取っ手や鍵を持っててそこから出してくれる感じ」

 

委託販売用の商品、オーダー商品、手に入った食材と配合の研究の合間に、企業から依頼された商品開発の仕事もあり、なかなかに忙しい。取材当時は韓国産の希少糖を使用した、小児糖尿病の子どもや重度の糖尿病患者も食べられるチョコレートの開発や、トルコの食材を使ったレシピ開発を行っていた。白砂糖やアルコール類、乳製品を使うのはローチョコレート界ではあまり良しとされていないが、サトコさんは美味しさを優先して使用する。白砂糖は食材の味を損なわずに甘味を加える機能としてはとても優れた調味料だし、アルコールを使うからこそ出せる風味がある。地元の食材を軸に、世界中のエッセンスを取り入れる。サトコさんの場合、感性の表現手段がローチョコレートだったのだろう。だから作り出すチョコレートは、枠にとらわれない自由で豊かな発想なのだ。

 

「勘のいい人は、『脱法ショコラ』と聞いたら何かしらピンとくるはずや」 自然豊かな四万十の景色の下生まれたアングラ&ストリート・カカオ・カルチャー
この日作ってくれたのは、高知県産の丹波黒豆や四万十町で作られている日本酒、高知市の『キッチンボルベール』が作る薬膳ソルトを使用したチョコレートなど

そんな『脱法ショコラ』もまた、『太陽の眼』と同じく、県外からの注目度が高い。委託先は香川、大阪の他に神奈川県。特に湘南エリアで人気が高く、鎌倉や鵠沼海岸のショップで販売している。

高知県四万十町。なんてことない小さな町だが、自由でしなやかな発想とブレない芯持った2人の女性がなんだか面白いカルチャーを発信している見過ごせない町である。

 

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太陽の眼

高知県高岡郡四万十町影野422−1

080-3393-4382

https://taiyounome.square.site

 

脱法ショコラ

Instagram:@loophole_chocolat

 

 

文 : 西村依莉

編集者・ライター。1960~70年代を中心とした昭和期のカルチャーと猫やファッション、ライフスタイルをテーマに書籍や雑誌、WEBで活動中。近刊に『スペースエイジ・インテリア』(グラフィック社)、『桂浜水族館公式BOOK ハマスイのゆかいないきもの』(実業之日本社)など。

Twitter : @po_polka

Instagram : @po_polka