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出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO

日本全国でビーントゥバーと呼ばれるカカオ豆からタブレット(板チョコレートのこと)を作るお店ができている現在。チョコレートラヴァー達から「おいしい」と太鼓判を押される、あるブランドがあります。

 

それが島根県出雲市のLa chocolaterie NANAIRO(ラ ショコラトリ ナナイロ、以下ナナイロ)です。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
2020年のSSコレクション、鳥取県の新品種のいちご「とっておき」を使ったシーズナルタブレット

ひとかけら口の中に含むだけで何度も表情を変え、食べる人を楽しませる、奥深く繊細なナナイロのチョコレート。

 

このおいしさはどうやって生まれているのだろう?

 

そんな疑問を抱えて、ナナイロのチョコレート作りを手掛ける代表・西森さんにお話を伺いました。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
緊急事態宣言下での取材。テレビ電話を使ったリモート取材をお願いしました。
夏に作るチョコレートと冬に作るチョコレートは違う?

——ナナイロさんのチョコレートは、毎年春と秋にテーマをつけて発表されていますね。今年のSS(スプリング・サマー)コレクションのテーマは「交響曲」でした。コレクションのテーマはチョコレートを作る前から決められているのでしょうか?

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
2020年のSSコレクション。付属のフレーバーノートの裏面はコレクション毎に異なるデザインで彩られる。

西森:実は、季節によってテーマの決め方は変わってきます。冬に作るチョコレートはまず仕上がりのイメージを決め、そのイメージからテーマをつけます。対して夏に作るチョコレートはどうしても外気温の影響を避けられず、チョコレートの仕上がりを完璧にコントロールするのがむずかしいので、仕上がりを見て後からテーマをつけています。

 

——暑い夏の期間は例外とはいえ、チョコレートの仕上がりをコントロールできるというのには驚きです。

 

西森:冬に作るチョコレートは外気温の影響が出ないので、これまで積み上げたチョコレート作りへの研究結果をそのまま反映できるんです。マダガスカルのカカオ豆を使ってをこういうチョコレートを作りたいと思えば、思ったように作ることが出来る。今回のコレクションの「交響曲」というテーマも先に決めていたものです。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
2020年のSSコレクション「交響曲」のチョコレートでは、ティーインストラクターの藤岡真子さん監修のティーペアリングが提案されています。

 

——仕上がりのチョコレートの風味はどのように想像していますか?

 

西森:今は国内にもビーントゥバーのお店がたくさんあり、どのお店でも扱われていない産地のカカオはほとんどないと思います。なので、タンザニアのカカオ豆を使ってみたいと思ったら、まずはいろんなお店のタンザニア産カカオ豆で作ったチョコレートを食べてみるんです。そうすると、共通点が見えてきて、このカカオはこういう特徴なんだな、とわかります。仕入れたカカオが届いてから試作をするまでに、ある程度のイメージが出来ていますね。

 

——他社のチョコレートをテイスティングして、いわば自分で扱うカカオ豆を「予習」しているわけですね。

 

「菜の花の優しい苦味が爽やかに走り抜ける……」独自のテイスティングノートができるまで
出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
各チョコレートについてくるフレーバーノートでは、チョコレートの味や香りをわかりやすく説明している。

——ナナイロさんのテイスティングノートは、具体的かつ繊細で、食べるたびに「ここに書いてある味が見つかった!」と感動します。こちらはどのようにして作られているのでしょうか。

 

西森:実はテイスティングノートを書くときって、けっこう恥ずかしいんですよ(笑)。

 

——「湖畔の朝の陽だまりをイメージした(SSコレクション2020『Batch no.49』のチョコレートのテイスティングノートより引用)」というような詩的な表現もされていますよね。ノートは西森さんがおひとりで書かれているんですか。

 

西森:チョコレートのフレーバーを最終的にまとめて文章にするのは私の役割ですが、毎回、私を含めスタッフ数名でテイスティングをしています。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
一度に作るチョコレートは30キロ。ひと窯ごとにバッチナンバーと呼ばれる番号が付けられます。同じ味わいは二度とありません。

——フレーバーノートの中には抽象的な表現だけでなく、具体的な食材の表現も豊富ですよね。

 

西森:新入社員にはまず、食材の味を覚えてもらいます。テイスティングに不慣れだとラザニアだったりジャムだったり、加工品でチョコレートの味を表現してくることが多いのですが、まずは食材単体の味を覚えるように、と教えます。必要があれば社内で勉強会も開きますよ。たとえばヨーグルトひとつとっても、ギリシャヨーグルトであったりカスピ海ヨーグルトであったり、味わいはさまざまですよね。たくさんのヨーグルトを買って並べて食べ比べて、みんなで意見交換します。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
社内勉強会のようす(提供:La chocolaterie NANAIRO)

ワインやコーヒーのテイスティングに使われるようなフレーバーホイール(※1)がありますよね。私たちは独自につくったチョコレート用のフレーバーホイールを元に、フレーバーノートを作成しています。実際に口に出来るものでチョコレートの味を表現することを大事にしているので、オリジナルのフレーバーホイールも日本で手に入る食材で書いています。

(※1:香りや味の記述語を丸く配列した図のこと。)

 

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オリジナルのフレーバーホイール。写真は手書きのメモが入った西森さん愛用のもの(提供:La chocolaterie NANAIRO)

——たしかに、ナナイロさんのフレーバーノートには日本の食材が出てきますね。今回のコレクションでは「玉露」という表現が印象的でした。実際に食べたり嗅いだりして風味を確かめられる食材だけで表現しているから、とても具体的な表現になるのですね。

 

西森:日本の食材であっても季節によっては手に入らないものも多いので、フレーバーノートを書くときには、今の時期に手に入る、旬なものであることも意識しています。

 

ナナイロのチョコレート作りは、丁寧な皮むきから
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カカオ豆の殻を剥いている様子(提供:La chocolaterie NANAIRO)

——ナナイロさんのチョコレートのおいしさの秘訣は、丁寧な手作業にあると思っています。以前ワークショップに参加したさい「胚芽(カカオ豆に必ず入っている硬い部分)は必ず取る」と仰っていましたね。

 

西森:はい。一般的にはカカオ豆を焙煎したあとの殻と実を分ける作業は専用の機械で行いますが、それだと余分な皮がどうしても残ってしまいます。そのため殻むきは手作業で行っていて、硬い胚芽もそのときに除きます。また、カカオ豆の状態が良くないと判断したものもすべて除くようにしています。

 

——生産性や効率、人件費などの問題もあり、手作業で殻むきを行っているビーントゥバーは少ないと思います。自身のブランドだからこそ可能な徹底したこだわりですね。

 

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カカオ豆の粉砕には、フードプロセッサーを使います。(提供:La chocolaterie NANAIRO)

——殻をむいたあとは、カカオ豆を細かくする「粉砕(ふんさい)」の工程があると思います。ここでもなにか気をつけていることがあるのでしょうか。

 

西森:ナナイロ公式のパンフレットには「粉砕」の過程が乗っていますが、粉砕せずに次の工程である「コンチング (カカオ豆をすり潰して液状にする)」をするものも多いです。カカオ豆が硬くて、細かくしておかないとすり潰せない場合にのみ粉砕します。

 

——えっ、そうなんですね。カカオ豆をすり潰す「コンチング」の作業はチョコレートの香りにかかわる大事な工程だと言われますが、その手前で粉砕するかどうかもまた重要なのでしょうか。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
コンチングマシーンの中でカカオ豆がすり潰され、液状になっていきます。(提供:La chocolaterie NANAIRO)

西森:そうなんです。できるだけ、豆が大きい状態ですり潰した方がいいと思っていて。わたしたちはチョコレート作りをするにあたり、ブランド創設時から世界的なカカオ研究の第一人者である佐藤清隆先生(広島大学 名誉教授 工学博士)に技術的なアドバイスをもらっているのですが、先生いわく、刃物で切るように粉砕するとカカオ豆の細胞が分裂してしまうんだそうです。細胞がバラバラになると、次の工程でうまく香りがでないということらしいです。わたしも実際に粉砕したもの、していないもので比べてみましたが、粉砕していないゴロッと大きな豆をすり潰すほうが、ぐっと香りが出ました。

 

——ゴマなんかも、すりゴマになっているものより、大きな粒をすり鉢で潰すほうが香りがいいですからね。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
2020SSのホワイトチョコレート
実はほとんどが手作業の現場

——工房はかなり小さいスペースだったと思うのですが、チョコレート製造専用の機械などはありますか?

 

西森:それがほとんどないんです。業務用のテンパリングマシーン(艶のあるおいしいチョコレートを作るための調温作業を行う機械)も購入したのですが、わたしたちがビターチョコレートを作る際はカカオバターや乳化剤を加えません。ただ、それだと機械がうまく動かないことが多くて。毎回微調整するのも大変。結局、ハンドテンパリングするほうが調整が効くということで、手作業に戻りました。

 

——ということは、今使われている業務用の機械はコンチングマシーンだけでしょうか?

 

西森:他にチョコレート用のストッカーがあります。できあがったチョコレートを熟成させて、風味を安定させるのに使っています。工房が一部屋しかないので、テンパリングとコンチングを一緒にできず、スケジュールを組むのが始めの頃はとても難しかったです。佐藤先生に工房に来ていただいて、動線を一緒に考えてもらったりと試行錯誤しました。今ではとても効率よく動けています。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
工房で使用しているコンチングマシーン(提供:La chocolaterie NANAIRO)

——また、ナナイロさんではテンパリングマシーンや工房が手狭でスケジュールが組めなかったこと以外にも、こんな苦労話も。

 

西森:カカオ豆の輸入を自社で行っているのですが、当初は通関業務や港からの輸送もすべて自分たちで行っていたので、毎回神戸まで行って積荷して島根まで戻って……と今よりずっと大変でした。

 

——チョコレートを作るために、出雲と神戸を往復!カカオ豆の入った麻袋は約60キロ、ものによって70キロもあると聞いて、尚更その苦労がしのばれました。「おいしいチョコレートを作りたい」というまっすぐな思いが彼女をここまで連れてきたのでしょうか。

 

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO
リモート取材は終始たのしい時間でした。

——カカオ豆の殻むき、テンパリングという時間のかかる作業をあえて手作業でやっていて、そのひとつひとつが唯一無二の味わいに繋がっている。納得です。

 

西森:ビーントゥバーって、クラフトチョコレートとも言いますよね。クラフトには手作業の意味合いがあると理解しています。できるだけ手作業で作りたいですし、手作業だからこそできるものを追求していきたいと考えています。

 

文・写真:嘉手川瑞姫

 

【Profile】

出雲の地でカカオに向き合う La chocolaterie NANAIRO

西森 亜矢(Aya Nishimori)  

1980年生まれ。大阪市出身。

関西外国語大学国際言語学部卒業

琉球大学人文社会科学研究科人間科学専攻民俗学コース修士課程修了

島根県出雲市にあるBean to bar chocolateメーカー「La chocolaterie NANAIRO(ラ ショコラトリ ナナイロ)」の代表。

2006年、株式会社ナナイロ(大阪)入社。経理などの事務を経て、総務全般を担う。2010年10月、島根県出雲市へ移住し、翌年5月1日、株式会社ナナイロ島根オフィス(支社)創業に携わる。2015年11月1日、新事業としてBean to bar chocolateショップLa chocolaterie NANAIROを開業。

現在も「世界一美味しいチョコレート」を目指してチョコレートの研究を独自に続けている。細かくデータを取るため、製作ノートは数十冊にのぼる。2018年11月にメキシコで行われたカカオ豆の品評会に国際審査員として招かれる。

 

【記事内で紹介されたチョコレート】
La chocolaterie NANAIRO 2020 Spring/Summer Collection より

・Seasonal Tablet Strawberry レギュラーサイズ ¥ 2,160 ミニサイズ ¥ 756

・Batch no.47~no.50 レギュラーサイズ ¥ 1,944 ミニサイズ ¥ 702

・White Chocolate Madagascar Cacao Trinitario レギュラーサイズ ¥ 2,160 ミニサイズ ¥ 756

 

公式HP&オンラインショップ

https://chocolate-nanairo.com/