広告やCDジャケット、アーティストのビジュアルなど、さまざまな媒体のデザインを手掛けているアートディレクターの千原徹也さん。彼が主宰するデザインオフィス〈れもんらいふ〉がプロデュースした喫茶店〈喫茶檸檬〉が、山梨県富士吉田市にオープンして話題を呼んでいます。東京のクリエイティブと富士吉田の資源が融合させたお店で、美味しいチョコレートを使ったスイーツもあるということで、千原さんにお話を聞きに行ってきました。まずは富士吉田の町と喫茶店の雰囲気をお届けします。

 

取材・文:小松翔伍

写真:チダコウイチ

 

昭和の香りが漂う街に魅了されて

東京から中央自動車道に乗って約90分。富士山を目の前で拝めて、富士急ハイランドがあって、河口湖も近い。富士吉田は、都民にとって気軽に小旅行を楽しむにはぴったりの場所です。

 

そして、平安時代から続く日本屈指の織物の名産地でもあります。富士山の湧き水を使った鮮やかな先染めの染色、細番手の絹糸で織られたきめ細かな質感、高密度で立体感のある美しい模様。仕立てる織物には高級感が漂い、江戸時代には絶大な人気を博していたそうです。戦後は東京をはじめとした全国の業者が買い付けに訪れ、“ガチャマン”時代(ガチャっとひと織りすれば1万円になる)と呼ばれたほど街は栄えましたが、昭和50年代から安価な海外製の織物に押され、機織産業は徐々に衰退。しかし、近年は伝統を受け継いだ若手の職人によってオリジナルブランドが誕生し、再び盛り上がりを見せています。

 

富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
どこからでも富士山を望むことができるのが富士吉田の魅力。改めてその雄大さに感動を覚える。
富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
レトロな街並みが残っているほんちょう2丁目商店街。
富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
古民家をリノベーションした居酒屋やオシャレなバーなどが集う新世界乾杯通り。何軒もハシゴしたくなること請け合い。

昭和の趣が残る、ほんちょう2丁目商店街。初めて来たのに地元にいるような気分に浸らせてくれて、なんだか心地いい。シャッターが降りてしまっているお店も見受けられるけれど、コンビニやチェーン店はなく、個人商店の温もりを感じられるのんびりとした空気感もいい。道を一本入れば機織産業によって賑わった繁華街の“西裏”があり、昔ながらの居酒屋やスナックは今も看板を掲げ、新たにオープンした飲み屋も共存しています。

 

富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
ほんちょう2丁目商店街の抜けた先に鎮座する富士山。ノスタルジックな街並みと一緒にシャッターを切れる人気のスポット。

そんなほんちょう2丁目商店街にある〈喫茶檸檬〉。商店街に馴染みながらも個性を放ち話題を呼んでいる、富士吉田の新スポットです。

到着したのはお昼過ぎ。店内では地元の人が食事やコーヒーを楽しんでいました。千原さんと合流し、私たちも食事をさせてもらいながら話を聞くことに。

 

富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
アートディレクターの千原徹也さん。あらゆる広告や媒体などで手掛けた数多くのデザインは、誰もが目にしたことがあるはず。

〈喫茶檸檬〉がオープンしたのは、2021年9月。“富士吉田市本町通り活性化プロジェクト”で千原さんに声が掛かり、出店に至ったそうです。「それまで、あまり富士吉田に来たことがなかったんですよ。でも、何度も訪れるたびに好きになっていって。昭和の雰囲気が残っているところがいいでしょ? ポテンシャルが高い街だと思います。全盛期と比べると少なくなっちゃいましたが機織工場もありますし、その中には海外のデザイナーズブランドの生地を織っているところもあるんです」。富士吉田に魅了されて移住してくる人は多く、古い建物を使ったゲストハウスや氷室を利用したギャラリーなど、街の魅力を生かした人気のスポットが他にもあるとのこと。

 

富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
歩道から少し高く設計されたお店の入り口。ネオンサインや昭和レトロなプロダクトが並んでいて、商店街に馴染みつつも洒落感のある店構え。
富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
現代アーティスト橋爪悠也さんが描いた千原さんの似顔絵も展示されている。

高い天井と道路に面したガラス張りの大きな入り口で開放感ある店内。店舗の設計を手掛けたのは、東京と富士吉田の2拠点で活動する中川宏文さん(O.F.D.A)。目を引く店内壁一面の富士山は、日本で2人しかいないと言われる銭湯絵師の1人、中島盛夫さんに依頼し描いていただいたそうです。そして千原さんのお子さんが描いたランチョンマットがテーブルに敷かれています。洒落たインテリアやアート作品が随所に配され、千原さんのセンスが垣間見えるこだわりの空間。レコードから歌謡曲などが流れ、ゆったりとした時間を過ごすことができます。地元の方が立ち寄ったり、商店会の会合が行われたりしているそうで、オープンから半年ほどですが、すっかり馴染んでいる様子。

 

富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編

「東京のクリエイティブを交えながら、地元の人が入りやすいコミュニティを作りたいと考えた結果が喫茶店でした。例えば、この机は誰が作ったもの、レシピは誰が考えたものって、東京のクリエイターと一緒にいろいろできますからね」。

 

富士吉田の魅力を再発見。アートディレクターの千原徹也さんが手掛ける喫茶店。前編
[富士ガトーショコラ]¥550

食事より先に注文していた[富士ガトーショコラ]がテーブルに到着。富士山をイメージしたかわいらしい佇まいに地元愛を感じます。濃厚なチョコレートの味わいに舌鼓を打ちながら、さらに話を聞いていきます。(後編へ続く)

 

 

喫茶檸檬

https://lemonlife.jp/kissalemon/

 

 

 

小松翔伍

ライター/エディター雑誌やウェブメディアで、ファッションを中心としたカルチャー、音楽などの記事を手掛けているフリーランスのライター/エディター。カルチャーから派生した動画コンテンツのディレクションにも携わる。海・山・川の大自然に溶け込む休日を送るが、根本的に出不精で腰が重いのが悩み