プラリネ、ガナッシュ、トリュフ。かわいくて、センスが良くて、そしてインスタ映えしそう!チョコレートって本当に凝ったデザインのものが多いと思いませんか? 自由自在に形を変えることができるチョコレートの可能性はどこまでも広がります。その形には、いったい何が込められているのか?

 

今回は、“チョコレート好き”を自負する、イタリア ミラノ在住のデザイナー菰田和世さんに、彼女が手掛けたチョコレートのデザインについて、またそのデザインワークを通じて浮き彫りとなる、デザインへの思いについてお話を伺います。

 

 

文:髙橋恵

写真:齋藤順子

 

 

菰田さんは、イタリアのミラノを拠点に、一流メーカーの家具から個人邸の内装デザイン、商品のパッケージング、ファッションブランドのインスタレーションまで、幅広く活躍する第一線のデザイナー。時代や使う人の心の在りようまでを意識した、深い洞察力と無限に広がる想像力を持つクリエーターで、その長く深い思考の末に彼女が生み出すデザインには、どこかやさしく、柔らかく、人を包み込むような空気感が漂います。

食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
菰田さんの作品。モノユーズテーブルクロス「Labirinto」 (パンドラ・デザイン社) Photo ©David Zanardi
食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
砂糖入れ「Mimì」 1997年リリースのロングライフデザイン(ドリアデ社)
食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
「ミラ・ショーン」クリエイティブチームとコラボした、 21/22秋冬展示会インスタレーション

 

「甘党だった父は、いつもチョコレートを鞄に入れていました。母の目を盗んでは、よく一緒にチョコレートケーキを食べたものです(笑)」という彼女。過去に、その大好物なチョコレートのパッケージデザインコンペやデザインチョコレートのエキシビションに参画してきました。

食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
菰田さんの自宅兼アトリエにて

菰田さんが最初に手掛けたチョコレートのプロジェクトは、2002年のイタリア、フェレーロ社の「モンシェリ」のパッケージデザイン招待コンペでした。イタリアで広く普及しているチョコレート「モンシェリ」は、チェリーとリキュールをダークチョコレートで包み込んだボンボンで、当初はピンク色をベースに大きな商品名とリボンが印刷された包装でした。当時の「モンシェリ」の売上げの7割弱は自分や家族のための購入で、年齢層は高め。同コンペは「モンシェリ」消費者の若返りを図るのが目的でした。

 

プロジェクトにあたって、まずフェレーロ社の開発担当者と、市場、顧客リサーチの結果を基に意見を交換。カラーリングひとつにしても、「パッケージの色を赤に変えたら、チョコレートを食べる罪悪感が高まってしまうかもしれない」、「ピンクもトーンによっては、化粧品に見えてしまい、おいしくなさそうに見える」など、活発に議論されました。その結果、菰田さんがデザインしたのは、商品のロゴを銀色のフェミニンなものに変え、抽象的なチェリーを配したシンプルなデザイン。そこはかとなく日本的なテイストも感じられる、デザインショップに置いてもマッチするようなパッケージでした。

 

「コンペには優勝したものの、スタイリッシュすぎたためか、商品化はされませんでした。しかし、心理を掘り下げながら分析するディスカッションは、とても楽しく、貴重な経験になりました」

食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
「モンシェリ」のコンペ優勝作品

続いて手掛けたのは、2004年の「ユーロチョコレート」のエキシビションための作品です。「ユーロチョコレート」は、毎年秋、イタリアのペルージャで開催されるヨーロッパ最大級のチョコレートの祭典。イタリア人インダストリアル・デザイナー、ジュリオ・イアケッティ氏が企画したデザインチョコレートのエキシビションに参画し、「ラタヴォレッタ」を出展しました。「ラタヴォレッタ」は、イタリア語の冠詞の「ラ」と、板チョコ「タヴォレッタ」を合わせた造語です。

 

「モンシェリ」で興味を深めた、心理的なアプローチの追求がこのデザインワークに生かされました。菰田さんがデザインしたのは、“食べる時に罪悪感を持たない板チョコ”。「板チョコの形はそのままに、中をくり抜きました。軽い印象を持たせて、罪悪感を払拭できたと思います。デザインにあたっては、厚みや切込みの角度などはもちろんのこと、食感にもこだわりました」。クリーンなフォルムですが、そのデザイン過程では細部に渡る試行錯誤があり、悩み抜いたそうです。「形のデザインは、誰にでもできることだと思います。様々な思いや条件を多角的に吟味しながら追求し、どこで『これで良し!』とするかを決定するのがデザイナーの仕事です。このデザインも、心理的な問題が解決し、パシッと形が決まる瞬間がありました」

食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
“罪悪感を持たない板チョコ”「ラタヴォレッタ」

「食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。『ラタヴォレッタ』では罪悪感に焦点を当てましたが、もちろん“おいしそうだな”とか、シンプルに“いいな”と思えるデザインを心がけています。」という菰田さん。彼女の好物のひとつに、銘菓「ひよこ」がありますが、「食べる度に、なんだかかわいそうになってしまいます。(笑)オブジェや家具に対するのとは、また異なる心理が働くので…。」と葛藤しながら食べているとのこと。

 

その後、菰田さんは、2018年、ミラノ・デザインウィーク期間中に開催された、デザインスイーツのエキシビション「ディグースト」にも、チョコレートのデザインで出展しました。同エキシビションは、ミラノの老舗菓子店「パスティッチェリア・マルテザーナ・ミラノ」とブッツォ・ランベルトーニ・デザイン事務所が企画し、19ユニットの国際デザイナーが参画。デザイナーには、「プラリネやビスケットなどを、レシピを変えずにデザインする」という課題が与えられ、ウィットに富んだコンセプチュアルなアプローチや新たなパラダイムを表現した作品が勢揃いしました。

そんな中、菰田さんは、かわいらしい実のなる小枝の形のチョコレート「ラメット(小枝)」を出展。それは見る人をほっこりとした気分にさせるようなデザインでした。「いかにも『デザインしました!』というものに辟易し始めていた時期で、自然の枝を模倣したデザインに行きつきました。人が作ったということを極力感じさせない、ナチュラルなものを作りたかったからです」

食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
「ラメット」

この時期は、ちょうど菰田さんのデザインに対する考え方の転換期にあたっていました。

 

「この頃から、自然なデザインに魅かれていきました。日本や北欧のデザインには、“自然との調和”へのリスペクトが感じられます。その一方で、イタリアのデザインに見られるような、“モノのデザイン”自体が中心となる 人間の能力への賛歌を唱えている時代ではなくなったのではないかと思い始めました」。

 

彼女にとって、モノを作ることばかりを考えて作った作品は、人生の小道具にすぎないと言います。

 

「本当に大切なのは、モノ自体ではなく、それを取り巻く人々が共に過ごす時間です。お皿をデザインするなら、そのお皿の周りに存在するはずの食事の情景、会話や笑いまでを思い浮かべてデザインする。デザインに閃きがあり、それを使う人があり、その人々の考え方や生活を良い方向に変えていける。そんな仕事をしていきたいと感じています」

食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
自宅兼アトリエには、陽光と自然の緑があふれる
Pasticceria Martesana Milano (パスティッチェリア・マルテザーナ・ミラノ)
食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。
© Pasticceria Martesana Milano

菰田さんが出展したデザインスイーツのエキシビション「ディグースト」を開催した「パスティッチェリア・マルテザーナ・ミラノ」は、1966年に創業した老舗菓子店。創業者のパティシエ、ヴィンチェンツォ・サントーロ氏は今も現役。現在ミラノに4店舗を構えています。

 

パリで開催された「2013年ワールド・チョコレート・マスターズ」で、世界第一位に輝くなど、数々の賞を受賞。また歴史ある店や工房を対象としたミラノ市の「歴史的工房・店舗認証」も取得しています。伝統を大切にしながらも、海外のパティシエとのコラボレーションやデザインプロジェクトなど、コンテンポラリーな新風を吹き込む企画も多数手がけています。

食べ物のデザインには、家具やオブジェのデザインに比べ、より深い心理的考察が必要です。

イタリアの菓子屋のケーキは、マンマの手作り感が拭えないラフな作りのものが多い中、この店はスパッとエッジが立った、プロの職人技を感じさせるケーキを提供。昔ながらの伝統的レシピのクッキーから、未来的なフォルムのケーキ、特別なフレーバーのパネットーネ、30種類もあるプチフールまで、幅広い品ぞろえを誇り、ドルチェに目のないミラネーゼの集う場所となっています。

 

公式サイト:https://www.martesanamilano.com/

 

 

菰田 和世(Kazuyo Komoda)

インテリア、プロダクトデザイナー。 東京生まれ。武蔵野美術短期大学、工芸(プロダクト)デザイン科卒業後、カワイ照明(株) ジ・エア-デザインスタジオ(株)を経て、1989年渡伊。 スタジオ・サンタキアラに勤務の後、フリ-ランスとしてミラノを拠点に活動。インテリアデザイン、家具、小物等のプロダクトデザインを中心に、カラーリング、パッケージング、インスタレーションまで、活動範囲は多岐にわたる。 主な仕事にドリアデ社、アチェルビスインターナショナル社、ドーンブラクト社などのヨ-ロッパの一流メーカーのプロダ クト、Filo di Setaブティックインテリア等 がある。作品はミラノトリエンナーレ、ケルン応用美術館、マグマ美術館、 武蔵野美術大学図書館コレクション等のパーマネントコレクションになっている。

 

 

文 : 髙橋恵(Megumi Takahashi

ミラノを拠点に、ファッション、デザイン、旅をテーマに、ジャーナリストとして活動し、日本、イタリアの新聞や雑誌等に寄稿。イタリア外国人記者クラブ、イタリア国立ジャーナリスト協会所属。

 

写真:齋藤順子 Yolliko Saito

長年に渡り、パリをベースに活躍する写真家。ヨーロッパ、アジア、アフリカで雑誌、書籍、広告の撮影を続けている。パリ、ベルリン、銀座で写真展を開催。日本写真家協会(JPS)会員。