ニューヨーク・ブルックリンに移り住み、日本と行き来しながら活躍する料理人、谷祐二さん。

経営者兼シェフであり、また、レストランディレクターとしての目線も持つ谷さんに、コロナ禍を経て飲食業が今後求められること、そして新たな取り組みについて話を聞いた。

 

文・本間裕子

写真・チダコウイチ

 

「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
以下、現地写真提供:谷祐二
「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二

フランス製の鋳物鍋「staub」を使用したホーミーなビストロとして2008年に西麻布交差点近くにオープンした「HOUSE」。裏路地の4階という場所でありながらも、日本各地の顔が見える生産者から届く旬の食材を生かした料理と友人宅に招かれたような寛げるムードで人気を集める東京の名店だ。同店のコンセプトを引き継いだ新店舗をニューヨークにオープンさせようと、経営者でありシェフの谷さんが家族を連れてブルックリンに引っ越したのは2019年9月のこと。「海外で生活をしながら料理人としてチャレンジしてみたい」という想いのもと、5年ほど前から構想していたという。物件も決まり、そろそろ工事をスタートさせようとした頃、新型コロナウイルスのニュースが駆け巡り、全世界が不穏なムードに包まれた。

 

「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
ブルックリンに引越し直後に仮住まいした長期滞在型ホテル(以下、ブルックリンの写真は谷祐二さん提供)

「日本の友人には『ブルックリンに引っ越していきなりコロナで大変だったね』と声をかけてもらうんですが、こちらは初めての海外生活でドタバタしていたこともあり、コロナの影響で大変だったのかどうか今でも正直よくわかっていないんですね。ただ一つ言えるのは、諦めること、許すことを学んだ一年でした(笑)」と谷さん。店舗の上に居住スペースを作ることを計画していたため、日本から運んだ家財道具はコンテナに預けたまま、長期滞在型のホテルを仮住まいとして新生活がはじまったという。

 

「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
谷さんがご家族のために作られた料理
「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
ファーマーズマーケットでお子さんと

突如訪れた家で過ごす時間は、率先して家族のために料理を作った。「日々のご飯を作る中で、食べることとか、生活するという当たり前のことが、いかに大切かということを改めて実感しました。東京の生活では仕事に明け暮れていたため、家族との時間も十分に取ることができなかったし、料理を作ることもできなかった。やはり一番身近な存在である家族に心から美味しいと喜んでもらえることは何より嬉しかったですね」

 

「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
谷さんがカカオを使って作った料理。焼きサフランおにぎり&モッツラレタブラータ、カカオパウダーとカカオニブを仕上げに

また、今まであまり手を出してこなかなったスイーツづくりや、商品開発にも取り組んでいるという。「決して甘党っていうわけではないのだけれど、最近になってデザートを食べないと食事が終わらない感じがして(笑)。それこそカカオは色々試しましたよ。カカオニブはスーパーフードとして注目されているし、デザートはもちろん料理にも使えて、しかもお酒にも合う。家族、そして食材一つひとつとじっくり向き合う時間を持てたことで、料理人としてのコアを鍛え直すような時間が過ごせた気がしています」

 

コロナ収束には時間がかかりそうなことを予感し、新店舗の物件は着工前に解約。契約金の一部、約4万ドルは失ったものの「コロナのおかげで、これからの飲食業の在り方を考え直す時間がもててよかった」と放たれる言葉はポジティブだ。ニューヨークという街、そしてそこに住む人々のエネルギーにも圧倒されつつ、影響も受けたという。

 

「誰の責任なのかっていうことを追求できる国だなと思いました。ロックダウンしたら家賃払わなくてはいいし、オーナーさんを支援するのも当たり前のこと。コロナ前の世界に戻そうと必死にしがみつくのではなく、新しい世界を作ればいいんだという考えがベースにあるんですよね」と谷さん。実際、ニューヨークでは、市長が毎日自分の言葉で情報を発信し、“ニューノーマル”が続々と生まれた。感染速度が落ち着いた6月末からは、ニューヨーク州が許可した、屋外の空いてるスペースでサービスを提供する「オープン・レストラン」もその一つ。屋外営業の許可料は通常年間1万ドルだが、特例により規則を守れば許可なしで使用可能に。加えて7月には、ニューヨーク市内の一部道路を週末だけ車両通行止めにして、客に開放するという施策もスタートした。「いずれも屋内営業が制限されている飲食店にビジネスを再開する場所を、客にとっては安全を確保しながら外食を楽しめる場所を提供するという明確な目的があり、明確なルールが打ち出されています。屋外スペースで外食を楽しむニューヨーカーの姿に、フロンティアの気概を感じました」

 

「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
今年2021年1月に販売されていたHOUSEのテイクアウト幕内弁当

「一方日本は、中途半端な要請に留まって、対応のスピードも遅くて判断や責任を店舗側に託されるような感じが続いていますよね。東京は飲食店に科せられたルールも厳しかたったため売り上げに目くじらを立てても仕方ないし、不安な時期をスタッフがすこやかな心身を保てる環境に整えることが大切。遠隔で資金繰りなどに動きながら、スタッフには新しいメニューを開発したり、どんなグリーンを飾ったらいいか考えたりしながら、これから先どうやって『HOUSE』を体現していくのかを考えて欲しいと伝えました」と谷さん。コンサルティングやブランディングで携わる飲食店と日々オンラインで打ち合わせをしつつ、2年間でニューヨーク、東京間を6回往復し、これからの飲食業の在り方についてアイデアを出し合ったという。

 

「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
新店舗となる物件

そして今年9月、マンハッタン対岸にあるブルックリンのイーストリバー沿いのエリア、ウィリアムズバーグに新たな物件を見つけ、契約した。間仕切りのない約100坪の倉庫物件で、天井までの高さは約7mもあるという。谷さんが営業する飲食店のほか、他業種も集めて面白い化学反応を生み出していく予定だ。

 

「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
「美味しさはもちろん、唯一無二の体験ができる飲食店を作りたい」料理人の肖像 谷祐二
ブルックリンの仲間たちと

「コロナ禍を経て、当初考えていた『HOUSEのブルックリン店』とは、全く違うものを構想中。まだ詳しくは話せませんが、カウンター8〜10席くらいのお店を週4、5日営業したいと考えています。ブルックリンに2年住んでみて、こちらで飲食店に求められているのは美味しさはもちろん、ストーリーとビジュアル、そして何よりも体験なんだと実感しました。僕だから表現できることは何か?と考えた結果、生まれ育った京都で学んだことに行き着き、京都の食文化である発酵や出汁が新店舗のコアコンセプトになっています。2022年6月頃のオープンを予定していますが、その頃には『ご飯食べに行こう』っていう言葉が気軽に交わせるようになっていてほしいですね。美味しいものの先にある幸せを、さまざまな形で提供していけたらと思っています」

 

 

PROFILE

谷祐二

株式会社Gather Inc.代表取締役。21歳から京都のフレンチレストランにて修業。2001年、株式会社ウェルカム入社。1店舗目の料理長を経て、フードサービス事業のゼネラルマネージャー兼、「西麻布 HOUSE」、「TODAY’S SPECIAL 自由が丘」などといった飲食店舗の総料理長を務めた後、独立。「HOUSE NY」をオープンさせるため、2019年9月に渡米。2022年の開業に向けて準備を進めている。

 

 

 

文・本間裕子

編集者・ライター。大学卒業後、(株)INFASパブリケーションズに入社。ファッション週刊紙「WWD JAPAN」、コレクションマガジン「FASHION NEWS」の編集を経て、美容週刊誌「WWD BEAUTY」に創刊時より携わる。退社後、フリーランスの編集・ライターとして、化粧品、食料品メーカーをメインクライアントに、ブランディング、広告制作等に携わる。甘いものは得意ではないが、カカオは大好きでコーヒー、赤ワイン、ラムに合わせて日常的に食している。料理家など食に携わる人たちとの交流が深い。

Instagram:@uozazaza