青森の街に来た翌日、散歩していてふらりと入った『COFFEEMAN good(コーヒーマングッド)』というコーヒースタンド。そこには後日取材予定の『WHAT A WONDERFUL CHOCOLATE(ワット ア ワンダフル チョコレート)』のフライヤーがあった。いくら青森が地方都市だからって、来て早々すぐに巡り合わせるなんて。きっと店の人同士が仲がいいのかな? 『WHAT A WONDERFUL CHOCOLATE』の取材先として指定された店『UGUISU(ウグイス)』は、青森に何度も来ている能町みね子さんが「ご飯食べに行ったことあるよ、おしゃれなカフェだよ」なんて言うし。なんだか面白そうなことをしているお店が全部つながっている気がして、取材前からワクワクした。

 

文・西村依莉

写真・チダコウイチ

ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー
『COFFEEMAN good』の中二階席から見下ろしたこぢんまりとした店内。いい眺め。
ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー
この日注文したアイスコーヒーとメロンクリームソーダ。彩りの美しいグラスは津軽びいどろ。
ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー

店主の橋本さんご夫妻。生のコーヒー豆から厳選して少しずつ丁寧に焙煎。四季折々で変わる味わいを堪能あれ!

 

ところどころに和のエッセンスが散りばめられたスタイリッシュな『UGUISU』の店内で待っていると、ニコニコしながら中村公一さんは現れた。中村さんが展開する『WHAT A WONDERFUL CHOCOLATE』は、青森発のクラフトローチョコレートだ。なぜ青森で? ローチョコレートを? 中村さんは自分がやっている事業について説明をしてくれた。

 

「僕が最初にやり始めたのは『QLOCK UP』というデザイン会社だったんですけど、チョコレートだけブランドとしてやっていて、他の事業は全部お店。カフェやレストランなど、青森市内で・店舗経営しています。元々、東京で音楽制作会社のレコードレーベルでアーティストのアートディレクションをやっていたんです。ファン会報やCDのジャケもそうですし、MVやツアーグッズも手がけていて、そのあとニューヨークへ異動になって、音楽の仕事をしながら暮らしていたんです。そこで外国人の友達に日本のチョコレートを食べさせたりすると、特にフランス人が『なにこれ? これはチョコレートじゃないよ!』と言うんです。最初は『何言っているんだよ、チョコレートだよ!』と思っていたんですけど(笑)。フランス人は植物油脂が入っているものはチョコレートのテイストじゃない、ということを言いたかったみたいで。だけど当時の僕はそういうのよくわからなかったんですよね」

 

ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー
『UGUISU』はホテル内にあるカフェレストラン。専属バリスタが提供する美味しいスペシャルティコーヒーと青森名物の料理が楽しめる。

「ブルックリンに住む友達を訪ねた時に、『マストブラザーズ』『ファイン&ロー』を知って衝撃を受けたんです。特に『マストブラザーズ』はブルックリン中心にアパレルとかのレジカウンターに3枚くらい置いてあって、チョコレート屋さんじゃなくても買えるシステムになっていたんです。そういうの、いいなー! って。僕はチョコレートが大好きだったんですけど、アトピーでチョコアレルギーだったので、食べると必ず痒くなるっていう十字架を背負っていました。だけど『ファイン&ロー』のチョコレートを食べたときに痒くならなかったんですよ。不思議に思って調べると、カカオを熱することによって発せられるアレルゲン物質や、日本で市販されているチョコレートに入っている植物油脂の中にもアレルゲン物質があって、おそらく僕の場合はそれが痒くなる原因だったんです。でも、カカオだけで作られているローチョコは、アレルゲン物質が混ざらない。もちろんカカオ自体にもアレルゲン物質はあるので、全てのアレルギー体質の人が食べて痒くならないわけではないけど、少なくとも僕はローチョコなら痒くならないとわかったので、これなら僕と同じようにチョコレートが好きなのにチョコアレルギーで食べられない子ども達が食べられるんじゃないかな? と思って、日本に帰ってから作るようになったんです」

 

2009年に帰国した中村さんは東京の広告会社で働いていたが、2010年、地元の五所川原で家業を継ぐことになる。家業をやりつつも、やはりものづくりをしたい、という思いから2012年に青森市でデザイン会社『QLOCK UP』を設立。何のツテもコネもない、一からのスタートだったため、当然仕事はゼロ。そこで考えたのが自分の会社の宣伝ができる場所を作ることだった。

 

「青森って料理がめちゃくちゃ美味しいんですよ。食材は海も山もあって、海は日本海も太平洋も陸奥湾もあるし。僕は日本でも屈指の食材レベルが高いエリアだと思っているんです。なのに、接客やプロモーションはすごく下手。デザインをするということに対してもリテラシーがあまりなかったし、メーカーさんにしても、一個一個の店にしても、マーケティングもブランディングもまず考えたこともないような感じでした。僕が学んできたのは広告論だったので、培ってきたスキルで地元の役人立てるんじゃないかな? という思いで『QLOCK UP』をマーケティング〜ブランディングまでワンストップでできるデザイン会社にしようと思ったんです。だけど肝心の仕事がない。モデル店舗としての飲食店を作ったんです。飲食店って広がるスピードと範囲が速いので、広告媒体としての飲食店という形で作りました。それが古いビルの屋上にある『PENT HOUSE(ペントハウス)』というイベントスペースのあるカフェレストランです」

 

ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー
中村さんは飄々とした柔和な雰囲気だけど、東京で、ニューヨークでたくさんのものを見てきた目をしている。

青森に帰って色々なことををやりながらも「チョコレートを作りたい!」という気持ちは中村さんの中に漠然とあった。その機会は『PENT HOUSE』をオープンしてから1年後に巡ってきた。

 

「青森をブルックリンみたいにいしてやろう!と思っているんです(笑)。地形的に海があって橋がある青森は、ブルックリンに近い気がしていて、小さくてもクラフトのメーカーがたくさんあって、広く発信していけるような街になればいいな、と。街を刺激するためにも自社でまずは商品を作っていこうということで、元々チョコレートをずっとやりたいなという思いがあったので、作りました。チョコレート工場がある街ってなんかいいですよね。2013年に『SWEETEST DAY(スウィーテスト・デイ)』というカウンター形式でプリフィックスのスイーツのコースを出すお店があって、そこが空いている時間にチョコレートを作って店頭に並べるという形で始めたんです。だけどおかげさまで人気が出て、チョコレートの生産量が追いつかなくなってしまったんです。店でデザートを作りながら合間で作れる作業スペースじゃないな、ということで工場を探していたら、たまたまアスパム(青森県観光物産館アスパムのこと)に空きがあったので、今はそちらに工場を構え、『WHAT A WONDERFUL CHOCOLATE』というチョコレートのブランドをスタートしました」

 

ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー
ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー
アップル、シーソルト、あおもりカシス、ピンクペッパーなどオリジナルフレーバーが揃う。

「うちのチョコレートはローチョコで添加物を入れてないので、夏は28度以上だと溶けてしまい、夜気温が下がるとまた固まるグルーム現象が起きて、健康には問題ないけどフレーバーが落ちてしまうため卸先さんに管理が任せられないんです。だから卸す期間は10〜5月のみ。県内では10ヶ所、東京・大阪で数ヶ所ずつ。あとはデパートの催事で呼ばれて余力があれば出すという感じです」

 

現在、中村さんが経営しているのは、青森市と仙台で合わせて10の飲食店。地域の課題とその解決策を考えた結果、どんどん事業が増えていった。遊ぶ場所が欲しくて人が集える場所として作った『PENT HOUSE』に、気軽に行ける美味しいコーヒスタンドが欲しいと考えていた時に出会った日本3位のバリスタと始めた『COFFEEMAN good』。青森駅は海のすぐ側にあり、数年かけて水質を改善、浜辺を整備して2022年には正式にビーチになることを見越して作ったのが『OCEAN’S DINER(オーシャンズダイナー)』。「ビーチのそばでハンバーガーが食べたい!」とサンタモニカの桟橋のそばにあるハンバーガー屋さんをイメージしたのだそう。

 

ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー
青森駅のすぐ側にあるビーチ。元は干潟だった場所に青函連絡船の護岸工事をして石垣になっていたが、数年かけてビーチに。今では海底が見えるほどの透明度。帆立貝や瓶を砂にする技術を使った砂を敷いたサステナブルビーチだ。

「他にも家業だった介護事業や病院、人材紹介の会社もやっていて、全部で6社を運営していますが、チョコレートは僕の中で活動の核となっています。6社もやっているとお金持ちになれるかな? と思ったけど、出てくものが多いのか意外と収入に関しては1社の時と変わらないですね(笑)。『QLOCK UP』の企業理念は『街を面白くデザインする』なんですが、裏テーマが『青森のシビックプライドを育てたい』なんです。僕自身、ニューヨークに住んでいたからというのもあるんですが、ニューヨークに少しの間でも住んだことのある人って、マグカップやTシャツのロゴにあるように“I♡NY”って本気で思っているんですよね。街への愛着や誇りがすごく強い。ひとりひとりがニューヨークの営業マンであるし、広報マンとして広めるから、新しいものが日本でヒットするよりもニューヨークでヒットする方が全世界へ広まるスピードや範囲が広いというわけです。青森県って47都道府県の中で所得の順位が大体46位か47位のビリの方で、沖縄、宮崎あたりとよく最下位争いしてるんですよ。ただ、幸福度ランキングはどうかというと、青森はやっぱり下の方を彷徨っているんですけど、所得が青森と同じくらい低いはずの沖縄や宮崎が1位2位とか、上位なんです。ということは、幸福度ってお金じゃない。じゃあどうしてお金がなくても人々が幸せと思っているんだろう? と考えた時、シビックプライドが高い、地元愛が強いということに繋がっているのでは? という仮説を立てたんです。だったら少しでも青森のシビックプライドを上げることをできたら青森のみんな幸せになれるんじゃないかな? と思って。そのために、自慢できるような商品やプロダクツがあるとか、駅前にビーチがあるとか、街が素敵になるように、と仕掛けていたら事業がどんどん幅広くなっちゃいましたね」

 

地元の人も、青森に遊びに来る人も青森のことが好きになる魅力的な街に。青森の面白そうな場所がつながっているという冒頭の予感は、中村さんが未来への期待を込めて街作りに携わり、育んでいたからだった。意欲的な中村さんのその取り組みは止まるところを知らない。今後やっていきたいことは? と聞くと、活動の核となっているチョコレートにさらに力を入れたい、という答えが返ってきた。

 

「今はまだやっていませんが、チョコレートの焙煎にも実は興味があって。うちのバリスタが、カカオ豆を焼くのに興味津々で。プロセスもコーヒーと一緒にハニープロセス(コーヒーの加工法のひとつ)とか、色々とまだやり方の可能性があるんじゃないかなと思っています。2023年にビーチの側に焙煎室ができる予定なんですけども、それに合わせて大きな焙煎器を入れる予定なので、色々と実験的にカカオの焙煎にも挑戦してみたいですね」

 

ローチョコレートを軸に、青森のシビックプライドを育てたい! 『QLOCK UP』中村公一さんインタビュー

 

 

WHAT A WONDERFUL CHOCOLATE

https://rawchocolate.shop

 

COFFEEMAN good

青森県青森市古川1-17-1 1F

017-763-5114

Instagram:@coffeemangood

 

UGUISU

青森県青森市新町1-11-16 1F

017-764-0898

Instagram:@uguisu_aomori

 

OCEAN’S DINER

青森県青森市柳川1-4-2 A-FACTORY 1F

017-752-9852

Instagram:@oceansdiner

 

 

文 : 西村依莉

編集者・ライター。1960~70年代を中心とした昭和期のカルチャーと猫やファッション、ライフスタイルをテーマに書籍や雑誌、WEBで活動中。近刊に『スペースエイジ・インテリア』(グラフィック社)、『桂浜水族館公式BOOK ハマスイのゆかいないきもの』(実業之日本社)など。

Twitter : @po_polka

Instagram : @po_polka