人気フードコーディネーターとして活躍する傍ら、神奈川・逗子でカフェを営んでいた根本さんが、家族で沖縄に移住したのは、震災直後の2011年春のこと。沖縄北部のやんばる(山原)の森での暮らしを経て、2018年、今帰仁村(なきじんそん)で再び、夫の潤士さんとともにカフェ「波羅蜜」(ぱらみつ)をオープンした。

 

「波羅蜜」とはジャックフルーツの和名であり、仏教用語としては、“仏様の悟りに至るまでのプロセス”を意味する。料理家として沖縄の食材を一から捉え直し、地域と家族との共生から見えてきた、理想のカフェとは…。

 

文:藤井 存希

写真:チダ コウイチ

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ

多くの観光客が訪れる沖縄の中でも、国頭郡の村・今帰仁村は大型施設などがなく、手つかずの大自然や昔ながらの沖縄の暮らしが残るエリア。

 

「今帰仁村に引っ越してから6年経ちますが、ここは海と山が両方近い“半島”で、葉山と似ている部分もあって、夫婦ともにもともと好きだった場所なんです」

 

そう語るのは、多くのレシピ本を出版してきた人気フードコーディネーターの根本きこさんだ。

 

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
「波羅蜜」がある今帰仁村の仲宗根周辺
沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
以前は木工所だったという建物を、1年ほどかけて夫婦でリノベーション。天井が高く広々とした空間にピアノや本棚、レコードプレーヤーなどが置かれ、家族で営むカフェの温かみが感じられる。

夫・潤士さんの地元・葉山でのカフェ経営から一変。沖縄での新たな“暮らし”に根付いたカフェ作りは、料理家として「食材を捉え直す」ところからスタートしたという。

 

「内地(沖縄県外)にはあって沖縄にないという食材が多いだけでなく、これまで知らなかった食材もたくさんあるので、一から勉強でした。夏になると沖縄では葉物がほとんど無くなってしまって、ウリ科の植物しか育たなかったり、同じ大根一つとっても、こっちは赤土なので、関東の黒い土で育つ食材とは味わいなども全く異なりますし、ゴーヤーも関東で手に入っていたものと比べ、こっちのゴーヤーはすごく苦かったりして、食材を一から捉え直さないと料理は務まらないと感じました」

 

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
東京ではまず見かけない赤い実「フートー(和名フトモモ)」で、スタッフをもてなしてくれた。リンゴのようなシャクシャクとした食感と程よい甘みがクセになる。

逆に言えば、料理家として新たな発見も多いそうで、もともと東南アジアの料理が好きだったという根本さんを興奮させるような食材も多いと言う。

 

「例えば、ときどき見かけるジャボチカバという木の幹にぼつぼつとイボのようになる紫色の実は、味が巨峰に似ていたり、ストロベリーグアバは本当に苺のような風味を持っていたり、沖縄ならではの食材に刺激を受けることも多いんです」

 

今回は、沖縄在来種である島バナナを使って、「APeCA」のインドネシア産スペシャリティーカカオとコラボレーションしたスムージーを提案してくれた。

 

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
島バナナとカカオの豆乳スムージー パイナップルとパッションフルーツの甘酸っぱさに、カカオニブの苦味がアジャスト。

「このカカオニブを食べたときにフレッシュな美味しさと香りの存在感を感じて、ほど良い酸味もあるので、カカオって本当にフルーツなんだなと思いました。カカオと同じ熱帯のものなので、きっとトロピカルフルーツとすごく相性がいいはずと、発酵させた豆乳ヨーグルトでスムージーに仕上げました」と根本さん。

 

 

豆乳ヨーグルトしかり、カカオとは発酵仲間である酒粕を使った「APeCA」コラボレーション2品目が、潤士さんが作る「ショコラテリーヌ」だ。

 

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
酒粕ショコラテリーヌ 見た目は濃厚だが、ふんわり、サクッと焼きあげた生地に、カカオニブの食感がアクセント。

潤士さんは、もともとお店で提供しているという『ショコラテリーヌ』に、インドネシア産スペシャリティーカカオのカカオバターとカカオマス、親しい酒蔵さんから送ってもらったという酒粕を使ってアレンジ。

 

「カカオによるコクがあるので、通常使用する卵黄は加えず、ベースも絹ごし豆腐とテンサイ糖の甘みなので、ベジタリアンの方でも召しあがって頂けます」

 

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ

「波羅蜜」のコーヒー焙煎やスイーツ作りを担当するご主人の潤士さんは、「沖縄産の食材の中でも、沖縄では難しいと言われてきたコーヒー豆やバニラビーンズ作りも進んできている」と教えてくれた。

 

「お店で出しているチャイは、隣村の放牧牛の牛乳をベースに、沖縄県産紅茶を作る「金川製茶」の茶葉と、沖縄産のニッキなどを合わせていて、一部のスパイスを除いた全てを沖縄県産でまかなえるようになってきました。いま沖縄の食材作りに挑戦する方々が増えてきて面白いんですよ」

 

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ
現在は、3人のお子さんと夫婦での5人暮らし。撮影時は、次女の縫衣ちゃんとともに食卓を囲んだ

地域と共生するなかで、食材を一から捉え直し、沖縄独自の食文化を敬う二人の姿は、逗子でカフェを営んできた時代とは異なるフレーズにあるように思える。

 

「もともと僕らが作りたかったカフェは、“もう一度人が集まれる場所に”という想いからでした。でも地元の方々からすると、外から来た人達の集落での発展が、場合によってはすぐに受け入れて頂けないデリケートなことがあると経験を経て感じたたからです。移住して10年が経ち、ようやくわかったことですが。僕らはいま、あえて町の商工会や役場の行事などに率先して顔を出したり、自分たちから動かないようにしています。

 

沖縄に移住してはじめの5年くらいはローカルの生活に馴染めるように結構頑張って自分たちから距離を縮めようとしていましたが、『波羅蜜』を始めたときに、そういうことは自然の流れに任せようと思いました。その土地にはその土地の方々の生活のペースがあって、そこに無理に入っていってペースを壊すようなことはしたくない。僕らがやっていることをきちんと認めてもらえれば向こうから興味を持って来てもらえるはずと、じっくり待ってみることにしたんです。まずは地元の前に自分たちの足元が固まらないと。先日も、道端で地元の方から『あの店のお兄さんだよね? 普通に入っていいの?」とか『こないだピアノが流れていてすごく楽しそうだったんだけど』と声をかけてもらえるようになって、少しずつ自分たちが考える形に近づいていけてる気がしています」

 

そんな潤士さんの言葉に寄り添うように、「最近は、毎日欠かさずコーヒーを飲みに来るパッションフルーツ農家の方や、離れたうるま市から毎日足を運んでくださるお客様もいて、もともとの生活やスタイルを変えることなく、日常を少しリセットするために使ってもらえているようです」と、根本さんも嬉しそうに話す。

 

沖縄へ移住して10年。 人気フードコーディネーター・根本きこさんが語る、地域との共生の上に成り立つカフェ

 

根本きこ

多数のレシピ本やフードエッセイを出版する人気フードコーディネーター。2011年の震災を機に、神奈川・逗子で夫の潤士さんとともに営んでいたカフェを閉め、家族で沖縄に移住。2018年、今帰仁村(なきじんそん)で再び、夫の潤士さんとともにカフェ「波羅蜜」をオープン。沖縄移住後も、「根本きこの島ぐらし島りょうり」、「沖縄 今帰仁「波羅蜜」の料理 カレー、ときどき水餃子」など人気レシピ本を多数上梓。

 

 

波羅蜜(ぱらみつ)

沖縄県国頭郡今帰仁村仲宗根278ー3

営業時間:10時~16時

定休:火~木曜

https://www.instagram.com/paramitajunji/

 

 

 

文 : 藤井 存希Aki Fujii

フードジャーナリスト

大学時代に受けた食品官能検査で“旨み”に敏感な舌をもつことがわかり、食べ歩いて20年。出版社時代はファッション誌のグルメ担当、情報誌の編集部を経て2013年独立。現在、食をテーマに雑誌やWEBマガジンにて連載・執筆中。

https://www.instagram.com/akinokocafe/