2021年春、沖縄・南城市の百名という海辺の集落のはずれにモダンな建築物ができた。箱のような四角いフォルムの建物が連なり、近づいてみると高い壁。美術館か、建築家の自邸かのようなミニマムかつダイナミックなフォルムだ。

 

ここは、「mui(むい)たびと風のうつわ」という名の宿。muiの建築は外と中、自然と人工物、宿と住居、暮らしと旅など、専有と共有部分それぞれがゆるやかに繋がるつくり。どこからが室内で、どこからが外なのか。「ホテル」という概念から解き放たれた宿は、そこにいるだけで心涼やかになり、まるで禅寺に来たような心地よい静寂。とても穏やかで、不思議な空間だ。オーナーの西さんに会い、muiという名前に込めたメッセージを聞いた。

 

文・小泉恵里

写真・チダコウイチ

 

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
(写真:神宮巨樹)

宿の名前、muiとは無為自然のmui。中国の思想家老子の「作為なく自ずと然る」からきていて、「生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声のように、水が硬いものにあたると形を変えるように、自ずと湧き起こる心の動きや行動に身をゆだねられるような場所にしたいというコンセプトを名前にしました」というオーナーの西悠太さん。

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui

muiは、従来のホテルが提供するエンターテインメントやラグジュアリーとは違う側面から旅の豊かさを提案している。mui(無為)という名前には自然と何かを発見して記憶の残る瞬間を見つけられるような空間になるように、という願いが込められている。

 

「旅は、はっとする瞬間を見つけることだと思うんです。あそこに行くとあんな感じの写真が撮れるだろう、ここの温泉に行ったら疲れが取れるだろう、ここに行ったらこういうサービスが受けられるだろう、とある程度結果を期待した行動が無為の反対の作為的なものです。予期せぬことや、素直な好奇心にしたがって起きた出来事の方が記憶に残ったりしませんか。予想していなかったことに出会った瞬間に、人は思考が働きます。その無為な瞬間が本当の意味でのコンフォータブルだし、旅の醍醐味なのではないかと思うのです。だからこそ、記憶に残るようなはっとする瞬間が見つかるために余計なものはなくそうと思いました」

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui

なるほど。だからこそ、muiには削ぎ落とし研ぎ澄まされた空間が広がっているのだ。どこまでも高い天井、今まで見たこともないくらい大きなドア、外界と内を仕切る壁すらなく、中央にはコンクリートの大きな囲炉裏と椅子があるだけだ。

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
(写真: 神宮巨樹)

沖縄に移住したのは6年前だという西さん。

 

「今まで色々な場所を転々としてきました。両親の都合で3歳から北京に6年間、その後福岡に7年。関東の大学に行き卒業後は名古屋勤務し、6年ほど台湾勤務になって駐在していました。それから大阪で2年勤務したのちに宿をやろうと思い、10年勤めた会社を辞めて沖縄に移住してきました。その頃ちょうど2人目の子どもが生まれるタイミングだったので、次のライフステージにシフトするためには今しかないと思い、とりあえず前々から移住先として考えていた沖縄に行くことにしました」

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui

南城市の観光の仕事を数年間経験し、いよいよ宿を始めることに。高校時代から建築が好きだったという西さんは、muiの設計を手掛けた建築家・ 五十嵐敏恭さんとの出会いについて話す。

 

「昔から建築が好きで、高校生くらいまでは建築めぐりをしていました。高校3年生のときに安藤忠雄の光の教会を見て建築の自由さを知り、感動しました。五十嵐さんの建築には、あの光の教会を見たときと同じような自由さを感じて衝撃を受けました。五十嵐さんの自邸は海に向かって建つ家で、屋根が大きくて窓が全開で、外と中との境界が曖昧。それが斬新で、インスピレーションを受けました」と話す。建築家から湧き上がる創造力と美的感覚を最大限に引き出し、muiが完成した。

 

もともと世界のさまざまな場所を旅していて、バックパッカー的な旅行をするのが好きだったという西さん。「今は子供もいるのでそこまで自由に旅に出られるわけではないけれど、宿を始めることでいろんな国からいろんな文化の人たちが来て話が聞けたらいいなという気持ちでした」

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui

ミニマムな空間なのに冷たさはなくやわらかな空気感が漂っているのは、「移住してから感じた沖縄の豊かさや良さをそのまま提供したい」という、西さんのシェアしたい気持ちがmuiの温かさを形成しているからだろう。

 

椅子の周りには沖縄についての本が置かれ、カフェカウンターの近くには西さんがゲストに紹介したい沖縄の作家さんの器や、食品などが並ぶ。カフェで提供されているのも、ソーセージはTESIO、コーヒーはYAMADA COFFEE OKINAWA、焼き菓子は近所のお店Botchi andante andante と西さんが沖縄で出会って感動した名店のものばかりだ。

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
Botchi andante andanteのチョコレートビスコッティとYAMADA COFFEE OKINAWAのコーヒー
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
西さんご自身も愛用していて、レストランや客室でも使われているnakamurakenoshigotoの器

4棟ある宿泊棟は、それぞれ1組ずつ泊まれるようになっており、リビングキッチンと寝室の2階層。庭が見える開放感ある空間、座り心地のいいレザーチェアに座って外をみれば鳥や木々の動きを眺められる。キッチンには調理道具や食器も揃い、暮らすようにゆったりと滞在できる。

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
(写真: 神宮巨樹)

エントランスすぐ近くには、カフェカウンター。お菓子や雑貨も並んでいる。宿泊ゲストでなくても、カフェやバーだけを利用することも出来るので、囲炉裏を囲んでコーヒーやお酒を飲むのも良いひと時だ。

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui
囲炉裏でいただくmuiのオリジナルのチョコレートケーキには宮古島の5年熟成のラム酒が使われていて、芳醇な香りが漂う(上写真:mui提供)
ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui

疲れたから癒しのために旅に出る、という旅のプロモーションには個人的に違和感があるという西さん。

 

「旅は疲れを癒しに行くものではなくて、好奇心や普段触れない感性に触れるから、その結果としてリフレッシュするものだと思うのです」

 

ちょうどmuiのホームページで、素敵な言葉を見つけた。

 

「たび」とは、そこに集う人のこと

好奇心の赴くままに、

なにかを見つける喜び

 

「風」とは、風と土のこと

その土地土地に吹く風と

ひろがる大地の手ざわり

 

「うつわ」とはその空間のこと

たびの宿を満たしつつ、

感受性が花ひらく

 

余計なものが何もないから、予期せぬ発見が見える。

うつわとしての宿に南城で出会う美しい瞬間をのせて、記憶に残る旅をしてみたい。

 

ここは未来の禅寺か。 旅の発見への扉をひらく宿mui

mui たびと風のうつわ

住所:沖縄県南城市玉城字百名1201-3

TEL:098-943-6301

Web:mui たびと風のうつわ公式サイト

Instagram:@mui_okinawa