先週までダウンジャケットを着てたと言うのに、突然夏がやってきたヨーロッパの6月。Tシャツとサンダルを慌てて引っ張り出し、ブリュッセルに向けて出発だ。ブリュッセルで電車を乗り継ぎ更に20分、ブレーヌ・ル・コントという小さな街にレガストはある。紺の雨よけテントと大きな窓にレガストのロゴの銀色がシックだ。初対面なので少し緊張しながら木の扉をあけると、レガストの共同経営者であるパトリシアが、外の太陽に負けない位の満面の笑みで「初めまして、やっと会えてうれしいわ!」と迎えてくれた。

 

文:三谷 裕子

写真:ミリアム・ティルラー

 

 

【INFO】アペカでは、来年のバレンタインに向けてヨーロッパから日本未発売を含めた選りすぐりのショコラトリーとエクスクルーシブな企画を進行中です。本稿に登場する「Legast レガスト)」もそのうちのひとつ。ベルギーでの現地取材から、その愛に満ちた魅力を紐解きました。

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
レガスト店舗外観
ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
色とりどりのボンボンが並ぶショーケースとパトリシア

ガラスのショーウィンドーの中に、ボンボンが並んでいる。会うのも初めてなら、チョコレートを頂くのも初めてなので、ウキウキしてしまう。「長旅で疲れたでしょう。さ、食べたいボンボンはどれ?」今日初めて頂くんですと答えた私に、ボンボンの説明を添えながらパトリシアがどんどん試食をさせてくれる。いくら取材といってもこんなに頂いていいのだろうか、と図々しい私でも恐縮してしまう。そう思った矢先に、共同経営者の片割れのティボーがラボからでてきた。「やあ、初めまして!」顔をくしゃくしゃにして元気いっぱいでご登場。ジョークをとばしまくるフレンドリーな彼のおかげで、すっかり緊張も溶けた。

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」

ブティックをでて、中庭をぬけると、いよいよカカオ豆加工のアトリエへ!カカオ豆がチョコレートになるまでの製造工程とその機械を見るのは初めてなので、興味津々。中に入るとすぐにカカオ豆の香りに包まれた。そして機械のたてる轟音に圧倒された。

 

それでは写真と共に、製造工程を説明しよう。

 

まずはカカオ豆の選定。ここで悪い豆やゴミなどを取り除く。レガストではこの工程に機械は使わず全て手作業で行う。

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
カカオの選定

選別されたカカオ豆をそのあとオーブンで焙煎する。この焙煎作業が後のチョコレートの味を左右する。焙煎時間が長すぎると苦くなる。カカオ豆の種類により、温度や焙煎時間を調整するのだそうだ。

 

そして焙煎されたカカオを今度は粉砕する。カカオ豆を粗く砕いて、殻などを取り除き、カカオ豆からカカオニブを取り出す。 下の写真がその粉砕機。

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
粉砕機。パトリシアがカカオ豆を入れている。右端の機械はグラインダー

カカオ豆から取り出したカカオニブをグラインダーという機械にかけて、細かくすりつぶし、ペースト状のカカオマスにする。カカオニブに含まれているカカオバターという油脂分により、どろどろしたペースト状になる。

 

「ここまでがカカオ豆の加工過程で、この後チョコレートの製造工程に入るよ!機械ばかリで、中が見えないからざっと説明するね。まずはこのカカオマスに砂糖、カカオバター、それからミルクチョコレートの場合はミルクなどの乳製品をこのミキサーで混ぜる。」

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
ミキサー

「このあとの工程は、機械ばかりで中が見えないから説明だけするよ。この大きい機械の中では、さっき混ぜたチョコレートをロールにかけて滑らかにしてるんだ。そのあとは、こちらのコンチェで時間をかけて練り上げる。そして最後にテンパリングマシンで、温度を調整する。これでチョコレートは出来たから、あとは型に流し込んで固まったら型から取り出して完成!」

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
出来立てのタブレット
ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
(左写真)チョコレートを型に流し込む(右写真)余分なチョコレートをヘラで取り除く
ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
色鮮やかなタブレット。カカオの生産地特有の動物や昆虫がモチーフ

製造工程の説明を終わり、いよいよタブレットの試食が始まった。「カカオの含有量の割合でチョコレートの味が変わると思っている消費者が多いけど、それは間違いだ。味はカカオの種類や産地によって変わるということを伝えたいんだ。」とティボーは言う。試食してみると、実際彼の言う通りで、例えばコロンビア産のダークチョコレート(チョコレートアワードのヨーロッパ部門の銀賞受賞)は、香辛料、蜂蜜、柑橘類が感じられ、アタックがはっきりしていて余韻は中程度。これに対して、ペルー産のカカオを使用したタブレットは(チョコレートアワードのヨーロッパ部門の金賞獲得)、より繊細な味わいで花のアロマが感じられ、余韻がとても長い。

 

この二つのタブレットはカカオ78%なのだが、苦みや重みは全く感じられず、とてもバランスが良い。ティボーの説明通り、カカオ率が高いということはそのカカオの特徴がより明確に伝わるということなんだ、とすんなり理解ができた。この後、コスタリカ産、エクアドル産、なども試食したが全て味わいが違った。そして私がなによりも驚いたのはミルクチョコレート。私たちが普段口にする、スーパーに並ぶ大量生産のミルクチョコレートは、砂糖の甘さばかりが感じられる上、カカオバターの入れすぎで脂っぽく重く感じてしまうものがほとんどだが、レガストのミルクチョコレートタブレットは、全く違った。「甘い」というより「優しい」味わい。ティボーによると、大量生産のミルクチョコレートは45%カカオと表示されていても、実際のカカオ含有量は15~30パーセント位なのだそうだ。なるほどそれで甘いのか、と納得。レガストのミルクチョコレートは甘いというより、優しい味わいというほうがあっているだろう。昔お母さんが作ってくれたホットココアのように懐かしく癒される。

 

この試食会を終えて、自分なりにわかったことは、ワインがブドウ品種と醸造家の醸造方法によって味が異なるように、ビーントゥバーとは、育った土壌によって違うカカオの味わいと、そのカカオをチョコレートに変えるショコラティエの職人芸から生まれるものだということ。つまり中身とチョコレートのバランスを楽しむボンボンとは正反対のところに位置すると言えるだろう。ビーントゥバーは、カカオが主役で、チョコレートとはカカオという果実から生まれたものであることを私達に再認識させてくれる。そのカカオの育った土地、そして生産者のこだわりや努力をショコラティエの職人芸で表現しているものなのだ。

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」
中庭。奥の建物がカカオ豆の加工をするアトリエ

工場見学を終えた私たち一行は、撮影もかねて中庭へ移動する。ティボーは日曜大工が趣味とのことで、木材や梯子などが置いてある。それから滑り台などの子供の遊具。しかも最近、家庭菜園も始めたそうだ。「見てみて!こんな大きな蕪もできたんだよ!」とまるで子供のようにはしゃぐティボー。

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」

さて、このレガストを支えるカップル、パトリシアとティボーの経歴について話してもらった。パトリシアはコロンビア出身でカカオのスペシャリストである。母国コロンビアでは、カカオ農園と共に、より良い品質のカカオ豆を育てることに専念してきた。今でも彼女は一年の半分は現地に出向き、カカオ農園に栽培の方法を指導したり、彼らのカカオ豆がどういうチョコレートになったかを食べてもらうことにより、栽培方法でどう味が変わることを理解してもらうそうだ。実はカカオ農園が、彼らのカカオがどういうチョコレートになったかを知る機会はほぼないそうだ。「だからチョコレートを食べてもらうことによって、栽培方法によって味が変わるということを理解してもらうの。そして欠点などを理解し、どう栽培方法を変えるかを一緒に決めるのよ」

 

ティボーは、父親がショコラティエの家に生まれた。今のレガストのブティックは、父親から譲り受けたものだ。このブティックの二階は彼らが生活をするスペースで、そこで育ったティボーは今もここに住んでいる。そして転機は五年前にやってきた。その当時は一年にわずか60キロの生産量の、ベルギーの田舎町の小さなショコラティエだったティボーのもとにコロンビア政府から電話がかかってきたところから始まる。なんとコロンビアへ行きカカオについて学ぶ研修旅行の招待だった。「その時には自分の耳を疑ったよ!こんな小さなショコラティエのところになんでこんな夢のような話が転がりくるんだろうって」。そしてコロンビアに飛び立ち、現地のチームに会うのだが、そのチームの一員がパトリシアだった。研修期間中に、彼女にすっかり恋してしまったティボーは猛烈なアタックを開始し、めだたくその恋は実り、パトリシアはベルギーに移住することを決意した。彼の彼女への惚れ込みぶりは現在も全くかわっていないようで、出会ったいきさつを照れもせず、どちらかというと意気揚々に語ってくれて、なんとお熱いことでと一同笑ってしまった。彼のこういった天真爛漫さはこちらまで明るい気分にさせてくれる。その横で穏やかに見守る、ハンサムウーマンという言葉がぴったりのパトリシア。カカオをきっかけに出会った彼らの作るビーントゥバーには、パートナーに対する愛情と尊敬の念がこもっているように感じる。

 

工場見学から始まって彼らの家のリビングで試食を終えたら、なんと三時間も経っていた。さよならを言う時には、持ちきれないほどのお土産を持たされ、「また会おうね!」と誓い会い、すっかりレガストの大ファンになったカメラマンと私の二名は、なんて幸せな時を過ごせたのだろうと言いながらレガストを後にした。

 

 

さて最後に、レガストファンになってくださった皆様に朗報です。来年のバレンタインに向けて、レガストのタブレットが日本にやってきます。詳細はアペカにてお知らせ予定。どうぞお楽しみに!

 

 

ベルギーから届いたラブストーリー、ショコラトリー「Legast(レガスト)」

Chocolatier Legast

rue de la station, 65
7090 Braine-le-Comte
Belgique

Tel. : +32 67 56 08 74

https://www.legastchocolatier.com/