わたし、カカオを仕事にしたい大学生。チョコを作るだけでなく、カカオが担えるもっと色々な役割を求めて静岡で農を学んでいるところ。でも、その”色々”とは何なのか?そのヒントに迫るべく、カカオを取り巻く地域・人の生活や考えを探る旅に出かけた。

 

文・写真:厚味 莉歩

写真:チダコウイチ(表紙、プロフィール)

〈いざ上陸。北へ走る。〉
カカオ愛農大生のカカオ体験記① 文化が混じり自然と生きる場所「やんばる」編
亜熱帯植物のみなさん(瀬長島)

東京から飛行機で2時間半。7月に入れば沖縄はいち早く夏で、溶けそうな熱気と梅雨明けの眩しい空と、熱帯らしい植物たちに囲まれて、沖縄に来たことを実感する。カカオはもちろん熱帯植物のみなさんは人間とは遠くて近い怪物みたいで、いつも不思議さと可愛さで私の心を掴む。植生の違いが最高だ。

 

那覇ではモノレールが活躍するが、たった17kmのレールの外では足はバスか車くらい。那覇から100km、やんばると呼ばれる沖縄北部へレンタカーを走らせる。実は高校生の時、この辺りまでバスで行ったことがある。バスは海沿いだけなので、当時内陸までは歩いていったのを思い出す。今回一番の目的は国頭村の「OKINAWA CACAO(オキナワカカオ)」。やんばるの作物とカカオ豆からチョコレートを作っている。代表の川合径さんは、東京から単身で移住して事業を始めた。店舗のある浜集落の隣、田嘉里(たかざと)集落で亜熱帯性の植物たちと暮らしている。

カカオ愛農大生のカカオ体験記① 文化が混じり自然と生きる場所「やんばる」編
日没前のやんばるホステル。ロビーはびっくりお洒落な作品みたい。(国頭村)

川合さんがオススメしてくれた「やんばるホステル」にチェックイン。廃ホテルをリノベしておしゃれに作りこまれたデザイナーズホステルだ。ちょっとロックなスタッフさんにビビりそうになるが、実際は穏やかでフレンドリーなお姉さんお兄さん達だった。

〈やんばるに移住すること。自然の中で生きること。〉
カカオ愛農大生のカカオ体験記① 文化が混じり自然と生きる場所「やんばる」編
国道58号線から見たやんばるの海と亜熱帯の植物さん。やんばるはどこにいても植物の緑が青い空と海によく映える。(大宜味村)

やんばるは大自然だ。海に囲まれ、その辺で釣りをすれば亜熱帯のお魚が、カツオやマグロすら生で漁港に運ばれてくるそうだ。そして、山が覆い、多様な植物が森を作る。水が湧くところはパワースポットも多く、飛び込んだり泳いだり遊び場になる川もある。山道では天然記念物のヤンバルクイナやリュウキュウヤマガメが飛び出してくることもあるらしい。島バナナやシークワーサー、マンゴー、パイナップルなどトロピカルな果物や、月桃やカラキやサトウキビみたいな沖縄らしい作物たち。少し散歩をすれば家々の垣根にハイビスカスが。ゆったりした空気の中で人と自然が繋がっているのを感じた。

 

豊かな自然と特有の食、海沿いだけ広く綺麗に整った道。観光客としてこれらを見たらリゾート地だが、ちょっと中を散策したり話したりすれば日々の生活の場だと気付く。田舎感のない田舎で非日常と日常が共存する面白さもあった。

 

 

川合さんは東京などに溢れる情報もお金の動きもサービスも、ここには少ないと言う。だからなのか、人々の生業はもっぱら“自分たちで生み出すこと”が多いらしい。外注先が少ないので多くを自分たちでやるのだ。OKINAWA CACAOでも、経営者としての役割を川合さんが担ったら、あとはスタッフやパートの皆さんがそれぞれ出来ることを増やそうとしていた。

 

東京にあるものがないとはいえ自然の恵みがもたらすものは大きい。近くにある自然が遊び場にもなり観光客を呼ぶ資源にもなり地域の食の源泉でもある。そんな豊かさが、すぐそばにあって目に見えるのは静大の農学生からしたらとんでもなく魅力的。

 

OKINAWA CACAOの商品もやんばるの気候と土地柄が生んだもの。月桃、カラキ、シークヮーサー。チョコがやんばるの植物を引き立てる。スムージーにも使われる島バナナは川合さん家の玄関で熟すのを待っていたのを見たからか、どこか感慨深い。

 

 

ちなみに、川合さんだけでなくOKINAWA CACAOのスタッフさんの多くも出身は別の地域。口を揃えて「まさかここに住むことになるとは!」と言う。ちょっと別の興味で足を運んだら、心地よい空気感に引き留められたり、関わってみたい心を刺激されたりして住んでしまったそう。ここにしかない自然や文化が人々を引き付けているように思う。

カカオ愛農大生のカカオ体験記① 文化が混じり自然と生きる場所「やんばる」編
朝日の射すホステルのシェアキッチンでハーブティーの準備。(国頭村)
カカオ愛農大生のカカオ体験記① 文化が混じり自然と生きる場所「やんばる」編
畑で収穫してそのまま吊るされ、熟すのを待つ島バナナ。(大宜味村田嘉里集落)

ひとつながりの自然に対してコミュニティは分かれるようだ。集落内では親戚同士のように強く繋がれている一方、(昔に比べると寛容にはなってきたそうだが)お隣の集落へは行き先になる知人でもいないと中々立ち入れない雰囲気が残っているそう。閉ざされた小さなコミュニティが密集して、でも誰かが嫁ぎに行ったり来たりして、ぽこぽこ風穴が空いているようにも思える。

 

やんばるの人々は“自分たちで生み出すこと”が多いと述べたが、そうしたなかに移住者同士の繋がりを垣間見たのがOKINAWA CACAOでの出会いだった。

〈やんばるに移住すること。動かす風を吹き込むこと。〉

今回出会った移住者はOKINAWA CACAOの中だけではない。ホステルのスタッフさん達も、OKINAWA CACAOから繋がる果物の生産者さん達も移住者だった。自然や空気感に惹かれて住んでみたら、地域・人の環境を変えてみたくなった。これがよく聞く移住のきっかけだ。だからなのか、彼らの多くは地域づくりを目指すようだ。

 

しかし移住者は集落ごとのコミュニティからちょっと浮くらしい。だからこそ移住者の周りには自然と移住者が集まるのかもと考えてしまう。やんばるは場所も情報も限られるから、アンテナを張れば目立つものはすぐ見える。そうやって広い視野で動く人達が繋がり合って、村を越えた新しい繋がりが出来る。そうした動きが、閉ざされたコミュニティの垣根を溶かし、新たな文化を作っているように思えた。

 

そう、OKINAWA CACAOの川合さんたちがチョコやカカオを作るのも、地域づくりへの熱があるからこそ。カカオ作りは沖縄でしか出来ない価値を生み育てる可能性を秘めている。沖縄は必ずしもカカオの育成に適した環境ではないが、だからこそ自分たちで工夫し時間をかけて育てていく。それだけでなく、多様なものと組み合わせやすいチョコを作ることで、人と人、人と地域を結び付けていく。カカオを育て、人を育て、チョコを通して人とやんばるを繋ぎ合わせる。そうしてやんばるに根を張り、地域と一緒にやんばるを盛り上げようとしている。

 

やんばるは変化に消極的な傾向もあると聞いていたが、エネルギー感じる変化が確実に進んでいた。川合さんの拠点である田嘉里集落は移住者が多いそうで、新しい取り組みもどんどん始まっている。彼らは「盛り上がってきてるよね」と嬉しそう。土地ならではのものと人との繋がりによって、新しい価値が生み出されている様子がなんともステキだ。どんどん成長し続けるこの地域のこれからがとても楽しみに感じた。

 

カカオ愛農大生のカカオ体験記① 文化が混じり自然と生きる場所「やんばる」編

OKINAWA CACAO Factory & Stand

沖縄県国頭郡国頭村浜521

11:00-18:00(火曜定休)

地域を育てる。人を育てる。カカオを育てる。これらを通して地域が自ら地域づくりをしていけることを目指す。カラキ、シークヮーサー、月桃など沖縄でヌチグスイ(命薬)と呼ばれる恵みとともにチョコレートを製造・販売する他、県内2か所でカカオ栽培を行う。

OKINAWA CACAO | Bean to Bar OKINAWA CHOCOLATE

OKINAWA CACAO ONLINE STORE

 

 

文章・写真:厚味莉歩

名古屋出身。静岡大学農学部2年。高校1年でカカオを調べることにハマり、続けるほどに増した愛からカカオと共に生きたいと強く思うように。どこを伸ばせばカカオのためになるか考えた結果、農学で専門家になろうと決めて大学へ。お茶とミカンの静岡で日々農や食や人の営みを学んでいる。

APeCAではコラムニストとして活動後、編集部のインターン記者として本企画を開始。

カカオ愛農大生のカカオ体験記① 文化が混じり自然と生きる場所「やんばる」編
田嘉里集落にて(写真:チダコウイチ)