カルチャー誌『SWITCH』で副編集長を務めていた川口美保さんは、沖縄に移住後、旦那さんとともにカフェ「CONTE(コント)」を営み、2019年冬に『CONTE MAGAZINE』を創刊。「CONTE」がフランス語で「ショートストーリー」という意味をもつ通り、沖縄・首里で構えた「CONTE」にはたくさんの繋がりや物語が生まれている。

ガイドブックには載っていない“沖縄のいま”を取材するため、川口さんを訪ねた。

 

 

文:藤井存希

写真:チダコウイチ

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
雑誌『CONTE MAGAZINE(コント マガジン)』

編集とは、〝情報を集めて編む〟こと。

 

取材する先々で話題にあがる情報や、見聞きしたメモが何度か重なったとき、それをテーマに記事を作る。今回の取材では、“CONTE”と“川口美保”という2つのキーワードが、“沖縄のいま”を取材するうえで、欠かせないテーマだと確信していた。

 

昨年、別の取材で沖縄を訪れた際、やちむん作家のアトリエや口コミで訪れたカフェなど、注目すべき場所には必ずと言っていいほど、雑誌『CONTE MAGAZINE』が置かれていたのだ。不思議なご縁を感じ、自分へのお土産に約190ページもある分厚い雑誌を買って帰ったところ、今回『APeCA』の取材で、カフェ「CONTE」へ伺うことになり、“あの雑誌と同じ名前…”と、点と線が結ばれた。 

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
近所のさくら猫の餌やりが日課だという川口さんに、首里の街を案内してもらった。

雑誌『SWITCH』の副編集長だった川口さんが、約20年間勤めた東京の出版社を辞め、旦那さん・五十嵐 (まこと)さんとの出会いをきっかけに、沖縄・首里へ移住したのは2014年。移住して1年めは、フリーランスとして東京から持ってきた書籍の編集を行いながら、近くの郷土料理「富久屋」で週23日アルバイトし、昔からの首里での風習や暮らしを店主ご夫婦から教えてもらったという。

 

「沖縄での暮らしに慣れてきた頃、これからのことを夫と話し合い、“お互いに得意なこと”を考えたとき、ずっと飲食に関わってきた彼はご飯を作る、私はイベントを企画したりコミュニティを作れる場所として、『CONTE』をオープンしました」

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
2015年9月にオープンした、レストラン「CONTE」。料理担当は、旦那さんである五十嵐 亮(まこと)さん。
東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
入り口側にはキッチンと、沖縄にルーツのある作家の器や、地物の野菜、毎週木曜に入荷するという「宗像堂」のパンなどが販売されている

「ここはもともと首里城の再建に関わる建築事務所が入っていて、物件が空いた時はただの箱だったんです。でも何もない箱の状態のほうが、雑誌のようにレイアウトできるので、魅力に感じました。そして、雑誌の誌面もそうですが、組み合わせや掛け合わせで面白くなる。器と食事、コーヒーと本、音楽とお酒、というように、店の中でいろんな結びつきが生まれたらいいなと思いました。

夫と話すなかで、『自分たちだけの場所にせず、いろんな人に使ってもらえる場所にできたら』という共通する想いがあって、コーヒー屋さんやワイン屋さんを招いてイベントをやってもらったり、東京で働いていた時の繋がりでアーティストにライブをしてもらったり、そんなスペースを作りたいと思ったんです。」

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
テーブルと椅子があればレストラン仕様だけれども、訪れる人やイベントによってライブ会場にも、ギャラリーにもなる空間。

お店を始めた頃は楽器も何もなく、機材などはレンタルしていたが、少しずつ自前のものを増やしていき、とうとう2年前にピアノも購入したという。

 

「オープン当初からピアノはずっと探していて、数人のミュージシャンから、70年代のYAMAHAのピアノがいい』と聞いていたんです。それで、ずっとYAMAHAのピアノを中古で探していたら、すごく素敵な音がする70年代のYAMAHAのピアノに出会ったんです。このピアノが店に来てからは、ライブはもちろんですが、立ち寄ってくれたミュージシャンがピアノを弾いてくれて、突然、ミニライブがはじまったり、なんてこともあります。コロナが終息したら、またいろんなライブを企画したいですね」

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
川口さんが探し求めていた、70年代のYAMAHAのピアノ (写真提供:川口美保)
東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』

 

 

カフェ「CONTE」を構成する一つ一つに、物語が宿っているのを感じ、改めて楽器や家具、本棚へ目を向けていくと、壁にかかる一枚の絵に惹きつけられた。川口さんが創る雑誌『CONTE MAGAZINE』の表紙になった作品だ。

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
屋外で太陽や雨風にさらされて錆びていったブリキの板をキャンバスに絵を描く、首里に住む画家BEBICHINさんによる作品。
東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』

「店名であり、雑誌の名前でもある「CONTE」は、夫が付けてくれたんです。フランス語で『ショートストーリー』という意味です。食材ひとつ、 器ひとつ、そのすべてに作り手の想いやそこまで辿り着いた物語があります。単なる食事、単なる器、ではなく、そこに紡がれた物語を知り、想いを馳せることは、この世界を立体的に捉えるためのコツのような気がしています。 それは、店を続けてきての実感でもあり、雑誌の一号目も物語をテーマにしたいと思いました。目には見えない、普段は意識しないようなことの中に、小さな物語や大いなる物語を見いだしてみようと、笑福亭鶴瓶さんや作家の角田光代さん、医師の稲葉俊郎さんらを迎えて一冊作りました。表紙のBEBICHINさんの絵は、ブリキの上に自然と作り出された錆の模様からインスピレーションを得て、新しい物語を重ねていくように描かれているんです」

 

CONTE」をイタリア語では「コンテ」と読み、意味こそ異なるが、編集者が撮影前に準備する「絵コンテ」にも通づる響きは、めぐり合わせのようにも感じられる。

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』

「雑誌としての『CONTE MAGAZINE』の構想は、もともとお店のオープン時からありましたが、正直、『沖縄で雑誌を作る』と言っても、何を取り上げていいかわからなかったし、沖縄で自分に何ができるのかな? と不安な気持ちも大きかった。でもお店をやっていると、不思議なことに、いろんな繋がりが出来ていくんですよね。例えばこっちでいう農家さん『畑人』(はるさー)が育てた食材を、うちのお店で料理し、お客様が食べて、お客様からいただいたお金を、また畑人へ還元していく。小さい輪っかのような繋がりがちゃんと見えてきて、こういう小さな循環が見えやすい沖縄だからこそ伝えられることがあるのではないかと感じ、自費出版で創刊することにしました。東京にいた頃は、そういった小さい輪や繋がりが見えにくかった気がしています」

 

そんな輪っかの内側にいることを、東京から来た私たちも、身をもって感じられたのが、取材中にいただいた心づくしの料理たちだ。

 

店で提供されるメニューとは異なるため一部だけ紹介すると、亮さんが作ってくれた「豚ヒレ肉 デミグラスソース」は、しーぶん(おまけ)と呼ばれる、地元のお店や人からのおすそ分けの風習によっていただいた、豚ヒレ肉を使ったひと皿。

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
薄く衣を付けて揚げた豚のヒレ肉に、カカオパウダーを練りこんでコクを出したデミグラスソースを添えて。しっとりと柔らかな豚肉に、思わず頰がゆるむ。

「『コレも付けておくね!』と、“しーぶん”でいただく野菜や肉などが、嬉しいことに、大量なんです(笑)。東京でも昔の下町にあったようなおすそ分けの文化ですよね。我が家では、『しーぶん』でその日の献立が決まる日もあるほど(笑)」と亮さん。

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
料理担当は、旦那さんである五十嵐 亮(まこと)さん。

また、APeCAの記事公開に合わせて、インドネシア産スペシャリティーカカオを用いて特別に作ってくれたのが、チョコレートチーズケーキだ。

 

「小麦粉を使用せず、クリームチーズを混ぜることで、濃厚なのに飽きのこない味わいに仕上げました。作る工程でカカオパウダーとともにチョコレートも溶かして使うのですが、通常はチョコの風味が強く出てしまうのに、今回のカカオパウダーはフレッシュなカカオ感が生きているので、カカオの風味の豊かさを味わうことができます」

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
しっとりと滑らかな口どけに、カカオニブのホロホロとした舌触りがアクセント。カカオニブのフレッシュで心地よい酸味が後を引く。

この秋、川口さんが編集長を務める『CONTE MAGAZINE』は2号目の発刊を控えている。1号目のテーマ「物語」に続き、今回特集するのは、世界自然遺産に登録された沖縄県北部の「やんばるの森」。

 

「『やんばる』って、山と海が近いので、山と海の関係がより見えやすいんです。昔ながらの暮らしも残っているので、一つの地域の中に様々な循環が見えて、世界の縮図になっている。そこで、やんばるの森をテーマに、自然と共生しながら暮らしている人たちの取材をしています。植物染色作家のkittaさんや、日本で初めてのスペシャルティコーヒーに認定されたADA COFFEEさん、料理家の根本きこさんなど、やんばるには自然と繋がりながら、豊かな仕事と作品をつくり出している人たちがたくさんいるんです」

東京でカルチャー誌を牽引してきた編集人・川口美保さんが 移住した“沖縄のいま”を集めて編む『CONTE(コント)=物語』
川口さんが手にするのは、次号「やんばる」をテーマに、表紙として沖縄在住の画家・ササオカ ヨウスケさんに描き下ろしてもらったという作品たち。一枚一枚が愛おしそうに、作品の背景や物語を語ってくれた。どの作品が掲載されるのか楽しみだ。  

「“山と海を繋げる”特集をずっと作りたいと思っていた」と話す川口さん。沖縄で暮らし、地に根付くことで見えてきた小さな繋がりを編みながら、編集人としての川口さんの仕事は純度を増すばかり。

 

 

単なるガイドブックでは決して知ることのできない“沖縄のいま”の物語を聴きに、首里のカフェ「CONTE」を訪ねてみてはいかがだろうか。

 

CONTE(コント)

沖縄県那覇市首里赤田町1-17

098-943-6239

https://www.instagram.com/conte_okinawa/

 

 

CONTE MAGAZINE  VOL.2

「特集 森へ来なさい。」

202110月末発売予定

https://www.instagram.com/conte_magazine/