沖縄、南城市。那覇市内から南へ車で3〜40分、海をのぞむ絶景カフェや神の島久高島、世界遺産「斎場御嶽(せーふぁうたき)」などで知られる自然豊かなエリアだ。この春、南城市で活動するアーティスト達の店「玉城(たまぐすく)食堂」がオープンし話題となっている。玉城食堂は、画家、陶芸家、木工作家、料理人、僧侶、建築家、宿経営者、インテリア界の重鎮として活躍していた区長さんなど9名の仲間たちが共同で運営している。古い公民館だった建物を自分たちの手でリノベーションし、料理もメンバーの2人が洋食・エスニック料理にジャンル分けして担当している。

 

今年5月のオープン前からSNSなどで噂となり、オープン直後から連日長蛇の列。緊急事態下に入ってからはお弁当のみの営業となっているが、「いつ再開するのか」と皆が話題にしている。「初めは近所に住む仲間で軽トラックを共同購入しようよ、ということから始まった」という芸術家たちの集まり、それがタマトラアーツ&クラフツ。ここが食、旅、音楽やアートの拠点となり大きな渦となっていきそうだ。

 

文・小泉恵里

写真・チダコウイチ

 

 

海近くの細い道が続く昔ながらの集落と畑を進むと、コンクリートの壁に木材を貼ったスタイリッシュな外観の「玉城食堂」が目の前に突如現れる。オープン前から、「玉城食堂はオープンしたのか」「あそこは面白いらしいね」という噂は東京にもすでに広がっていた。

 

関わるメンバーが沖縄を代表する人気作家ばかりというのも注目の理由のひとつだろうか。メンバーには陶芸家の佐藤尚理さん、宮城陶器の宮城正幸さん、木工作家の藤本健さんがいるが、彼らの器は今や簡単には手に入らないものばかり。沖縄現地の選ばれたショップで幸運にも出会えるか、または年に数回しか開かれない個展に足を運ぶしか方法はないのだ。

 

この店で洋食担当の料理人としてキッチンに立つのが画家の梅原龍さんだ。店内には彼の作品が何枚も飾られていて、優しいタッチの絵画が空間を彩っている。メンバーの中心的存在でもある梅原さんにお話を伺う。

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
画家の梅原龍さん(通称龍さん)は洋食担当

「近くに住む仲間で、“軽トラがあると便利だから共同で買おうよ”ということからスタートした会なんです。それをきっかけに人が増えたりお金が集まったりすると“旅に行こうか”と皆でネパールに行ったりして、大人の修学旅行をしているような気分で集まっていました。餅つきの臼と杵を手に入れて仲間を集めて餅つき大会をしたり。飲むのが好きで集まるのが好きなメンバーで、何かを一緒にやろう!というところから玉城食堂はスタートしました」。

 

南城市・玉城付近に住むクリエイター達が集い、そこから生まれたコミュニティが現在のクリエイター集団「タマトラアーツ&クラフツ」。タマ=玉城(タマグスク)のタマ、トラ=軽トラからきているネーミングだ。

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

「玉城食堂の建物は、もともとは玉城の公民館で、それを自分たちの手でリノベーションしました。壁も床も、キッチンカウンターも外観も、全てがメンバーによる手作り。使っているテーブルや椅子も古いものを見つけてきたり、手作りしたり。天上でシーリングファンのように回っているレトロな扇風機ももともと公民館で使っていた古いものです」。

 

梅原さんは画家の傍ら、さまざまな家のリフォームデザインや友人の建築家の依頼で宿泊施設のデザインなども多く手がけていて、内装はプロの域。また、自邸と名店「料理 胃袋」と宿「芭蕉の家」を自ら建てた経験を持つ木工作家の藤本さんもいるし、アトリエとギャラリーを自分で建てた陶芸家佐藤さんも加われば怖いものなし。キッチンカウンターの緑のタイルは宮城陶器の宮城さんが手がけたという贅沢さだ。

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
宮城陶器の宮城さんが作ったタイル
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
冊子もアイアン塗装でDIY
旅での出会い、食を通した遊びを提供したい

画家として20年以上絵を描き、旅先でいろんな料理を作りながら人と接してきた梅原さん。「自分の展覧会の際に会場でお客さんを招いて料理を作ってきました。ギャラリーの厨房を借りたり、宿を使って展覧会をするときには宿のキッチンを借りたりして。そういう遊びをあちこちで年に10回以上、北海道から九州まで旅してきました。玉城食堂は、新しい情報を仕入れ、仲良しができて、みんなでご飯を食べてのんびりできる場所。僕も全国を旅してきてそういう場所にずいぶんと助けられてきました。だから、ここにもそういう場所が作れたらいいなと思ったんです」。

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

玉城食堂にはもう1人、料理人がいる。それが亀谷修身さんだ。宿を経営していた亀谷さん、店では台湾などを中心としたエスニック料理を担当している。ルーロー飯、シンガポールチキンライスといった料理はお弁当でも大人気だ。「旅で味わった料理やお酒、景色を届けたい」という亀谷さん。玉城食堂のキッチンは龍組(梅原さん)と亀組(亀谷さん)に分かれていて、メニューの紙もお酒のメニューも2種類。洋食にはワインやウォッカ、エスニック料理には台湾ビールや紹興酒といった具合に。もちろん両方のジャンルをオーダーできて、1つの店で色んな味に出会えるところに、なんでもあり、な魅力が詰まっている。

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
亀谷修さん。通称亀さん
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
カカオを使って料理を作ってもらいました

カカオを1つの素材として存分に楽しんでいただいた梅原さんと亀山さん。休業中のお店で、特別にたくさんのカカオ料理を披露してくれた。

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

「坦々カレー」

さまざまなスパイスと絡み合い、辛味と香りが絶妙バランスで表現されたパンチのあるカレー

 

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

「カカオマッシュポテトのクレープ、ヨーグルトソース」

カカオとカカオマス、オリーブオイルと唐辛子をローストしてジャガイモも混ぜ込みキビトウと塩で味を整えたマッシュポテトがクレープに包まれている。上にはカカオニブのローストがカリカリ食感!

 

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

「豚肉の低温調理、カカオモレ添え」

一晩低温調理したしっとり肉と酸味と甘みがミックスした奥深いソースがたまらない。カカオバター、カカオ、塩、胡椒、ロースト玉ねぎ、ライム、蜂蜜、つけ汁を煮詰めたモレソース。

 

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

「島バナナのロースト」

甘みの少ない島バナナをカカオバターでロースト。上にはカリカリに揚げたカカオニブ

 

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

佐藤尚理さんの奥様お手製のスコーン。庭で採れたマンゴー、カカオ入

 

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

梅原さんの奥様のお菓子店「botchi andante andante」のカカオニブ入り焼き菓子

 

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
訪問時はちょうど宮城陶器、藤本健、佐藤尚理の作品展が開かれていた。 左が藤本さん、右が佐藤さん。

私たち取材チームを迎えてくれた藤本さん、佐藤さんも加わって試食することにした。すると、裏のアトリエで染色家をしている女性も加わり、さらに同じく陶芸作家の佐藤さんの奥様がカカオ入りスコーンを持ってきてくれて玉城食堂は一気に賑やかな雰囲気に。

 

人と人が繋がって、何か新しいものが生まれて、それが誰かをハッピーにする。ジャンルの垣根を超えてすべてを包み込んでくれるような、包容力を感じさせる空間だ。

 

龍さんと亀さん、お二人とも料理は好きだけど、「ただお客さんが食べるために作っているわけではない」と語る。「風景や旅を味わってもらいたいという気持ちです。のんびりと景色を眺めて店の人と話しながら。店でライブや演劇、ダンスなども出来たらいいなと思っています」。場所は元公民館。地域の中心的存在として、さまざまな文化を包含しながらコミュニティを作り、周りをわくわくさせて行くのだろう。

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
店の裏にあるアトリエで作業していた染色家さんも仲間に入って
公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力
展示会終了後の精算をする皆さん (左黒マスクが宮城陶器の宮城正幸さん)

 

 

 

 

公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力 公民館を自分たちの手でリノベ! 画家、陶芸家、木工作家…沖縄を代表するアーティスト達がつくる「玉城食堂」の包容力

玉城食堂

住所: 沖縄県南城市玉城玉城93−3

営業時間:11:30〜17:00(ラストオーダー 16:00)

*現在は休業中。インスタグラムで営業時間などご確認ください。

定休日:水曜日・木曜日

電話番号:非公開

Instagram@tamagusukushokudo