SNSでチョコレートの情報収集をしていると、よく目にするアカウントがある。その名も『CACAO PARTY(カカオパーティー)』。

調べてみると関西を拠点に、ヨーロッパのタブレットチョコレートを専門で取り扱っているようだ。

 

ローカルチョコレートを中心に、BeantoBarなど製法にこだわったものや珍しい味、組み合わせなど。日本ではあまり知られていないブランドも多数扱っている。味やパッケージデザインも多種多様だ。ただし販売はバレンタイン時期のみ。通販すら営業していないらしい。

 

文 : 田窪綾

写真 : チダコウイチ

 

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

どんな人物が運営しているのだろう。

気になったAPeCAスタッフがさっそく取材のアポを取ると「マスク越しならいいですよ」と快諾をいただいた。コロナ禍の折、私たちもその方がありがたい。

そうして出迎えてくれた人物は、不織布ではなく覆面マスク姿だった。

 

 

バイヤー歴15年以上。チョコレートに精通する謎の覆面バイヤー
タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

決してふざけているわけではない。明るく朗らかに出迎えてくれたこの男性は『カカオパーティー』を主催する「カカオマスカラス」氏。お茶目なキャラクターだが、その素顔はヨーロッパと日本をつなぐ貿易専門会社の代表取締役。と同時にバイヤー歴15年以上、チョコレート輸入界ではレジェンドとも言われるほどの経歴の持ち主なのだ。

 

大好きなプロレスにちなみ、メキシコのプロレスラー「ミル・マスカラス」から命名したそう。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

カカオマスカラス氏の会社は食品を中心に、ヨーロッパ各地からさまざまな種類の製品を輸入し日本の企業に卸している。さらに日本産製品の輸出も幅広く手掛ける。主力はチョコレート。以前は自社でチョコレートの直営店も持っていたが、仕事量が増えてきたため営業譲渡し、現在は輸入・輸出・卸売業の3本柱で運営している。

 

卸売商品の取扱いはじつに幅広い。チョコレートではプラリネやボンボンなどハイエンドからスタートし、北はエストニア、南はスペインまでEU加盟国を網羅。これまでおよそ70~80の店やブランドを扱ってきた。これらはすべてカカオマスカラス氏が自ら調べ、現地へ足を運び、舌で確かめ、「これなら日本でも売れる」と自信があるものだけ。仲介業者は入れず、直接交渉して輸入するのが氏のポリシーだ。

 

確かな目利きが評判を呼び、徐々にクライアントは増加。今ではチョコレート好きはもちろん、誰もが知るような大企業が取引先として名を連ねている。ヨーロッパからも「うちの店のチョコレートを日本で売りたい」との申し出が引きも切らない。

 

現在は物流拠点としてベルギーにある会社とパートナー契約を結び、各国からチョコレートを集め、まとめて日本へ送るシステムを構築。これにより物流コストを下げている。さらにカタログを廃止しInstagramでの発信に留めることで、より安価な価格を実現させることができているそうだ。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る
ドイツ・ボンのBeantoBarチョコレート店「ジョージアラモン」から、スーパーフードと言われるフルーツ『シーバックソーン』を使ったチョコレート。

ただ、カカオマスカラス氏は「輸入はできても” どう売るか”が難しい。日本の消費者の

皆さんに知ってもらい、買ってもらうための道筋をつけるのに試行錯誤しています。中でも一番売りにくかったのがタブレットチョコレートなんです」と話す。

 

どうやらここに、『カカオパーティー』立ち上げの理由がありそうだ。

 

 

タブレットチョコレート専門店にした理由
タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

「日本では明治やガーナの板チョコレートがおよそ100円で買えます。だから板チョコレート=安いというイメージがありますよね。また実際に、スーパーで並んでいるお菓子の中で、一番売れるのは「きのこの山」などのチョコレート加工品。王道の板チョコレートって意外と売れないんです。ましてや1枚1000円以上する海外のタブレットは手に取ってもらうことも難しかったんですよね」。

 

とはいえ、世界中にはプラリネやボンボンだけでなく、おいしいタブレットチョコレートだってたくさんある。その魅力、奥深さをもっと日本のチョコレート好きに伝えたい。

この状況をどう打破すればいいのだろう―――。

 

カカオマスカラス氏がそう考えていた頃、阪急百貨店から「うめだ本店でタブレットチョコレートを特集した企画を始めようと思っているのですが出店しませんか」と打診があった。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

「バレンタイン時期は、世界の1/4のチョコレートが日本に集まると言われているほどのマーケット規模。特に阪急うめだ本店で開催される『チョコレート博覧会』は大変な人気で、売上規模は億単位の世界。お客さんの熱気も最たるものです。これはタブレットチョコレートの魅力を多くの人に伝えるチャンスではないか。そう考え、会社独自のセレクトショップを立ち上げることにしたんです」とカカオマスカラス氏。

 

これを機に2018年、ヨーロッパのタブレットチョコレートを揃える専門店『カカオパーティー』が生まれた。しかし、あくまで本業は取引先優先の卸売業。バレンタイン時期限定での催事販売に特化し、お客様と積極的にコミュニケーションを取りながらタブレットチョコレートの販売をしている。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る
阪急うめだ本店で開催された「バレンタインチョコレート博覧会2021」にて。カカオパーティーの売り場の様子(カカオパーティー提供画像)

3年目の現在は阪急百貨店うめだ本店の催事のみならず、東武百貨店などにも出店。100種類以上が並ぶ売り場は圧巻だ。期間中に何度も足を運ぶチョコレートファンも多く、認知も広がっている。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る
売り場でファンにサインを求められるカカオマスカラス氏(カカオパーティー提供画像)
カカオポッドのマスクで覆う、裏方としてのプライド

メディアなどでの対応は常に覆面マスク姿のカカオマスカラス氏。チョコレート売り場での販売はもとよりセミナーや講演に呼ばれることもあるが、素顔は出さないと決めている。その理由は、取引先を尊重したいからなのだとか。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

「卸売業は黒子の立場。本来なら裏方に徹して表に出ません。ただ『カカオパーティー』というショップを立ち上げるにあたり、どうやって顔を出さずにタブレットチョコレートの魅力を伝えればいいのかと考えた末の覆面マスクなんです。ちなみにこれ、カカオポッドを模したマスクなんですよ」と、カカオマスカラス氏は笑顔を見せる。

 

「通年販売してください」「バレンタイン以外はどこで買えますか」「ネット通販はやらないんですか」―――。お客さんからよく聞かれる質問の答えも、あくまで取引先を優先したいから。

 

カカオマスカラス氏は「僕たちが表に出るのはバレンタイン時期だけ。それ以外は取引先への卸に尽力しています。私たちが卸している企業さんでもタブレットチョコレートが買えるので、ぜひそちらで購入してもらえたらいいな、と思っているんです」と胸の内を明かす。

 

 

ショコラティエにリスペクトをもって接する

カカオマスカラス氏は毎年バレンタインが終わるとすぐに海外に飛び、お店や生産者を新規開拓し交渉したり、販売戦略を立てたりと目まぐるしい日々を送っている。しかし、コロナ禍になってからは1年以上現地に行けていないという。商品の輸入などはどのようにしているのだろうか。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る
ベルギー・ワロン地区にあるアルティザンショコラトリー「レガスト」のタブレット。産地ごとのカカオ豆の特長を活かしており、近年多くのチョコレートアワードも受賞している。(カカオパーティー提供画像)

「ベルギーのパートナー会社がいるので、すでに取引のあるブランドの輸入は滞りなくできています。しかし新規ブランドの開拓が難しい。そこで今、既存ブランドに新商品の開発をお願いしています。オンラインミーティングが主になるのでもどかしい部分はありますが、日本のファンに喜んでもらえるチョコレートを届けたいと頑張ってくれています」。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る
「ジョージア ラモン」の今年度新商品、カカオラッシー。47%チョコレートにヨーグルトの爽やかな風味が広がる。

なお、カカオマスカラス氏には交渉時、大切にしていることがあるそうだ。

 

「ヨーロッパには個人経営の小さなチョコレート店も多い。彼らは地元客に向けてチョコレートを作っているので” 店を大きくしたい”という意識はない。でも『日本にも名前を広められるなら嬉しい』と協力してくれるんです。彼らは作ったものが売れないことの方がショックなので、交渉に成功したら日本人の好みの傾向を伝え、彼らの意見を尊重しながら一緒に販売戦略を練ります」。

 

ここでは決して値切りをしない。

 

「職人としてのプライドを守るためです。僕は相手の希望売値を聞いて『高い』『安くして』とは絶対言いません。ただ輸入コストもかかるので、あまり高すぎると売れません。なので『この売値にするならパッケージを簡素化しよう』とか、逆に『もっとゴージャスにしよう』とか、売り方のアドバイスやコンサルティングも行っています」。

 

ときには英語で細かなニュアンスがうまく伝わらないこともある。その場合はパートナー会社のベルギー人が助け舟を出してくれるという。

 

「フランス語圏の職人さんや生産者の方と商談するときは必ず、ベルギーのパートナー会社のスタッフに同行してもらいます。ベルギーは多言語国家。彼らは幼少期から4言語を学び、最低でも3言語を習得しないと就職できないとも言われています。英語、フランス語、ドイツ語、オランダ語が話せるので、こちらの意図をくみ取って先方にきちんと伝えてくれるんです。ありがたいですね」。

 

 

その素顔は、意外にもチョコレートが苦手
タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

チョコレートについて熱く語ってくれたカカオマスカラス氏。よっぽどチョコレートが好きなのだろうと思っていたのだが、「いえ、どちらかというと嫌いです」と聞いて驚いた。プライベートではほとんど食べることがない、完全なる職業チョコレートバイヤーなのだという。ただ、これまでの経験で培ったチョコレートの目利きは超一流だ。

 

近年のチョコレートの人気傾向を聞いてみると「数年前までは高カカオのチョコレートというだけで売れていました。100%カカオの苦いチョコレートもよく出ています。最近は植物性素材だけで作っているヴィーガン商品の要望が高いですね。年々求められるハードルが高くなってきていると思います」とカカオマスカラス氏。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る
「ジョージアラモン」より、タンザニア産カカオ100%のみを使用したのピュアなダークチョコレート。

逆に好きなものを聞いてみると「ベルギーのフレンチフライ。最強です!デザートにはクリームをたっぷりかけたワッフルで決まりですね」と間髪入れずに答えてくれた。

もともと今の貿易会社を立ち上げたのも、ベルギーに魅力を感じたから。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

「大学院でお世話になった教授がベルギー人だったんです。研究の一環で実際にベルギーを訪問する機会があり、知れば知るほど面白い国だと興味が湧きました。ぜひベルギーと日本をつなぐ架け橋のような仕事をしたい。そう考えて起業したんです」とカカオマスカラス氏。

 

タブレットチョコレート専門店「CACAO PARTY」の代表は謎の覆面バイヤー。その素顔に迫る

私たちは今当たり前のように、日本にいながらにして世界中のチョコレートを手にすることができている。

 

その裏には、遠い国からおいしいチョコレートを届けるために工夫を凝らしてくれているカカオマスカラス氏のような人たちがいる。海外のチョコレートを手にする機会があったときは、ぜひ裏方のみなさんの努力に想いを馳せ、その素顔を想像してみるのも楽しいのではないだろうか。

 

 

文:田窪綾

調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。ふりかけの紹介でNHK出演実績もあり。

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