琵琶湖を一望できる小高い丘一帯に、その養生園はあった。

 

「『食の自立と、病からの自立』をテーマに、人間そのものの養生をするための場所をつくりたかった」。そう語るのは、建築家で空間プロデューサーでもあり、現在は、非営利型財団法人里山地人協会代表理事の吉川宏一さん。吉川さんは、2010年4ヘクタールの広大なこの地に、自分自身と対峙できる場所(仮)しらひげの森養生農園をつくった。そして、今秋から、その養生の一端を担うのが、オオニシ恭子さん。奈良県桜井市で「やまと薬膳」を主宰しているオオニシ恭子さんと吉川宏一さんのお二人に、未来へつなぐリペアリングについて、お話を伺いました。

 

文:小池 美枝

写真:齋藤 順子

 

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。
答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

 

――吉川さんは、元々建築家でもあり、空間プロデューサーでいらっしゃったとか?

 

吉川さん「はい。80年代は大阪を中心に全国で、商業空間プロデュースなどをしていました。当時、飲食店のプロデュースが多かったことから、次第に『食』に興味をもつようになり、1989年からしばらく家族でニュージーランドに移住しました。移住中は、パーマカルチャーで牧場とワイナリーを営んでいたこともあり、食や農業にはとても関心が高かったです。帰国後、1999年に大阪・南船場で自然万歳の意味を込めた『ソルビバ』という名前のオーガニックレストランを始めました。」

 

 

――次第に、農業への関心も高くなり、自然農にも力を入れるようになったのですね?

 

吉川さん「自然農の川口由一さんと出会い、自然農と漢方医学を学び、、この地で自然農による養生農園を目指しました。ここでは、自然農によるハーブや、漢方の生薬が育ち、子供たちが自然の中で遊べる環境が揃っています。人間の身体は食べるものでできているので、その食べるものを自分たちでつくっていきたいと思いました。そうすることで、自己免疫力をあげてほしい。さらに、人間は食べなければ生きていけないですが、もっと大切なのは空気。空気がなければ10分も生きていけない。ですので、食だけでなく、環境ということにも気づいてもらえるような場所を提供したいと思いました。人が人として生きていくとき、本当に大切なものは自然の中にあることに気づいてもらえたらいい。そしてそれを次世代につないでいきたいと思っています」

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

――また、建築家である吉川さんは、「住」についても、ここでいろいろなことを手がけていますね。

 

吉川さん「先程の環境という点において、まず日本の風土にあった、建築物をつくりたいと思いました。『木』『紙』『土』。薬師寺再建計画参加の宮大工の方と出会うご縁があり、奈良時代の手法で、1000年もつ家をつくろうということになりました。今、お話をしているこちらの建屋は12年かかってつくりました。この建屋以外にも、子供たちが泊まるためのインスタントハウスや宿泊施設、ストローベイルハウスなど、この広い自然の中に、調和するように点在する建物」

 

――自然と建築物の調和はまさに建築家としての、吉川さんならではの作品ですね。

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

――再び、「食」の話に戻りますが、人間は、食べるものでできている。その考え方から、この秋からやまと薬膳のオオニシ恭子先生による料理教室もスタートするとか。

 

吉川さん「はい。オオニシ先生の『自分食』という考え方にとても感銘を受けました。自然とともに生きることだけでなく、先生は、人それぞれが違うのだから、食べることも人それぞれ違う。だからこそ、自分と対峙できるという考え方がすばらしいなと」

 

 

――オオニシ先生は、現在、奈良県桜井市でやまと薬膳を主宰され、食養生から「自分食」を提唱されていますね。また、先生は、もともとインテリアデザイナーでいらしたとか。

 

オオニシさん「20代の頃は、インテリアデザイナーとして忙しく仕事をしておりましたが、手荒れがとてもひどくなってしまい、食療法に出会いました。それがきっかけで、桜沢リマ先生に従事し、1980年代から31年間、ヨーロッパで『ヨーロッパ薬膳』を教えていました。でも、外国人に陰陽の話をしても、よくわからないという方が多くて。もっとシンプルに伝える方法はないかしらと思った時に、命の大切さを伝えてみましたら、先生、すごくわかりやすいって。具体的には、私たちも自然の一部であり、自然環境、自分の体調、食材、調味料、調理法の関係を陰陽で表して、お互いのバランス関係によって命が成り立つことを伝えてみたんです」

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

オオニシさん「命の大切さは、世界共通項だったのです。ちょうど、チェルノブイリや、狂牛病などがクローズアップされていた時代だったので尚のこと、食への関心はあがりました。その時に、命の大切さを伝える、すなわち自分の命をどうやって守るかと考えたときに、自分の命は自分が守るというところに行きつきました。それで、『自分食』」

 

 

――日本へは、2011年に帰ってこられましたね。

 

オオニシさん「2011年の震災がきっかけです。ヨーロッパに出る前の日本は、単一民族だったと思っていましたが、このとき、帰ってきたら多種多様に変わっていました。それで、日本でも『自分食』を引き続き提唱しようと思いました」

 

 

――「自分食」で、大切にされている点はどんな点ですか?

 

オオニシさん「モノ、お金が溢れる時代になってきたら、人は体験することができにくくなっているなと感じました。ですから、とにかく体験するコト。それが心と身体の養生になると思っています。体験を通して、私たちは、他の命をいただいて生きていることを知ると思います。他の命をいただいている自分の命に気づけば、『自然』にも意識がいきます。そうして、人は自然の一部であることを知っていくと思います。その自然の一部である自分は、どんな自分だろう? 今の自分は何を必要としているのか、どんな風に養生すればよいか・・・それが『自分食』につながります」

 

――お二人がこの地で、伝えたいことは何でしょうか?

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。
答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

吉川さん「お母さんと子供に伝えること。お母さんだけに伝えるでもなく、子供だけに伝えるでもない。同じ環境で、同じ時間に、体験をしてほしい。お母さんは、オオニシ先生に食べること、つくることを学んでいる間にわたしは、子供たちに自然との向き合い方を学んでほしい。ここには、人以外の動物も、植物も仲間として、たくさん存在しています。その関係は、すべて対等だと思っています。人が、動物を飼育するでもなく、人が植物を育てるでもない。自然を分かち合って生きている。それを子供たちに体験を通して感じとってほしい。その子供たちが、大人になり、また子供たちに伝えていく。次世代へ繋ぐ役割を、わたしもオオニシ先生も、そしてこの土地も、そのことを担っていると思っています。同じものはひとつとしてない、その自分の命を大切にすることを伝えていきたいと思います」

 

*  *  *

 

今日は、オオニシ先生が、この取材時に皆さんのお昼ご飯を作ってきてくださいました。お櫃に入った玄米は、梅と紫蘇にお豆腐、一番上にはご自宅の庭の笹の葉がかぶしてあり、いい香りがします。麩とズッキーニのフライ。自家製のぬか漬けは、木の桶にはいったまま持ってきてくださいました。そして、カカオのデザート。

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

きな粉と、刻んだレーズンにカカオをまぶしたトリュフ仕立てと、みりんに漬け込んだ梅の実にカカオをまぶしたボンボン。どちらも、意外な組み合わせですが、口に入れてみると、なんとも優しいデザートでした。人も食材も地球という一つの村に存在する仲間たち。そんな思いがするカカオのデザートでした。

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

お二人のおやつの時間にチョコレートの思い出はありますか? とお聞きすると、お二人とも笑顔が一層ほころんで、うなずいたのがとても印象的でした。どんなエピソードなのか・・・それはお二人のコラボレーションがスタートする秋にまた伺いに来たいと思います。

答えは自然の中にある。未来へつなぐリペアリングをするための養生園。

 

 

 

PROFILE

 

吉川宏一(よしかわ こういち)

1979年吉川建築研究所設立1級建築士

1987年株式会社ノモス設立、アーティストとの協働による商業空間プロデュース、芸術屋台村カラーズ、バー・イズントイット、ソルビバオーガニックレストランなど日本をはじめ海外でも活動。

1989年家族のためニュージーランド移住、牧場内にオーガニックワイナリー設立1999年滋賀県高島市にソルビバ農園設立

2010年養生農園めざし、自然農による栽培開始

2020年敷地、建物を全て寄付し、非営利型財団法人里山地人協会設立

 

オオニシ恭子(おおにし きょうこ)

フード*メディスナー©。食養料理研究家の桜沢リマ氏に学ぶ。1981年渡欧。以来32年にわたり、東洋的食養法を基本としながらも欧州における素材と環境を取り入れた食養法「ヨーロッパ薬膳」の普及に努める。2013年1月より、奈良・初瀬の地に移住。女性のための食養生を考え、提案する「やまと薬膳」を主宰。それぞれのライフスタイルや体調を見ながら、その環境に適応した食事法を指導

https://yamatoyakuzen.com/

 

 

 

 

文:小池 美枝 Mie Koike

食のプロデューサー。外資系企業のブランディングの仕事に従事し、国内外、数々のイベントのプロデュース、欧米各国の食文化を経験後、食のプロデュースを始める。また中医学と出会い、国際中医薬膳師、中医薬膳茶師となり、身体だけでなく、心も健やかになる薬膳、“Yakuzen retreat”を伝えている

 

写真家:齋藤順子 Yolliko Saito

パリをベースにヨーロッパ、アジア、アフリカで雑誌、書籍、広告の撮影を続けている。

大西恭子氏のヨーロッパで初めての日本人弟子。

yolliko.com