文 : 田窪綾

写真 : チダコウイチ

 

「カカオ料理のレストラン『ROBB』がフルリニューアルします。ぜひ一度味わいに来ませんか?」

 

6月のある日、「ROBB」を運営するチョコレートブランド・MAISON CACAO(以下、メゾンカカオ)広報の方からそんな連絡をもらった。聞けば魚料理とカカオとのマリアージュに挑戦するのだという。

 

カカオは近年チョコレートの原材料としてだけでなく、素材や調味料としても注目され始めている。肉や酒、発酵食品とは相性抜群。カカオ豆の皮はお茶や紙、染料としても使われる。

カカオの可能性が広がってきたとはいえ、 “カカオ×魚”の組み合わせはこれまでに例がないのではないか。これは、チョコレートブランドが新たに挑戦する新ジャンルだ。さっそく予約を取り、出かけてみることにした。

 

 

銀行跡地の裏口から入る隠れ家レストラン

 

辺りがほんのり薄暗くなってきた夜7時。

私たちAPeCAスタッフは鎌倉駅に降り立った。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す 夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す

人気観光都市でもあり古都の趣を残す鎌倉は、2015年に創業したメゾンカカオの拠点でもある。カカオディレクターを務める代表の石原紳伍氏が「新旧入り混じるこの地で、チョコレートを通じ新たな文化を創りたい」と考えたためだ。

 

欧米人よりも唾液量の少ない日本人に合わせて緻密に作られたという「アロマ生チョコレート」を看板商品に、現在は横浜や東京、名古屋などにも展開するブランドだが、始まりは鎌倉小町本店。さらに2020年には長谷に “お茶とチョコレート”をコンセプトにした和テイストの「カカオハナレ」もオープンしている。すべての商品にコロンビアで採れるカカオ豆を使い、日本人ならではのアプローチで新しいチョコレートを次々と手掛けている。

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す

明かりが灯り始めた江ノ電乗り場を通り過ぎ、御成通りへ足を向けると、見えてくるのはレンガ造りの銀行跡地だ。

かつては貨幣として利用されてきたカカオ豆の歴史にちなみ、銀行をリノベーションした「メゾンカカオ」の姉妹ブランドが「CHOCOLATE BANK」。カカオの可能性を探求し、コロンビア産のオリジナルクーベルチュールを使ったパンやスイーツ、コスメまでを取り扱っている。

 

今宵の目的地、カカオを使ったガストロノミーレストラン「ROBB」は、表通りの「CHOCOLATE BANK」の店裏に隠れている。

 

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す

銀行強盗を意味するBank robberから名付けられた「ROBB」は2019年、CHOCOLATE BANK内にオープンしたレストランだ。1日4組限定、店の一番奥にある分厚い扉の金庫室内で未知なるカカオ料理をいただく。なんとも洒落の効いた空間だ。

その後2020年9月には1日1組限定、鎌倉野菜や肉料理とカカオを掛け合わせたコースを楽しめる店としてリニューアルしている。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
CHOCOLATE BANK店内。奥に見えるメタリックの扉が金庫室(PHOTO:メゾンカカオ提供)

そして、2021年6月からさらに新たな試みがスタートした。今度は金庫室内ではなく、CHOCOLATE BANKクローズ後に店内を利用するとのこと。訪れてみると、店の裏口から入店を案内されて、その非日常感に驚き高揚する。気分はさながら、銀行強盗だ。

 

焼津の老舗魚店「サスエ前田魚店」から仕入れる魚と、カカオのマリアージュ
夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す

メニューもガラリと一新。全10品のコースは魚料理が中心で、季節ごとに変わるガスパチョに始まり、ベニエや春巻き、パエリアなどが続く。料理に使う魚は、焼津の老舗魚店であり、国内外の一流料理人が絶賛する「サスエ前田魚店」から届くものを使う。店主・前田尚毅氏のもとで実際に修業し、魚とカカオのマリアージュを研究した石原氏が自らキッチンに立ち腕を振るうという。

 

コースにはアルコール、ノンアルともにペアリングが可能。ノンアルでもカカオビネガーソーダやカカオティーなどが提供されるため、ここでもカカオの奥深さを堪能できる。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「ガスパチョ ストラチャテッラ」

一品目から、さっそく見たこともないような前菜が登場した。

空気をたっぷり含み、ふわふわのムース状になったストラチャテッラ(ブラータチーズの中のクリーミーな部分)はカカオを加えているため淡いブラウンに。下にはライ麦パンで作ったサクサクのラスクが入っていて、スプーンですくってひと口で食べると、スッと溶けてカカオの風味が現れる。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「フォアグラ カカオブリューイング ソースポルト」

「ブリューイング」とは、カカオシェルやカカオニブを合わせたもの。なめらかなフォアグラにまとわせてあり、異なる食感を生み出していた。添えてあるポルトソースはベリーのような甘味と酸味があり、フォアグラの濃厚さを活かしつつ、後味はすっきりと軽やかだ。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「ベニエ 太刀魚 梶谷農園ハーブ」

ハーブやエディブルフラワーをのせたかわいらしい一品。炭酸水を加えた薄衣で太刀魚を包み、カラッと揚げている。季節により魚の種類は変わるそう。上のタルタルソースにカカオが加えられており、ふっくらと揚がった太刀魚の隠し味に。

 

その後も魚料理が続々と。種類や調理法を変え、今までにないような魚×カカオのマリアージュが登場する。

 

魚の魅力を活かした調理違いの食べ比べ
夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「鰹 カカオ」

特筆すべきはこちらの品。鰹の背中、腹の部位それぞれで違った調理を施し、食べ比べができるようにしているのだ。腹を使った右は高知県産の「直七」という柑橘とキャビア、涙豆というスナップエンドウの若豆をトッピング。背中の部位を使った左は、スパイスとカカオニブを1年以上漬け込んだ醤油をかけて。鰹に柑橘は言わずもがなの相性だが、ニブ漬けの醤油もまた驚くほど鰹に合う。。後で石原氏に聞いたところ、「血合いの多い鰹は鉄分を多く含むため酸化が早いが、抗酸化作用があるカカオが旨味のもとであるアミノ酸に変えてくれる」とのこと。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「春巻き 毛蟹」

A5和牛にコリアンダーなどのスパイスを混ぜ、カカオバターで揚げた春巻き。上に毛蟹とサマートリュフをトッピングしている。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「パエリア 煽り烏賊」

焼津港で揚がった烏賊を大胆に乗せた、イカスミのパエリア。イカにかけた魚醤にカカオが使われている。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す

盛り付けの際は、色鮮やかなウニをトッピング。北海道産の香り米は固めに炊き上げており、小粒ながら存在感が大きい仕上がりに。

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「金目鯛 アスパラソバージュ」

魚の美味しさを十二分に堪能できたのがこちら。半生に火入れした焼津産の金目鯛に、カカオビネガーとエシャロットで作ったソースを添えており、香りづけの山椒を振っている。ふわりと甘味のある鯛が、カカオビネガーの酸味と出合うとキリリと引き締まる。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「A5和牛雌 芯玉」

コース終盤で登場する肉料理。赤ワインソースにカカオブリューイングとトリュフが使われており、贅沢な味わいに。

(※この品は現在、魚料理に変更。すべて魚を使ったコースに統一されています)

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「アイスカカオ バニラアイス」

口直しのグラニテは、液体状にして凍らせてカカオパウダーを薄く削った、淡雪のようなかき氷。中には広島・梶谷農園のタイムを使ったバニラアイス入り。口中をさっぱりとリセットしてくれる。

 

夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す
「フォンダンショコラ 薔薇」

最後は、ROBBオープン当初から変わらず提供しているシグネチャー・デザート「フォンダンショコラ」。ガナッシュ生地の表面だけを焼き上げた状態のため、ナイフを入れるとトロトロとガナッシュがあふれ出てくる。薔薇エキス入りのベリーソースともぴったりだ。

 

クーベルチュールはもちろん、カカオハスクやニブ、パルプを使ったビネガー、カカオバターと、カカオ豆を丸ごとを使うROBBのコース料理。コロンビアでカカオの栽培から手がけ、鮮度の高い状態で加工、カカオを素材として扱うメゾンカカオならではの構成だ。

 

日本ならではのカカオ料理で“魚”に着目、未知なる可能性に挑戦
夜にだけ姿を現す鎌倉のカカオレストラン「ROBB」で、前代未聞 “魚×カカオ”の創作料理を食す

今回のリニューアル前、鎌倉野菜や肉料理を中心としたカカオ料理のメニュー構成も評判を得ていたROBB。それでもカカオディレクターの石原氏は「世界的に合わせられる野菜や肉との組み合わせだけではなく、日本ブランドとしてわれわれ日本人に馴染みの深い魚料理とカカオとのマリアージュに挑戦したい」と3月頃から実現に向けて本格的に動き始めたという。しかし、カカオを使った魚料理は歴史的にも類を見ない。まさに未知なる料理への挑戦だ。これはショコラティエでも料理人でもない、異業種から転身しカカオの可能性を探り続けてきた石原氏だからこそのアプローチだ。

 

今回コースを堪能してみて、一品ずつ向き合うたび「これはどこにカカオが使われているんだろう?」と思案するのも楽しい体験だった。実際、食べてもすぐには分からないくらいカカオが素材に溶け込み、調和していた料理も多い。

 

「オリーブオイルではなく、今日はカカオバターを使おうか」「美味しそうな鰹が買えたから、カカオニブ醤油で食べよう」――

醤油やソースと同じように、これからはカカオもひとつの調味料や素材として食卓に並ぶ日が来るのかもしれない。そう感じた時間だった。

 

 

ROBB

神奈川県鎌倉市御成町11-8

CHOCOLATE BANK 内レストラン

営業時間:毎週水、木、金、土曜19:00~

・カカオコース(全10品)11,000円

・ペアリング 8,800円

※1日4組限定、完全予約制

https://www.tablecheck.com/ja/shops/chocolatebank/reserve

 

 

文 : 田窪綾

プロフィール

調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。ふりかけの紹介でNHK出演実績もある。

https://twitter.com/aso0035