取材・文:松浦裕香里

写真:チダコウイチ

 

カカオ豆の外皮であるカカオハスク。これまでその多くは、製造過程で取り除かれ廃棄されてしまうものでした。チョコレートが製造されるたびに、大量に廃棄されるカカオハスク。

 

そんな、従来であれば棄ててしまうカカオハスクを、おいしい食品に生まれ変わらせたブランド「SIZEN TO OZEN(シゼントオゼン)」。2019年12月に鉄道事業などを展開する、京阪グループが京都・四条河原町にオープンした複合施設「GOOD NATURE STATION(グッドネイチャーステーション)」のオリジナルブランドです。「フードロス」や「アップサイクル」などのキーワードを全面に出さずに、“心地のいい持続可能性”を感じさせるブランドと、カカオハスクが切り開く食の新しい価値についてSIZEN TO OZENマネージャーの樹宏昌さんにお話を聞きしました。

唯一無二の鍵となった、棄ててしまうカカオハスクとの出合い
「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値

 

――「SIZEN TO OZEN」の商品に共通しているのが「カカオハスク」を使っていること。なぜカカオハスクだったのでしょうか。

 

GOOD NATURE STATIONの1階部分には、おいしくて楽しい食品が集っています。近隣の錦市場やデパートに行けば、なんでも揃っている環境下「ここにしかない、唯一無二のもの」をブランドとして作る必要がありました。おいしいは当たり前で、目指したかったのは見た目からも全く違う、新しく、現代的で、おしゃれであること。そしてそれぞれが個性的であるものにしたいと考えていました。

 

何か鍵になる食材はないかな?と考えていた時、開業前のテストキッチンで、同じく商品開発をしていた『RAU』(同施設内のパティスリー)のカカオハスクが、たくさん余っていた様子を見て「もったいないなぁ」と思ったのがきっかけです。もしかしたら、カカオが何か1つ商品を切り開く鍵になるのでは…そう思いました。

 

――カカオハスクはチョコレートを製造する際にどれくらいの量が出るものなのでしょうか。

 

ビーントゥーバーチョコレートを製造するには、相当な量のカカオを機械で回し、カカオニブとハスクに分けていきます。カカオニブとハスクの比率はおよそ7:3の割合です。世界中でチョコレートが作られていると想像した時、ハスクは相当な量が捨てられているのではないか?と思いました。

 

実際に僕が行った海外のカカオ農園で、現地の農場にたくさんのハスクがあるのを目の当たりにしました。同時にカカオを輸入する際の輸送コスト削減のため、というメーカーの都合から、輸出する前に現地でハスクを棄てているという現状も知りました。そんな光景を見て、とにかくもったいない!と感じ、「カカオ豆を丸ごと仕入れているのだから、ハスクをもっと上手に使い切ることはできないか?」と考えたのです。

 

「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値
「SIZEN TO OZEN」マネージャーの樹宏昌さん

 

――「ハスク=廃棄するもの」から「ハスク=食べるもの」に概念を変えるのは大変だったのではないでしょうか。

 

そもそも食べ物に無駄な箇所というのはなく、工夫次第で美味しく食べることができます。カカオハスクもそのひとつです。商売の面で見たら、新しいカカオ豆からカカオニブをとり、チョコレートにする方が利益は出るでしょう。ですが、私たちは自分たちで出来る範囲の循環は、しっかりと循環させたいと考えています。だからこそ、食材の新たな一面を引き出して、「新しくおいしい」をつくり、伝えていきたいと思っています。製造途中、ハスクの中にもカカオニブが粉末状で含まれていたり、改めて素材として見直した時にもやはり勿体無いな、と思いました。コクや香りも高く、今まで捨てていたことが嘘のようです。

カカオと日本、共通文化から生まれたはじめの商品
「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値

 

――最初の商品がお茶のシリーズ。なぜお茶で、どういった着想を得て生まれた商品だったのでしょうか。

 

僕が行ったカカオ農園では、余ったハスクを燃料や寝床、肥料として活用しています。私たちもハスクをたい肥にして、農作物を作るというアイデアもありました。ですが、現実的に考えてチョコレートの生産がこれから毎年増える中で、全てをたい肥にするというのは難しく、それが本当の答えなのか?という点に疑問を感じたのです。そこでやはり「ハスクを食べ物に落とし込みたい」という気持ちが強くなりました。

 

カカオ農園の生産者でもある現地の人たちの中にも未だ、チョコレートを食べたことがなく、味を知らない方もいます。そんな彼らが、ハスクを濃く煮出したカカオティーを、チョコレートだと思って飲んでいる光景を見ました。南米のカカオハスクをお茶にして飲む文化と、日本人に親しみ深いお茶文化に共通点とヒントを得て、日本人でも楽しめる、健康でおいしいカカオの皮を使ったお茶を開発しようと至りました。

 

「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値
「GOOD NATURE STATION」内の宿泊施設「GOOD NATURE HOTEL」の客室には、「RAU」のチョコレートと「SIZEN TO OZEN」のカカオティーが用意されており、プライベートな空間で循環について知り、お茶を楽しむことができる。

 

――『カカオ煎茶』は宿泊した「GOOD NATURE HOTEL」の客室にもありました。“このお茶を飲むあなたも循環の一部”というメッセージが印象的でした。

 

「SIZEN TO OZEN」は施設の循環装置の役割を担っていると考えています。「RAU」で作られたチョコレートを召し上がっていただき、チョコレートの制作過程で生まれる、カカオハスクを使ったお茶を客室で楽しんでもらう。飲む人がいることで、循環していく。食べて、飲む、あなたも循環のひとつの装置ですよ、というメッセージを伝えたくて客室にも置くことにしました。

 

「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値
人気の<ファインカカオカレーシリーズ>は全6種類。化学調味料・保存料・香料・着色料を一切使用せず、カカオを隠し味にしたレトルトカレー。アレルギーフリー、ビーガン対応、子どもも食べられる、お肉好きのため、カカオを楽しむ、など食の嗜好がバラバラでもみんなが一緒に食べられる楽しさと美味しさが好評。(各756円・税込)

 

――幅広い商品ラインナップで展開をしていらっしゃいます。コンセプトや商品アイデアはどうやって生まれてくるのでしょうか。

 

スタートから1年半で、商品数は小さなものも含めると80種類ほど出来ました。スピード感にびっくりされることもありますが、実は私以外のチームメンバーは、これまで食に携わってきた者達ばかりではありません。日々模索しながら、メーカーやパートナー探し、資材調達など、力を合わせて商品を作っています。メンバーがそれぞれ世の中のトレンドなどをキャッチして、三者三様バラバラにアイデアと情報を持ち寄ってきます。持ち寄られたアイデアにこれまでの私の経験を少しずつ足し算して、形にしています。数々の商品アイデアは自分だけでは生まれず、チームあっての商品だと思っています。

 

――どの商品も「アップサイクル」や「フードロス」などのキーワードを押し付けない心地よさがあります。手に取りやすいおしゃれなデザイン、コンセプトに親しみを感じられる工夫はされていますか。

 

ブランドのコンセプトを考える時、そもそも私たちの考える「GOOD NATURE」ってなんだろう?と考えました。そこから「安心・安全に食べられるもの」というコンセプトにたどり着いています。「食」のブランドを作る以上、おいしさは絶対に外せない。例えばレトルトカレーシリーズ。素材は国産のものを使い、添加物や化学調味料を使わずにスパイスを使う、となると価格もちょっと高めになります。だからこそ、パッケージは価格帯に見合った高級感が伝わるものにもこだわっています。<GOOD CACAOシリーズ>の「カカオくん」も親しみやすさやワクワク感を感じてもらえるように、デザイナーさんとストーリーを一緒に考えて、デザインとカラーバリエーションを工夫して生まれたキャラクターです。

 

「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値
コロナ禍に誕生した<GOOD CACAOシリーズ>は“時間を楽しむためのブランド”がテーマ。チャイほうじ茶、コーヒーやキャラメルなど、じっくりと作り、食べる、豊かな時間がつながるプロダクトがラインナップ。ブランドキャラクター「カカオくん」も人気。

もちろんアップサイクルなど持続可能なメッセージを伝えることも大切ですが、どれだけいいことをしている商品でも、商品が売れないと世の中からなくなってしまい、継続的な循環ができなくなってしまいます。なので、おいしさや見た目のワクワク感を大切にしています。

GOOD NATUREな食の輪から、もっとたくさんの人にカカオの背景を知ってもらいたい。
「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値

 

――これまでにない商品やアイデアが、今後さらに生まれていくと思うとワクワクします。「SIZEN TO OZEN」がこれから実現していきたいことはありますか。

 

世界中では、チョコレートを取り巻く環境がとても複雑です。例えば、バレンタインの様に経済活動として、消費されてしまうことがほとんど。原産国の人たちが、カカオを育てているにもかかわらず、チョコレートを食べたことがないという現状も、料理人としてすごくショックだったしがっかりしました。「カカオ=チョコレート」でなく、その背景にはたくさんの人が関わり、地道な作業を重ね、カカオを作っている人がいる。そういった背景も含めて、ブランドを通して消費者をはじめ、様々な人にもっと知ってもらいたいです。私たちの商品がきっかけとなって、もしかしたら他のメーカーからも似たような商品が生まれたり、と私たちが伝えたいストーリーや活動によって広がる輪が、原産国にまで還元されるように世の中も動き出していったらいいなと思っています。

 

「SIZEN TO OZEN」が追求する“棄てないカカオハスク”が創り出す、おいしいの新しい価値
SIZEN TO OZEN マネージャーの樹宏昌さん(左から3番目)と一緒に商品づくりをする「SIZEN TO OZEN」チームメンバーの皆さん。(左から)前職の雑貨メーカー営業から食品企画へと転身をした赤嵜すおみさん/美容やアパレル業界の経験で得た視点を発揮する山﨑佳奈さん/前職から大手食品メーカーでの開発の仕事をしている福田真也さん

 

 

【Profile】

 

樹 宏昌(Hiromasa Ueki)

GOOD NATURE MARKETマネージャー/1980年生まれ。大阪府大阪市住吉区出身。

専門学校を卒業後、イタリア料理の道に。様々な料理店を経験後「エッセンツァ」で原田慎次に師事したのち、銀座店開業と同時に「アロマフレスカ」へ。東北地方太平洋沖地震をきっかけに“高単価なお店で限られた人達の食よりも、もっと多くの方に食を届けたい”と考え、伊勢丹新宿店内にある「HATAKE CAFE」総料理長に。「生産者の素材をおいしい季節に美味しく野菜を食べる」をコンセプトに掲げ、月15,000人が来店する人気店にまで育て上げる。その後、現職でもある「SIZEN TO OZEN」マネージャーに就任。アマゾンカカオ料理人・太田哲雄氏とともに南米・ペルーに同行し、勉強会などカカオ関連のイベントを開催する。そのほかにも「フロリレージュ」川手寛康氏の海外レストラン同行の経験や、日本のみならず海外の生産地を訪問し、自分の目でものづくりの現場を見ることをモットーにしている。

 

SIZEN TO OZEN

https://goodnaturestation.com/sizen_to_ozen/

 

GOOD NATURE STATION

https://goodnaturestation.com/

 

 

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取材・文:松浦裕香里

フリーランス フードPR、ライター。オーガニック食品メーカー広報を経て、サスティナブルな食にまつわるモノコトをテーマに、PRコンサルティングとして独立。PR以外にも商品の企画開発・セミナー登壇などもおこなう。食のライターとしてWEBでの執筆・レシピ提供・企画を手がけるなど、活動は多岐にわたる。

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