文=三谷裕子

写真=ミリアム・ティレラー

 

パリ二区にあるRue du Nilはパリの食通には特別な場所だ。今でこそパリの知らない人はいない有名な通りだが、2009年にFrenchie(フレンチー)というレストランがオープンするまでは、生地の問屋しかなかった小さな通りだった。ちなみにこのFrenchie は現在のフランスの人気レストランやビストロでは常識になったCarte Blancheというスタイルを(カルト ブランシュ、直訳だと「白紙のメニュー」。その日に仕入れた素材の食材をもとにその日のコースメニューをきめる、アラカルトではなく、ほぼお任せメニュー)NYとロンドンからパリに持ち込み、瞬く間にパリの大人気レストランになった。そして2012年には、Frenchieを始めとする有名シェフ、星付きシェフが絶対的な信頼をおく、Terroir d’Avenir(テロワール・ドアブニール、未来の土壌)が初の小売り店をオープンして大きなニュースになった。いわずもがな私も、レストランでしかお顔を拝見できないとびっきり新鮮で、他の八百屋やマルシェではみたこともない珍しい野菜や果物が自宅で食べられるようになったことに大興奮した人達の一人である。翌年2013年に、Frenchieのワインバー、NYスタイルの軽食テイクアウト専門店、自然派ワインカーブの3軒を構え、最高品質でしかもサスティナブルな食材を購入できる場ではパリ一番の確立した。そしてこのファミリーに2017年にまた新しいメンバーが加わった。ビーントゥバー「Plaq」である。

PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー

約束の時間に共同オーナーのうちの一人、サンドラが小走りにやってきた。ショートの髪、ノーメイク、ボーダーのシャツを着た彼女は大人のパリジェンヌそのものだ。「ニコラが少し遅れてるの。ごめんなさいね。インタビューは彼が担当するわ。私より彼の方が人と話すのはずっと上手だから。私は専らバックオフィスなの」と柔らかな声で話す。この店はニコラとサンドラのカップル経営で、サンドラは元LVMHのマーケティング、ニコラはコミュニケーションから、二人が愛してやまないチョコレートの世界に飛び込んだ。背景をサンドラが説明してくれている間に、チャイルドシート付きの自転車でニコラがあわててやってきた。「ごめんなさい!遅れちゃって」と笑顔で登場。

 

PLAQはプラックと発音する。フランス語で「板」を意味する。もちろん板チョコにひっかけた言葉遊びなのだが、アルファベット一つ一つにも意味があるんだ、とニコラが教えてくれた。PlaqのPurité et petite quantité(ピュア&少量生産)、Lは Liberté & Lentement(自由&時間をかける)、Aは Amour & Artisan(愛&職人)、そしてQはCultivé & Culoté(育てる&大胆)なのだそうだ。

PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー
PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー

ニコラとサンドラは出会う前からチョコレートが大好きだった。カップルになって、二人で一緒に新しいショコラティエを試してみたり、お気に入りのメゾンの新作を食べたり、チョコレートは二人をつなぐ情熱だった。そして今の仕事をこのまま老後まで続けることに疑問をもった二人は思い切ってチョコレートの世界に飛び込む。

 

そしてChloé Doutre-Roussel(クロエ・ドゥートル・ルッセル)に出会い、彼女のもとでカカオを一から学び世界中の産地を飛び回った。クロエは世界的に有名なカカオコンサルタントだ。ショコラティエの作りたいクリエーションに最適と思われるカカオを探し提案する。その彼女の下で二人は一年間生産地を巡り、カカオとチョコレートについて学んだ。PLAQのカカオ豆はもちろんクロエのセレクションだ。今のダークチョコレートのラインアップは、ブラジル、ベネズエラ、ペルー、タンザニア、そしてインドネシアのシングルオリジンである。その他にも入荷すると即完売するピスタッチオペーストをフィリングしたカミラ(タンザニア)のダークタブレット、ヘーゼルナッツなどのナッツを粒丸ごとのせたタブレット、そしてクッキー、フォンダンショコラ等のお菓子も作っている。週末限定のチョコレートムースはクリーミーだけど軽く甘さも控えめで、大人気商品だ。

PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー

そしてカカオ豆はフランスに運ばれ、PLAQのアトリエで選別、焙煎、粉砕などを経てタブレットになるまで全て手掛ける。「ぼくらがどうやってタブレットを作っているのかを見てもらうことで、チョコレート作りにおいて最も大切なのはカカオであることを知ってもらいたかったんだ」とニコラは言う。その彼の言葉通り、ガラス張りの店にはアトリエが隣接されていて、歩いている人たちも足をとめて興味深そうに眺めている。

PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー
PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー
PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー

なぜガナッシュやプラリネは扱わないの? という質問に、「だってガナッシュもプラリネも味の主体は中身であってチョコレートじゃないでしょ? 僕らはカカオ本来の味を突き詰めたいんだ」とニコラが答えてくれた。その彼らのチョコレートは、タブレットのデザインはモダン、シンプルでスタイリッシュ。ミニマルな潔さが美しい。またサステイナビリティにとことんこだわる彼らは、パッケージも全て紙のみ。なんとタブレットは箱なしでも購入できる。「見た目の豪華さや、美しければ着色料や添加物も使うというのは僕たちの目指しているものの正反対。色の鮮やかなボンボン箱は目には美しいけど、それが地球にどういう影響を与えるのか考えてもらいたいんだ。いわゆるグランメゾン(有名な老舗店)とは正反対だよね! でもいいんだ。僕らがやりたいのはそういうことじゃないから! 古い考え方に挑戦したかったんだ。美しいとはなにか、の定義を変えたかったんだよ。僕らのタブレットは精製されていないきび砂糖とカカオだけで作っていて、カカオバターもヴァニラもレシチン(乳化剤)も入っていないんだ。カカオだけで勝負しているんだよ。それが僕達が理想とする最高のチョコレートなんだ」とキラキラした目と大きな笑顔で熱く語った。

PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー

夕日がさしこむ店内には、できたてのフォンダンショコラをほおばる子供と生チョコレートを水でうすめたホットドリンクを楽しむ親子連れもいれば、自分用のチョコレートを選ぶ女性もいるし、常連の老紳士がニコラと楽しそうに会話をしている。そこにはつい長居してしまいたくなる居心地の良さと、笑い声、温かい空気がながれている。

 

 

PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー PLAQ、パリ二区、スタイリッシュなビーントゥバー

Plaq

4 rue du Nil, 75002 Paris

Tel : 01 40 39 09 54

https://plaqchocolat.com/