「オオヤコーヒ焙煎所」を主宰するオオヤミノルさん。焙煎家として、コーヒー好きの方ならばご存知の方も多いでしょう。辰野翔太さんは東京の最前線でパティシエとしての経験を積み、2020年11月に生まれ故郷の滋賀県で「Patisserie cafe Toppen(パティスリーカフェ トッペン)」をオープンしたばかり。

 

カカオ豆からチョコレートなるまで一貫して製造を行うbean to bar。そこに一石を投じる独自の考察を繰り広げる両人に見えたのは、“オリジナル”なものづくりに対するクリエイティブで真摯な姿勢だった。

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
京都からは電車で約1時間半。辰野さんの生まれ故郷である滋賀県多賀町。2020年11月に「Patisserie cafe Toppen」がオープンした。

 

「コーヒーとカカオって兄弟だと思うんだよね。熱帯の産地に植物の種子、焙煎…と、ドリップや成形に至るまでは似たプロセスを踏むから」 

 

こう話すのは、オオヤミノルさん。現在、おふたりはオリジナルのチョコレートを開発中。2度目の試食と打ち合わせを兼ねて、滋賀県多賀町にある辰野さんの店を訪れた。

 

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
田んぼに囲まれたモダンな建物が「トッペン」。夕方にはほとんどのケーキが売り切れてしまうほどの人気。

もともと「ジャン=ポール・エヴァン ジャポン」や「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」「西荻窪 パティスリーレリアン」など、東京の名だたる店でパティシエとして経験を積んだ辰野さんが、地元・多賀町に店を出したのには理由がある。

 

辰野「東京に比べると食に興味のある方もスイーツ好きも圧倒的に少ないエリアですが、例えば近くのケーキ屋さんと比べて『プリンはこっちの方が美味しい。けどケーキはあっちが好き』と選択肢ができることで、食に関心を持ってくれるお客様が増えてくれれば嬉しい。僕が修行した中で一番長かったのがショコラティエとしての時間なのですが、bean to barのチョコレートに関しても同じ考えです。bean to bar 用の設備を最初から設置する事もできましたが、海外の有名なチョコレートを届けられるお店すらないこの地域で、そこを飛び越えたbean to barをやるのは、あまりに自己満のパフォーマンスに思えるので、うちはまだその土台を作っている段階ですね」

 

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
「トッペン」店内でのプリンは少し硬めに仕上げて提供。逆にテイクアウト用のプリンはトロトロに柔らかく仕上げられている。「選択肢が広がるということは、食の関心も広がっていくはず」と辰野さん。
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ミルクチョコレートだけでも数種類が並ぶ「トッペン」。「カカオの分量の違いによる味の違いを知ってもらいたい。さらに2、3段階上にbean to barがあると思っています」と辰野さん。

オオヤ「辰野君みたく知識と経験もあるパティシエが、ここでbean to barまで広げてやることに意味があるか、だよね。うちでも昔リトアニアのチョコレートを販売してたけど、そもそもbean to barの世界で、味で勝負しているところはまだわずか。サステナブルやトレーサビリティを貫くことだったり、自分たちが選んだ農園やコミュニケーションを使うがために、それを絶対に美味しいと言う押し付けが強い気がするの。『出来上がるまでのプロセスを楽しみながら食べれば美味しい』という提案までだと、少し子供っぽいよね。それだと、いつまでたってもパッケージのみがオシャレになっていって、常に世代交代ばかりが繰り返されるだけだから、そのカルチャーは成熟していかない。もちろんフェアトレードなど新しい価値観を作って地盤を整えただけでも成功とは言えるし、これから美味しくなっていくはずなんだけどね」

 

辰野「いわゆるストーリーなどセールスの側面が強くなってしまってるんですよね。もちろん食べて本当に美味しいと感じたbean to barもあるんですが、今の段階だとパフォーマンスまでで、味を突き詰めるまでは到達していないところが多いのかも」

 

オオヤ「コーヒーの世界でも、20年前は一概に『モカは酸っぱい』って言う人がたくさんいたけど、同じコロンビアの豆でも、浅く焙煎すれば酸っぱくて、深い焙煎は苦味があるから、ここ何年かで、コーヒーは生産地でなく品種や工程によって味がさまざまだとわかってきたよね。兄弟であるカカオも同じことができるはず」

 

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
京都にあるオオヤさんのカフェ「KAFE工船」内の焙煎所。

辰野「僕も『エヴァン』に入って初めて、カカオの品質だけでなく産地や焼き方によっても味が違うことに気づきました。産地が同じでも、クーベルチュールの会社ごとに焼く技術や、砂糖・カカオバターの配合が異なるので味わいが違かったり」

 

オオヤ「それなら、パティシエからリクエストして、オリジナルを作ってもらうことはできないの?」

 

辰野「んー、コーヒーのように卸先ごとに焙煎を変えるところもありましたが、ある程度大きなところでないと難しいかもしれません」

 

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
田んぼを見渡すように、大きなガラス窓のある「トッペン」で。左:オオヤさん、右:辰野さん。

オオヤ「でもチャンスじゃない!? 俺がコーヒー屋としてやりたかったのはそういうことなの。腕と知識で、こういうオリジナルブレンドを作って欲しいって言われたら、どんな要望のコーヒーも作れる自信がある。もし俺がカカオに関わるなら、ケーキ屋さん廻りをして注文を取りに行くな(笑)。もしカカオの世界でリクエストに個人レベルで応えるなら、bean to barにこだわるよりも、豆の選別や焙煎などを分業すればできるのかもしれないよね。例えば、老舗と言われる京料理屋の多くは、お豆腐も味噌も湯葉も自分たちで作れるのに作らない。そこにはそれぞれ専門の人たちがいて、お豆腐屋さんなら、料理屋さんごとに固めに仕上げたり、豆乳の風味を強めにしたり、料理屋さんのオーダーに応えるために一緒に試行錯誤することで、味を高めていったはずなんだよね。だからカカオの世界でも、小回りをスタートさせる時期なんじゃないかな」

 

辰野「確かにオオヤさんにとってのオリジナルブレンドって、他のコーヒー屋さんのそれとは意味が違いますよね」

 

オオヤ「オリジナルブレンドって、他と配合が違えばいいと思っているお店が多いんだけど、例えばガラス作家と仕事をしたときに、まず『グラスに映える色のコーヒー』という要望を言われたことがあって、面白かったなあ。いかに曇りのないクリアなものにするか。ということは、薄くて光を通しやすいコーヒーだけど、味はしっかり出すってことで、すごいやり甲斐があった」

 

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
「オオヤコーヒ焙煎所」の豆(撮影場所は「KAFE工船」内)。

「トッペン」では地域での新たな提案の一つとして、「オオヤコーヒ焙煎所」のアメリカーノを提供している。

 

オオヤ「こういった地方のお店で、コーヒーのクオリティにまでこだわるのは珍しいことなんだよね。ご飯屋さんやカフェで何も考えないで出すコーヒーは、結局『気にならないコーヒー』にしかならないの。『まずい』という気づきもないくらい。ちょっと高くても『コーヒー美味しい』っていう気づきにこだわってくれるのは、オペレーションもギリギリの忙しいお店なのに嬉しいよね。そしたら辰野君を紹介してくれた「FLAVÉDO par LISETTE(熊本)」の鶴見 昂君から『もともと辰野君はチョコレートが得意』だと聞いて。紀州・和歌山にもうちのお店があるのでオファーしたキーワードが、“梅干しとパンダ”(笑)。コーヒーにも合うようなフルーティーな梅干しのチョコレートをお願いしたの。今は閉店しちゃったけど、水出しコーヒーに梅を入れてた浅草のアンヂェラスとかね。梅などプラム系ととびきり深く焼いたコーヒーって絶対的に合うから」

 

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
試作段階の、梅干し入りのパンダのチョコレート。

辰野「オオヤさんからお話をいただいて、試作用にいただいた梅が白干しの梅だったので、まず塩抜きをしっかりとしてから梅干しを蜂蜜につけました。一度乾かしてから蜂蜜に漬けると、フルーティーな甘みのある梅になり、仕上げにホワイトチョコのトップに白干しの塩っぱい梅干しをそのままドライにしたものを少し乗せることで、味が締まるんです」

 

オオヤ「あと少し調整したいよね。もちろん彼なら不味いものになるわけが無いんだけど、彼とだからこそ凝りたいし、こういうのは売るための物作りをしたくないから、じっくり時間をかけて作りたいんだ」

 

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談
「梅の量をもっと増やしても美味しいね」「蜂蜜の分、もう少し塩を効かせたら?」など様々な意見を交わして、少しずつカタチになってきたという梅入りチョコレート。程よい塩味が、蜂蜜漬けした梅をさらにコクのある味わいに。

 

二人がじっくりと向き合い作るチョコレートは、完成までまだ少し時間がかかりそうだが、オオヤさんの店「pingpong & coffee 白浜STAND!」(和歌山県白浜)をはじめ、「KAFE工船」など関係店舗やイベントなどでも販売予定だそう。

 

 

文=藤井存希

写真=新井まる

 

 

Profile

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談

左:オオヤミノル(Minoru Ooya

焙煎家。「オオヤコーヒ焙煎所」主宰。自家焙煎ネルドリップコーヒー専門店の「KAFE工船」(京都)、毎月10日間限定営業の「pingpong & coffee 白浜STAND!」(和歌山県白浜)、カレーライスとトーストとエスプレッソコーヒーの店「Café gewa」(岡山県倉敷)を直営。

https://ooyacoffeeassociees.com/

 

右:辰野翔太(Tatsuno Shota

ジャン=ポール・エヴァン ジャポン」や「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」「西荻窪 パティスリーレリアン」などでパティシエとして経験を積み、202011月、滋賀県多賀町に自身がオーナーシェフパティシエを務める「Patisserie cafe Toppen」 をオープン。

https://www.instagram.com/p.c.toppen/

 

 

【店舗情報】

チョコ作りを分業?! BEAN to BARに一石を投じる、オオヤコーヒ焙煎所オオヤミノル×トッペン辰野翔太 対談

Patisserie cafe Toppen(パティスリーカフェ トッペン)

 

522-0353 滋賀県犬上郡多賀町月之木159-2

Tel0749-48-0711

LUNCH 11:0015:00L.O.14:30

TEA TIME 14:3019:00L.O.18:30

定休日:火曜+不定休(祝日は営業)