代わる代わる一冊の本を売る本屋「森岡書店」。その店主、森岡督行さんがチョコレートをきっかけに、いま会いたい人と語らうシリーズ。第3回。

 

 

森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん
石井佳苗さん(左)と森岡督行さん(右)

戦後日本史から工芸、音楽まで、幅広い分野の知見を持ち、執筆や展覧会の監修にも関わる森岡督行さん。豊富な知識の源は、本だけでなく、幅広い交友関係にもある。そんな彼がチョコレートを手土産に会いたい人と語り合うアート、生活観、暮らし論。

 

第3回目はインテリアスタイリストの石井佳苗さん。インテリアを通して哲学を伝えるオンライン講座が大人気。その秘密も伺いました。

 

森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん
森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん
東京千代田区九段下。皇居外苑を臨む、ビルの一室が石井さんの所属事務所兼スタジオ。

雑誌や企業の世界観そして理想とする暮らしを、インテリアを通して作り上げる石井さん。そのセンスに憧れて、石井さんがインテリアの作り方のノウハウを伝授する一般向けのオンライン講座も評判なのです。というのも、教材となっているのは石井さんのご自宅。パソコンのスクリーン越しに映るのは石井さんの生の生活の場です。そこからライブ形式で家具や照明、ファブリックの取り入れ方を伝授するオンライン講座では石井さんの暮らしぶりがじかに伝わってきます。でも、インテリア作りのコツって他人から学ぶことができるのでしょうか?

 

森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん

森岡:新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐために自宅にいる時間が長くなって、家具や照明など住まいにあるものに意識が向くようになりましたよね。すると本当に好きなものに囲まれて暮らしたいと感じた人が多いと思うんです。それもあって石井さんが昨年から始めたインテリア講座に興味があったのですが、講座はオンラインなんですよね?オンラインでどうやって学ぶのだろう?と不思議でなりませんでした。

 

石井:もともとは私たちがこうしているように対面で開催するつもりだったんです。でも新型コロナウィルスの感染が収束しない中、なるべく外出しない、人と会わないことが求められたので、だったら自分の好きな世界を作り上げている自宅をそのまま教材としてみなさんに見てもらうのはどうだろう?と考えたんです。家具、照明、ラグの使い方など私が暮らしているままをさらけ出すことでもあります。でも結果、とてもよかった。というのもオンラインは距離を一気に縮めてくれます。北海道から九州まで、海外ではスペイン、シンガポールの方が講座に参加してくれています。また、オンラインになったことで、みなさん自宅から参加しているという前提で、「今、皆さんの家はどうなっています?」と見渡してもらえるんです。どこかに集まって家具や照明の使い方について話しても、みなさん自宅に帰ったころにはどんなことを教わったんだっけ?となってしまいがち。自分の住まいについて考える講座なので、オンタイムで実践することが一番なんです。

 

森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん

森岡:具体的にどのようなことを教えるのですか?

 

石井:壁の使い方、照明の使い方など、居心地の良さを求めて自分がどのように住まいを作ってきたか自分の家を例に説明しますが、それを自分ごととして引き寄せてもらいたいんです。私が言ったことを聴いているだけでは、「なるほど」だけで終わってしまいます。みなさん住まいの広さも異なれば、持ち物も違います。自分の住まいの中に置き換えること。そのためにはまず、自分の家の現状を把握することです。そこで、最初は「みなさんの家のどんなところが好きですか?どんなところが気に入りませんか?」と質問から始めます。みなさんてっきり教えてもらえると思っているので驚くんですが、理想の住いにするためにはまずどこが好きでどこが気に入らないのか、把握しないと始まりません。好きなところはそのままさらに生かせばいいわけですし、気に入らないところは、どうして気に入らないのだろう?と自問してもらいます。また、同じ自分でも月日ともに考え方が変われば、居場所に求める要素や好みも変わってきます。そうなった時、どのようにしたら心地いい暮らしを持続できるのか、そうしたことを自分なりに考える姿勢を身に付けてもらえるようにしたいんです。すると、みなさん変わるんです。昨年からスタートして10回で完結する講座ですが、その間、何人かは引っ越しています。それだけ自分が何を求めているかがはっきりしたんでしょうね。

 

森岡:すごいですね。もうインテリアをどうするかというより、人生をどうするかのカウンセリングのようですね……。

 

石井:インテリアを通して自分を見つめなおす方法。インテリアを通した哲学です。下は25歳から上は65歳まで、年齢も社会の中での立ち位置も異なるみなさんが同じ講座を受けてくださっています。これから社会に出ていくという方、あるいはもうお孫さんがいる方、でもそれぞれが自分のこととして考えることができるのが住まいという空間なんです。

 

インテリアを哲学する話が深みにはまる中、森岡さんが石井さんのために選んだチョコレートは花椿のモチーフの資生堂パーラーオリジナルチョコレート「Chocolats “Hanatsubaki”」。

 

森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん
森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん
【キャラメルポワ―ル】【ユズ】【マンゴー】など 10個入り3,024円(税込)フレーバーは自由に選べる。グラフィックデザイナーの仲条正義さんがデザインしたパッケージ

石井:わあ、ステキ。写真撮っていいですか?ノスタルジアを誘うパッケージがいいですね。

 

森岡:石井さんのインテリアのお仕事を拝見して、人の時間と空間をデザインしているように感じたんです。それは資生堂の初代社長であった福原信三の信念に通じるんじゃないだろうか。福原さんは資生堂の化粧品やお菓子を通して日本人の家庭の時間、空間を豊かなものにしたいと願っていたんです。そういう姿勢をお持ちでした。その意味でこのチョコレートの大元にある考えと石井さんのインテリアスタイリストとしての姿勢がつながる気がして石井さんにこのチョコレートを食べてもらいたかったんです。

 

森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん

石井:うれしいです。花椿という100年近く資生堂のシンボルとなっているモチーフが使われているのがいいですね。花椿のシンボルがいい例ですが、最近、新しいものばかりを追い求めるのではなく、お直しをしながら長年存在するものを受け継いでいくことに豊かさを感じています。もちろん人間は時代ごとに考え方や趣向が変わるのでアップデートは大切ですが…。

 

森岡:  思い出という時間の魔法です。花椿のチョコレートも、あと何十年経っても作られていたら、「あの時、石井さんと一緒に食べたよね」という記憶がよみがえるのがいいですね。石井さんが作り出すインテリアの世界も、最新の製品ばかりで固めるのではなく、どこの時代のどこからやってきたのかわからないものが混在していて、いろんな記憶の引き出しを開ける驚きが魅力のように思えます。

 

森岡督行連載 文化とチョコレートの美味しい話 vol.3 インテリアスタイリスト 石井佳苗さん

 

PROFILE

 

<guest>

石井佳苗(Kanae Ishii)

インテリアスタイリスト

インテリアを通したライフスタイルの提案や、家具のメーカーとデザイナーという作り手の想いを、スタイリングを通してユーザーに伝えるヴィジュアルストーリーテラー。住宅メーカーのモデルルーム、家具ブランドのカタログ等のスタイリングなど、決して夢物語ではなく、こんな空間で暮らしたいというちょっとだけ背伸びした空間を作り上げるプロ。

 

<host>

森岡督行(Yoshiyuki Morioka)

一冊の本を売る店をコンセプトにした銀座の店「森岡書店」の店主。展覧会企画にも協力。「雑貨展」(21_21 DESIGN SIGHT)、「そばにいる工芸」(資生堂ギャラリー)、「Khadi インドの明日をつむぐ」(21_21 DESIGN SIGHT)など。京都・和久傳のゲストハウス「川」や、「エルメスの手しごと」展のカフェライブラリーの選書を担当。文筆家として新潮社『工芸青花』のサイトで日記を、資生堂『花椿』サイトで「現代銀座考」を連載中。

 

 

文=長谷川香苗

写真=林ユバ