構成・文:松浦裕香里

 

- 青山・SPIRAL(スパイラル)の5階。エレベーターを降りると、さっきまでの青山通りの喧騒が幻かのような、穏やかな空間『call』が私たちを迎えてくれます。ここは〈ミナ ペルホネン(minä perhonen)〉が手掛ける心地よい暮らしのための店。デザイナー、皆川 明氏の衣食住に「寄り添い、過ごす」視点と表現が楽しめます。

 

店内の一角には、古今東西から ”呼び寄せ=call”られたグロサリーの姿も。手にとれば、ひとつひとつ作り手の声が聞こえてくる、ストーリーと想いが詰まった食材がずらり。その中には、チョコレートの姿も。

 

ひとくち食べれば、想い広がる、ちょっとビターで甘いストーリーがそこにはある。callに集まったチョコレートをチケットに、こんな今だからこそ《美味しい旅へ》と出かけてみよう。callで見つけた、ちょっと美味しくて、耳を傾けたくなるカカオのはなし。

 

笑顔の循環を生むチョコレート

あたり一面、澄み切った青い海に広い空、豊かな緑色の山々に囲まれた鹿児島県・鹿屋市。かつて「日本一海に近い小学校」と呼ばれた旧鹿屋市立菅原小学校を再利用した「ユクサおおすみ海の学校」の中に、ビーン・トゥ・バーのチョコレート工場『kiitos(キートス)』がある。こちらは、就労継続支援B型事業所で特定営利活動法人『Lanka(ランカ)』によるプロジェクトのひとつでもあるチョコレート工場。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅

 

それぞれの「得意」なことを生かして、作られるチョコレート。一緒に働くメンバーは、障がいがありながらも、それぞれの「個性」と「得意」を発揮し、チョコレート作りの職人として働いている。絵が得意な人はパッケージのイラストを、時間を測るのが正確な人はオーブンの担当を、細かい作業が得意で集中力に長けている人はカカオ豆の選別を。一人ひとりの得意分野とマッチする作業を担い、それぞれが活き活きと才能を発揮しながら、みんなで1枚のチョコレートを生み出している。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅

 

「私たちの名前『kiitos』はフィンランド語で「ありがとう」という意味です。カカオ豆の生産者の皆さん、チョコレートを作る工場の仲間、チョコレートを売ってくれる人、そしてチョコレートを食べてくれる人。私たちのチョコレートに関わる全ての人が笑顔になってくれて、沢山の「ありがとう」が生まれたらいいな、と願ってつけたブランド名です。」

 

Lankaの代表で『kiitos』の創業者、大山真司さんは、ひとりひとりの個性と向き合いながら、作る人・売る人・食べる人の喜びが循環する活動を『kiitos』を通して2017年から行っている。

 

原材料はカカオ豆と有機きび砂糖だけ。潔いシンプルな材料ながら、バリエーション豊かなフレーバーが楽しめる。カラフルなパッケージと、鹿児島のシンボル「桜島」をイメージした山型のチョコレートは、随所にこだわりを感じる。味や品質に妥協を一切せず、こだわりと働く人の温かさをぎゅっと詰め込んだ、本格的なビーン・トゥ・バー・チョコレートだ。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅
カカオ豆の産地の情報をもとにメンバーがそれぞれのインスピレーションでデザインした個性的なパッケージの数々
<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅
kiitos創業者の大山さんご夫婦 (左)大山愛子さん (右)大山真司さん
生産者の顔と現地の風を感じるチョコレートづくり

kiitosとミナ ペルホネンの出会いは3年前。

 

お互いに出店していた音楽イベントで、kiitosによるビーン・トゥ・バー・チョコレートのワークショップを会場で見た、デザイナー・皆川明氏との出会いが、callオリジナルのチョコレートを生むきっかけとなった。

 

大山さん「<障がい者の方と一緒に作っているチョコレート>と思って手に取ってもらうのではなく、純粋に私たちの作ったチョコレートを「美味しい」と評価してくれた。それがミナ ペルホネンさんだったんです。」

 

イベントで開催していたビーン・トゥ・バー・チョコレートワークショップをcallで開催するのと同時に、オリジナルのフレーバーも一緒に開発した。

 

「せっかくミナ ペルホネンさんと一緒にチョコレートを作るなら、生産者の顔が見えるというのはもちろん、一番美味しい!と思えるチョコレートを作ろうと、私たちにとって初めての挑戦をしました。」そう語るのは工場長の白坂純一さん。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅

 

選んだ豆は、タンザニアのカカオ豆。農園で働く人たちにもしっかりと対価が支払われるシステムのもと、華やかな味わいのカカオ豆を、安定的な品質で生産している農場のもの。タンザニアの農園からは、毎年働く仲間達のメッセージと、活き活きとした笑顔の写真が届く。

 

白坂さん「一度使ってみたかったカカオ豆でした。実際に自分たちで焙煎したところ、今までにないくらい香りも豊かで、驚いたのを覚えています。これは今までkiitosにないものが出来るぞ…!と感じさせてくれる豆でした。」

 

kiitosが商品開発をするときに大切にしていることは「カカオ豆本来の味を伝える」こと。ミナ ペルホネン・オリジナルフレーバーの開発も、バナナなどの果実味や酸味、生産地の風を感じる様な、複雑みある味を落とさず、“カカオ豆がもつ本来の味”を表現するに至るまで、通常の倍以上の時間がかかったそう。今までにないタイプのカカオ豆に、“kiitosらしさ”を感じてもらうための工夫が、焙煎・テンパリング・口当たりの確認に至る細部まで、こだわりを随所に散りばめたフレーバーに仕上がっている。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅
「for minä perhonen 」の手押しスタンプが押されたcallオリジナルのフレーバー『minä perhonenオリジナル』 864円(税込)

 

フルーティかつ爽やかな酸味と白ぶどうの種に近いような渋みなど、艶やかな香りのレイヤーが楽しめる一品のミナ ペルホネン・オリジナルフレーバー。パッケージデザインはミナ ペルホネンのテキスタイルをまとう。その可愛らしいパッケージとこだわりの詰まったフレーバーは、ナチュールワインが豊富に取り扱われているcallらしく、ワインとの組み合わせ提案や、ちょっとしたギフトとしても人気となっている。

 

美味しいだけじゃない、「人の温かみ」を手にとってもらう

kiitosのワークショップがcallで初開催された2020年1月、call併設のカフェ「家と庭」には賑やかな声があふれていた。「美味しいだけでなく、作り手の想いや、商品のストーリーを知って商品を手にとって欲しい。」という願いから、kiitosによるビーン・トゥ・バー・チョコレートづくりのワークショップが開催された。豆からチョコレートになるまでの話や、実際のビーン・トゥ・バー・チョコレートづくりを体験するというイベント。<カカオ豆>と<きび砂糖>だけというシンプルな材料が、機械で回していくにつれツヤツヤと光りだし、滑らかなチョコレートに姿を変えていく様子に、参加者は驚いた様子だったそう。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅
<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅

 

「callに並ぶ商品は、単に“美味しそう”という理由だけでなくて、作り手のストーリーを知った上で、商品を手にとっていただきたいと思っています。イベントにご参加いただくことで、商品の価格にはきちんと理由があり、背景を知り購入していただく良い機会にもなりました。callマーケットスタッフも全員がワークショップに参加し、店頭でお客様にkiitosさんの代わりにストーリーテリングをすることで、納得してお客様に購入していただけています。背景を知ったお客様が、まとめ買いや、リピート購入をしてくださる。一回の購入だけじゃなく、<続けたい美味しいもの>だと思ってくださるきっかけづくりにもなっています。」call・PRの川村さんは語る。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅

 

イベントの最後にはブランド名『kiitos』の日本語訳「ありがとう」にちなみ、ミナ ペルホネンのテキスタイル『merci(=フランス語で「ありがとう」)』のパッケージにチョコレートを包んだそう。子どもから大人まで、みんなのワクワクとしたチョコレート作りの興奮が伝わる、温かな雰囲気の中でのイベントとなった。

 

kiitosの「おいしい」はつづく

call・PR川村さん:「個を大切に、喜びのなかで生まれている商品が、callに届き、手にしたお客様が喜んでくれる。そんな喜びの循環が続いていることをkiitosのチョコレートは感じさせてくれます。」

 

四角は「私」そして、「個性」を表す丸い粒「私(四角)の中のさまざまな個性(粒の集合)」を表現しているミナ ペルホネンのブランドロゴ。一人ひとりの個性を尊重し、有機的な繋がりと循環の中で生まれるkiitosのチョコレート。それはどこか、出会うべくして出会い生まれた「共鳴」を感じる1枚のチョコレートだ。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅

 

大山さん:「私たちはいいな、思ったカカオ豆が手に入ったら「美味しい!」を何よりも大切に、お客様に手にとってもらえるモノづくりをしていきたい。<福祉施設で作っている>という背景を特別視するのではなく<いいと思って選んだものがたまたまそういった商品だった。>とか、私たちのモノづくりの背景に共感し、対等な立場で、作ったものを評価して欲しい。」

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅
kiitosで働くメンバーの皆さん

 

今使っているきび砂糖も将来的には、地元で栽培したものに変える挑戦も予定しているそう。今年は地元で生産される新しい素材を入れたフレーバーや、チョコレート工場で働くメンバーが、カカオ豆の選定から関わる新商品の開発をしたり、とkiitosの「おいしい」へのこだわりはつづいていく。大山さんは、そう遠くない未来のkiitosをワクワクとした表情で語ってくれた。

 

「蝶のように美しい羽のような図案を軽やかに作っていきたい」という願いをフィンランド語でもあるブランド名『minä perhonen』にデザイナー皆川 明氏が込めたように。kiitosもメンバーの数々の個性とともに、数ある世界中のカカオ豆でおいしく、美しく、そして一人ひとりの「ありがとう」を感じる、温もりあるチョコレートを軽やかに作りつづけていく。

 

<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅
トリニダード・トバゴ オルティノーラ 農園 864円
<ミナ ペルホネン『call』と辿る>鹿児島県・大隅半島kiitos /<br>カカオから生まれる「ありがとう」の旅
ガーナ 864円

 

 

call

http://www.mp-call.jp/

 

kiitos

https://kiitos-cacao.com/

 

Lanka

http://lanka-plus.com/

 

 

 

構成・文:松浦裕香里

フリーランス フードPR、ライター。オーガニック食品メーカー勤務を経て、サスティナブルな食にまつわるモノコトをテーマに、PRコンサルティングとして独立。PR以外にも商品の企画開発・セミナーの登壇などもおこなう。食のライターとしてWEBでの執筆・レシピ提供・企画を手がけるなど、活動は多岐にわたる。note:https://note.com/yukarim0601

Instagram: @yukari_matsuura_