FEATURE

 チョコレート細工の花びらをパフェに見立てた花ひらくパフェ、「100個食べても疲れない」を目指したエアリーガトーショコラ。伝統的なフランス菓子にオリジナリティを加えたクリエイティブな作品づくりで注目を集めているのが、ショコラティエの眞砂翔平氏。

 チョコレートに人や物を掛け合わせ、新しい価値を生み出している眞砂氏の仕事へのこだわりと、業界の垣根を超えたコラボレーションの可能性についてお伺いしました。

 

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
アジアNo.1への軌跡、未来への投資をした20代

ーショコラティエになったきっかけを教えてください。

 もともとパティシエからスタートし、「ジャパン・ベルコラーデ・アワード」という大会に挑戦した2015年からチョコレートを本格的に触り始めました。10年間勤めた「クリオロ」で、2016年にチョコレート部門の責任者になったことも大きいですね。

 

ークリオロ時代はいかがでしたか?

 お菓子作りの基礎を学びました。オーナーのサントス氏にはフランスと日本、それぞれ25年ずつの在住経験があり、伝統を重んじるフランス人的考えと流行に敏感な日本人的感覚をあわせ持っていたんです。  

 味覚の部分でも、まだまだ脂肪分が高くて重いものを好むフランスに対し、日本では「ふんわり」「なめらか」「生○○」といった食感が好まれます。そのような文化的な違いを理解していたサントス氏は、日本人が好む新しい感覚を伝統的なフランス菓子に当てはめて面白いものを作っていた。その人のもとで働いた経験が、今の自分の作品作りにつながっているのかもしれません。

 

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
眞砂シェフの作るお菓子は「あまり脂っこくなくて食べやすい」のが基本。

ー国内のコンクールで2度優勝し、2017年には「トップオブパティシエインアジア」でアジアベストショコラティエに選ばれていますよね。コンクールに挑戦しようと思ったきっかけは?

 

 お店には月9日ほど休みがあり、ほぼ定時で終わっていたんです。練習させてもらえる環境も整っていたので、空き時間を使って未来への投資をしようと決めました。コンクールで優勝したら自分の価値につながりますから。最終ゴールを世界大会に定め、「年1回、1年かけて準備して優勝しよう」という気持ちで、2013年から2017年まで毎年チャレンジしました。

 

ー2015年の優勝で満足しないところがすごいですね。

 逆に、最初の優勝がスタートみたいな感じでしたね。そのアワードの結果発表が、M1グランプリみたいに華やかな式で、当時26歳だった自分にとっては印象的で。「その場にもう一度立ちたい」というのが大きなモチベーションになったんです。

 でも実際は、その冬に出場した世界大会予選で失敗してしまいました。プレッシャーと準備不足から置物みたいな無難な作品を作ってしまい、入賞すらできなかった。ただ、そこで1度リセットできたのが良かったようで……2016年は「トップオブパティシエ」という大会で優勝し、翌年日本代表としてアジア大会へ行くことができました。あの失敗がなかったら、今頃はボタンを掛け違えたままになっていたかもしれません(笑)。

 

お菓子は科学。積み重ねるほど美味しくなる
アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
テーマはアラジンと魔法のランプの精。

ーこう見ると、もはやチョコレートの芸術ですよね。

 実は僕はそういう(アートの)才能があんまりなくて。小さい頃は、絵は描けないし字も汚いし、「ドラえもん」の歌を歌っているだけで、おばあちゃんに怒られるレベルだし(笑)。でもせっかく1年かけて準備をするのだから結果を出したくて、どうすれば優勝できるかをすごく考えました。

 

ー具体的にはどんな準備をするんですか?

 まずテーマ、デザイン作りに3、4ヶ月くらいかけます。過去の作品を見返して被らないようにし、今の流行りもリサーチします。チョコレートを流す型もシリコンやプラスチックからすべて自分で作るのですが、そのあたりに微妙なセンスが問われるんです。僕には芸術的な才能はなくても、「良し悪しを判断する観察眼」と「美味しいものを確実に作り上げる能力」があった。それが良かったと思います。

 

ー作品を作る上では、ロジカルに考えて作ることが多いそうですが。

 そうですね。例えばチョコレートも、ココアバターの分子構造から勉強して、温度帯での分子状態の変化を勉強しました。

 

ーまさに科学ですね!

 逆にいうと、科学を学んでおけば、状況に応じて応用することができるんです。他のスタッフと共同作業する際にも、指示内容をロジカルに説明するようにしています。例えば、「卵は82度~84度で殺菌されるから、それに温度帯合わせて」といった具合です。複数人で作る以上は、科学に基づいたロジックに沿ってやらないと、全く違うものが出来上がってしまう。

 逆に納得のいく説明をすれば、失敗するリスクが減って円滑に仕事ができるし、そのロジックに基づいて別のアイディアを出してくれることもある。そのためには、技術も理論も積み重ねないといけないんです。。

 

ー木の枝が伸びるみたいに、つながっていくイメージですね。

 きちんと積み重ねて、その枝一つ一つに花が咲いてたらいいなと思っています。

お菓子は科学の一部。「レシピがこう、温度がこう、じゃあこういうものを作ろう」というのが作りやすい。きちんと積み重ねていけば、ある程度やりたいことが実現できるんです。ただそこには積み重ねの厚みが必要だと思います。天才じゃなくても、積み重ねていくほど、お菓子って美味しくなるんですよ。

 

「チョコレート」から「カカオ」へ。チョコレートの新しい使い道
アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
チョコレート細工で作り上げる花ひらくパフェは、SNSや各メディアでも話題に。

ーチョコレートで花びらを作った花ひらくパフェなど、これまでにない新しい作品を生み出していらっしゃいますが、その源泉はどこから?

 

 「チョコレート細工をどうお金(価値)に変えようか」と考えた結果生まれたのが、花ひらくパフェなんです。これまでコンクール入賞者がお菓子屋さんを出しても失敗するケースが多かったのは、作品にかけた時間に見合った対価が得られていないから。いうなればコンクールで発揮した自分の高い技術を普段の商品と価格に適合させられていなかった。僕は「チョコレートの花を使いこれまでにない美味しいパフェを作ったら、お菓子の価値を上げながら、それに見合った価格を取れる」と考えました。

 そして安売りしないということですね。価格を下げてもキリがないし、流行りもので終わってしまう。ちゃんと価値を認めてもらうことが大切だと思います。

 

ー新しいアイディアはどのように生まれるんですか?

 僕の中でルーティンがあって。トイレやお風呂など無音の狭い密閉空間に2~3時間こもって集中してずっと考える、そして1度頭の引き出しに入れて頭を一旦オフにする。「集中→オフ」を繰り返ししていると、ぷらっとしている時にふとアイディアが出てくることがわかったんです。

アイディアが出てきたら、それをモノしていくんですが、現物にしてみたら生産性が悪かったり、時間がかかる割に美味しくなかったりはよくあります。そのため繰り返し試作します。

 

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
和歌山の実家は海や川が近く、年間360日釣りをして過ごすなど一人の時間を大切にしてきたという眞砂シェフ。余白の時間にアイディアが生まれることが多いそう。

ー試作もたくさんするんですか?

 一発OKもありますが、多いモノだと10回くらい試作するものもあります。商品として売り出した後も、1ヶ月後に気温や湿度が変わって食べてみて味の感じ方が変わったらレシピを変える。そうしないと、食べ手に失礼だと思っています。

 例えば、夏に同じ甘さのものを食べると全然甘さの感じ方が違うんですよ。もっとみずみずしくて甘さ控えめなものが欲しくなる。「チョコレートは夏売れない」といいますが、海外から取り入れたものをそのまま売るのではなく、日本に合ったものを作れば、売れると思うんです。

 

ー花ひらくパフェもフルーツが季節ごとに変わるのが魅力的です。素材はどう選ぶんですか?

 フルーツは必ず現地に行って見たものを使っています。現地に行って、その人がどういう考えで作っているかを大切にしています。「おいしかったらいい」ではないんですよね。

例えば桃だと、春先の桃の花見からスタートして、そこからどう育つのかを一緒に見ます。山梨の人は桃を皮ごと食べるから、香りや旨味の強い皮からエキスを抽出できるようコンポートにしようとか。やっぱり現地に行くと色々な発見がありますね。

 

ー作品には必ずカカオを使用されていますが、眞砂シェフが考えるカカオの魅力について教えてください。 

なんでも作れるのは大きな魅力ですね。カカオがあれば、具体的な形も抽象的な形も、それこそ一つのアート作品を作ったりもできる。

 

それと、これまで一般的だったカカオの使い方とは別の新しい使い道を探ることで表現の幅が広がるのでは、と可能性を感じています。例えば今だと、カカオニブから出汁をとってゼリーやアイスを作ってみたり。カカオニブは通常水に浸したりしないんですが、試しに茹でてみたらすごく美味しい出汁が取れた。鰹節とか昆布と同じで、カカオにも旨味があるんです。「チョコレート」というよりも「カカオ」という素材の部分に注目して作品作りに取り組んでいます。

 

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
従来のずっしり重いガトーショコラとは真逆の、「100個食べても疲れない」エアリーガトーショコラ。
業界の枠を超えたコラボレーションの可能性

ー「眞砂翔平×〇〇」というフレーズで、チョコレートと人や物を掛け合わせているシェフ。

印象的なコラボはありますか?

 

 最近はお花屋さんとコラボして、クリスマスリースとシュトーレンのセットを販売しました。

今こういう状況のなかで、家での時間を少しでも楽しく幸せに過ごしてほしいという気持ちから生まれた企画です。素敵なクリスマスリースを飾ることでふだんの部屋が特別な空間になるし、僕が作ったシュトーレンを食後やおやつに少しずつ食べてもらえば、その何日間か幸せな気分になれる。お花屋さんとケーキって贈り物としては近い部分がありますが、「見るもの」と「食べるもの」で全然違うんです。コラボしてみると、共通の部分、違う部分どちらにもアプローチできたのがすごく良かった。シュトーレンは、だいたいお客様に「二日間でなくなりました」って言われましたが(笑)。

 

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
眞砂シェフとgigi.fleuristeがコラボレーションしたシュトーレンのスペシャルBOX

ー丸嘉小坂漆器店さんとの、伝統工芸職人×お菓子職人のコラボレーションも素敵でした。業界を超えてのコラボに、どのような可能性があると感じていますか?

 

 外に向かってアプローチすると、いろいろな繋がりができ、それが更に広がっていくので、今までなかったことがもっとできると感じています。

 丸嘉さんとのコラボでも、彼らが誇る、ガラスに漆を決着させる技術を世に発信していくためには、品物を売るだけではなく、外から何かやらないと広がっていかないと思います。僕たちがその手助けになったらいいなと考えています。実際、料理人やパティシエが器を実際に使ってみて、それを発信すると、興味を持ってくれたり販促につながったり、いいループにつながっていくと考えています。

 

ただ、料理人やパティシエが生み出すものものがクリエイティブなものじゃないと伝統工芸が評価されないんです。丸嘉さんの漆器に普通のパフェを作っても意味がない。そのために今までの経歴や結果を出してきたっていうのがありますね。

 

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
ガラスと漆の組み合わせが雅な美しさを放つ丸嘉小坂漆器店のカクテルグラス(右)と百式シリーズ「蕾(tsubomi)盃」(左)

ーお忙しいとは思いますが、休日はどのようにお過ごしなんですか?

 何してるんでしょう…。お菓子屋さんに行ったり、食事や旅行に行くにしても、すべてが仕事の一部になっているので。

先日は、コンビニでチョコパイを買って、「チョコパイの美味しいところ、ダメなところ」についてひたすら研究していました。あんなに日持ちしてふわふわしてるものはなかなか存在しないですからね。こうした探求がが自分の仕事にもつながりますし、「どこまでオフなんだろう」という感じですね(笑)。

 

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値
現在は「Social Kitchen TORANOMON」を拠点にレシピ開発やイベント等を行なっている

 語り口は穏やかで謙虚ながら、確固たる哲学と熱い思いを秘めた眞砂シェフ。現在は開業準備をしながら、実演イベントや他業界とのコラボレーションなど、さまざまな取り組みにチャレンジしていくそう。才能あふれる眞砂シェフの挑戦に、今後も目が離せません。

 

文=水上彩 

写真=新井まる

 

【profile】

アジアベストショコラティエ眞砂翔平が提案するチョコレートの新しい価値

眞砂翔平(Shohei Manago)

1988年生まれ。自然豊かな世界遺産の街和歌山県新宮市で生まれ育つ。

高校卒業後大阪辻学園調理製菓専門学校にて調理を専攻。在学中に「ア・キャトル」にてフランス菓子を学んだことによりパティシエの道へ進むことを決意。

 

卒業後、フランス人シェフのサントス氏がオーナーを務める「クリオロ」にてスーシェフ就任 

10年間勤務し国内、国外でのコンクール受賞歴多数で2度日本一に輝く。 

日本代表として出場したコンクール「トップオブパティシエインアジア」にてアジアベストショコラティエに選ばれる。

 

2019年パリ郊外サンジェルマンに本店を構える「パスカルルガック」(C.C.C.で2009年から2015年まで7年連続で最高位を受賞した)世界初の支店「パスカルルガック東京」を赤坂にて立ち上げ、シェフ就任。

眞砂がチョコレート細工で作り上げる花ひらくシリーズがSNSや各メディアで話題になる。

 

現在は開業準備中。チョコレートを使い様々な企業と眞砂が作り上げるクリエイティブなお菓子でタイアップやイベントを行なっている。

https://instagram.com/shohei_manago_chocolatier/