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シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。

酒とカカオは相性が良いといわれていますが、そのどちらも探求すればするほど果てしなく、湧き出る泉のように興味は尽きません。酒とカカオの奥深い森をさすらう人々に、その魅力と可能性を伺う連載「酒とカカオと」。第2回目CACAOTAIL(カカオテール)の萩原陽介さんです。

 

シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。
CACAOTAIL(カカオテール)の店の外観。

東京・門前仲町の駅から徒歩数分のところに、ヨーロッパの街角にでもありそうな、クラシカルな雰囲気のバーがある。居酒屋が軒を並べる賑やかな繁華街から、一歩裏道へ入った、静かな一角にポツリ。緑に塗られた窓や扉はほっと落ち着く優しい雰囲気があり、物語の中へ入って行くような、不思議な風情を醸し出している。

 

シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。
街の喧騒から逃れた、隠れ家のような店。女性一人でも入りやすい雰囲気。
バーであり、ビーントゥバーのチョコレート工房でもある

店の名前は「CACAOTAIL(カカオテール)」。チョコレートに特化したバーである。店内はほんのりとカカオの香りに包まれている。カウンターに置かれた瓶の中には酒とカカオが漬け込まれ、ぶら下がっているサラミソーセージらしきものも、よくよく見たらチョコレートだ。

 

「サラメ・ディ・チョコラートという、サラミを模した北イタリアの伝統菓子があるんです。ナッツやドライフルーツなどをチョコレートと混ぜて固めます。うちではオープン当時からずっと作っているスペシャリテなんですよ」と店主でバーテンダーの萩原陽介さんが話す。この店のチョコレートは全て自家製なのだ。バーであり、ビーントゥバーのチョコレート工房でもある。

 

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クラシックな雰囲気のコの字型のカウンター。奥にはテーブル席もある。
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ウォッカ、テキーラ、ラムなど、様々な酒にカカオが漬けられている。
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精巧に作られたチョコラートサラミ。これを目当てに来る客も多い。お土産として購入することも可。

カカオテールは2018年にオープン。実家が飲食店を営んでいたせいか、萩原さんも子供の頃から料理や飲食に興味があったという。バーテンダーに興味を抱いたのは、「チャイナブルー」というカクテルがきっかけだそうだ。

 

「20歳になって、お酒が飲めるようになり、初めて出会って驚いたカクテルでした。色がすごくきれいだなと惹かれ、飲むというより、自分で作ってみたいと思いました。今の店にはチャイナブルーは置いてないのですが、カクテルの面白さを最初に気付かせてもらった一杯です」

 

23歳から本格的にバーテンダーとして働き始めると、キスチョコや生チョコなど、お酒にはチョコレートが付くことが多いことに気づいた。年配の男性客もウイスキーとチョコレートを合わせて楽しんでいた。今までそれほどチョコレートに興味はなかったそうだが、お酒に合わせると美味しいと知り、だんだんとカカオの世界にのめり込んでいった。

 

ビーントゥバーにみんなが試行錯誤していた時代

萩原さんがチョコレートに興味を持ち始めた頃は、ちょうどビーントゥバーの黎明期。当時自身が働いていたバーでも、感度の高いチョコレート好きな人が集まり、世界各地の様々なクラフトチョコレートを用意して、少しマニアックなテイスティング会が開かれたりしていた。そこではカカオに関わる様々な業種の人と知り合うきっかけにもなった。萩原さんも自分でメランジャー(カカオをすり潰して滑らかにする機械)などを購入し、カカオ豆を焙煎してビーントゥバーを作ってみるようになった。

 

シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。
店の厨房に置かれたメランジャー。ここで実際にカカオをすり潰して毎日チョコレートを作っている。
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カカオ豆は主にコロンビアのカカオハンターズのものを使用。トゥマコ、アラウカ、アルアコ、シエラネバダの4種。
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クオリティに信頼を持っている、カカオハンターズのカカオ豆。

当時はビーントゥバーを作るチョコレート店自体もまだ少なく、純正品の機械もなかった。みんなが手探り状態でチョコレートを作っていた。萩原さんも、先に始めたチョコレートメーカーの人からアドバイスをもらうなど、お互いに情報交換しながら試行錯誤でやっていたという。家のベランダに大きな唐箕機(穀物の皮やゴミを取り除く機械。日本では通常、米の籾殻を外すために使われていたが、カカオ豆のハスクを外すのに使うこともできた)を置いて狭い中で作業したり、カカオをペースト状に混ぜるメランジャーがいつの間にか外れて、部屋の中にチョコレートをばら撒いてしまったりと、苦労や失敗も多かったようだ。

 

「この頃は、これからビーントゥバーを盛り上げていこうという気運があり、カカオ業界の人はみんな出し惜しむことなく親身になって教えてくれる人が多かったように思います。自分も迷ったり悩んだりしていたときに、多くの人にお世話になりました」

 

シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。
カクテルを作る萩原さん。自分はまだまだと謙遜されるが、チョコレートもカクテルも両方作ってしまうバーテンダーはなかなかいない。実はワイン好きだそうでソムリエ資格も持つ。

カカオテールでは、オープン時からビーントゥバーのチョコレートを自分たちで作って提供し、さらにカカオやチョコレートのカクテルを出している。チョコレートの種類も、タブレットはもちろん、オランジェット、生チョコなど様々だ。コロンビアの産地別のテイスティングセットもある。どれもお酒に合うことが基本。おすすめのペアリングがメニューに書かれているので、初心者でもあれこれトライしやすい。

 

「ただチョコレートではなくビーントゥバーにしたのは、やはり味が全然違うからです。チョコレート単体で食べたときに、素朴な力強さ、インパクトがある。カカオそのものが持つ素材の個性がしっかり現れるのが面白い。あと自分で一から作りたい、カカオのことを知りたいという思いも強かった。いずれは産地もちゃんと訪れてみたいし、農園に何か関わることができたらと思っています。まだまだ分からない先の話ですが、最終的には自分で農園からやるのが夢かもしれません」

 

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ブルーチーズ、イチヂク、クルミの入ったホワイトチョコレートサラミ。ちょっと炙ったローズマリーを添えて。
経験の引き出しを開け、独自のカクテルやチョコレートを組み立てる

この日出てきたチョコレート盛り合わせ(下の写真)は、まず左上がチョコレートサラミ。これはパルミジャーノレッジャーノとドライのブラックオリーブ、キャラメリゼしたアーモンド、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、クッキー、そして塩を入れたという大人の味。右上のタブレットは、カカオをメランジャーで混ぜ合わせるときにジュニパーベリーを投入して香りを出し、ドライのグリーンオリーブ、そしてレモンをトッピング。マティーニを飲んでオリーブを食べた時をイメージし、チョコレートに表現したそうだ。手前のオランジェットは、それぞれ赤ワイン、ブランデーに漬けたもの。皿には塩、胡椒、蜂蜜が添えられ、それらを付けながら食べるとまた違った味わいが楽しめる。どれもここにしかいないオリジナルで、ショコラティエではなくバーテンダーの目線で作られていることがユニーク。チョコレート自体がカクテルのように表現されているようにも思う。とにかくどれも間違いなくお酒に合いそうだ。

 

シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。
「チョコレート盛り合わせ」は3種類を選んで盛り合わせることができる。

萩原さんは、チョコレートやカクテルの味を組み立てる時、今までの食の経験を参考にするという。

 

「アイデアが急に降ってくるということはあまりなくて、あの時食べたあれは美味しかったなとか、あの組み合わせは面白いなとか、そういう蓄積から思い付くことが多いです」

 

普段から気になるレストランへ行っては味覚の記憶を増やし、その一方で勉強のために専門のチョコレート講座へ参加することもあるという。ボンボンショコラの構成やバランスがカクテルレシピの参考になることもある。また、カカオの産地による風味の違いを色でイメージし、そこから広がる発想をカクテルに落とし込むこともあるそうだ。

 

「例えば、コロンビアのシエラネバダだったら赤、アルアコだったら緑、など味や香りのイメージから連想する色があるんです。そこからシエラネバダにベリー系を合わせてみたり、アルアコに抹茶やピスタチオを加えたり。自分が思う素材の持つ特徴を色から引き出して、カクテルに反映させることも多いです」

 

シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。
鳥の形のグラスもかわいい「カカオと苺のスプモーニ」。カンパリのカカオ漬けにイチゴとレモン、トニックウォーター。イチゴとレモンで甘酸っぱくさっぱりとした味わい。
シリーズ「酒とカカオと」Vol.2 CACAOTAIL萩原陽介さん カカオ、チョコレートの魅力はみんなを笑顔にさせること。癒しの時間を過ごして欲しい。
パッと気分が上がるビジュアルの「チョコレートローズ」は、自家製チョコレートとカルバドスとバラのカクテル。繊細な香りが心地よく、バラは花びらごと食べられる。

ペアリングなどの提案もしているが、難しいことはあまり考えず、この場を純粋に楽しんで欲しい、という萩原さん。

「うちはライトなチョコレート好きのお客さんも多いし、チョコレート関係なく普通にバーとして利用する方もいます。また、お酒はあまり飲めないけれど、チョコレートがどうしても食べたいから、と来てくれる方もいます。飲めない方は無理をせず、ノンアルでも大丈夫ですよ。チョコレートをきっかけにバーという空間の楽しみ方を知ってもらえたら嬉しいです」

 

お酒は時に悲しい場面もあるけれど、チョコレートは基本的には楽しくハッピーな気持ちで食べるもの。食べた人がみんな笑顔になることが、一番の魅力だと萩原さんは言う。好きなチョコレートについて話す時、萩原さんにも笑みが漏れる。最後にこれからやってみたいことについて聞いてみると意外な答えが出た。

 

「来年中に始めたいのは養蜂。自家製チョコレートに合わせる甘みとして、自分は蜂蜜が一番合うんじゃないかと思っています。蜂蜜が持っている多重に層のある甘み、複雑な旨みがカカオと交わることで独創的な味わいになることが興味深い。できればニホンミツバチでやりたいけれど、なかなか難しく苦戦しています。今は蜂に関する本を読みながら勉強しつつ、養蜂ができるような屋上を近所に探しているところです」

 

口数少なく控えめで職人肌な印象の萩原さんだが、真摯な姿勢にものづくりへの静かな情熱を感じさせる。ここへ来ればカカオの優しい香りに包まれながら、心ほぐれる至福の時間を過ごすことができる。

 

文=江澤香織

写真=川しまゆうこ

 

【Profile】

 

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萩原陽介(Yousuke Hagiwara)

 

CACAOTAIL(カカオテール)

東京都江東区門前仲町1丁目14−8 下田ビル 1F

03-6381-8495

https://cacaotail.official.ec

Instagram https://www.instagram.com/cacaotail/