「チョコレートが一番のインスピレーション」一児の母でクリエーターのKEIKO ROUGEのバランス感
デイジーやローズ、ポピーなど愛らしいお花の形をしたギフトチョコレート「Philly chocolate」。ファッション感覚で楽しめるお洒落なパッケージングがされたオリジナルの本格チョコレートを起点に、そこからインスパイアされたアクセサリー、アパレルなどもあわせて提案する、新しいかたちのチョコレートブランドです。2016年のブランド創設以来、多角的にブランドを発展させながら、2歳の娘さんの子育てもされているKEIKO ROUGE(ケイコ ルージュ)さんに、忙しい日々の中でも“トキメキ”をクリエーションし続けるしなやかなあり方をたずねました。

――「Philly chocolate」のパッケージは、ブランド名が刻印された控え目だけど高級感のあるゴールドプレートが印象的です。まず、「Philly(フィリー)」ってどういう意味なんでしょうか?
KEIKO ROUGE(以下、KEIKO):実は意味はないんです。「phi(フィ)」という響きと、最後に「y」で伸びているのって可愛いなと思って、感覚的に名付けました。
パッケージには創立当初からこだわっていて、ガーリーになりすぎない上品なボックスとお客様とお贈りになる方の好みに合わせて6、7種類の中から選んでいただけるリボン、そしてゴールドのプレートの3つのポイントがあります。
最初、ゴールドプレートを付けるかどうかはすっごく迷ったんです、すっごくコストが高いから。シールにしてしまおうか、と心が揺れたこともありました。でも、自分が贈ったり、もらったりして本当に嬉しいものをつくりたかったから、プレートでいこうと決めて。
事業をやるのは初めてだったから、「上代」とか「販売価格の何%の原価にすればいいか」とかそういうことも分からず、原価率が50%を超えてしまったこともありました…(苦笑)。でも今ではブランドを象徴するものとして、こだわりを貫いてよかったと感じています。
――ブランドはどのようなきっかけで始められたのでしょうか?
KEIKO:もともと美容室のレセプションとして働いていたのですが、結婚や出産を考えるタイミングで、新しい仕事をやろうと思い立ちました。子育てをしながらでもずっと続けられる仕事がよかったんですけど何も思いつかなくて…、だったら自分でつくろうと。
それで何をやろうかというときに立ち返ったのが、大好きなチョコレート。アポロやマーブルチョコなどのお手頃なチョコから専門店の本格派チョコまで、子どもの頃はお腹が痛くなるほど夢中で食べちゃうこともあったぐらい、昔からずっと変わらず好きなものなんです。

ただ、カカオ豆からこだわったり、有名なパティシェがつくるチョコレートはすでに市場にたくさんあったし、叶わないと思って。だけど、チョコレートやパッケージ自体が可愛いチョコレートってあまりないとも感じて。せっかくファッションや美容の感度の高い環境で働いてきたので、私はファッションを感じられるようなチョコレートをつくってみようと考えました。
――ファッション誌に載っても違和感のないようなヴィジュアルのチョコレートですよね。
KEIKO:ありがとうございます。立ち上げ当時はちょうどInstagramが流行りだしたタイミングだったこともあって、SNSにあげたり、プレゼントとしてもらったりするときにも、その場がパッと華やぐものがいいなと思って。ただ、そこにあるだけで思わず嬉しくトキメいてしまうような存在としてのチョコレートを表現しています。
一方で、「可愛いだけでしょ?」と思われたくないという気持ちもあって。原料にこだわり、チョコレート専門店で1枚1枚丁寧に製造しています。味へのこだわりのあるお客様にも気に入っていただけるものを目指しています。

――Phillyでは、チョコレートと並んで、アクセサリーやアパレルの事業もされています。他の領域も横断する展開になった経緯は?
KEIKO:「ファッションチョコレート」というコンセプトから連想して、当初からチョコレート以外の雑貨類もやってみたいという思いがありました。やっぱり、ゴールドのプレートがPhillyの特色なので、こちらをモチーフにしたアクセサリーを手始めに、徐々にシリーズ展開していきました。
お洋服は、ボックスに採用したフィルムカメラで撮影したお花の写真をもとに作ったロングTシャツがあったのですが、それが好評だったことから今年からアパレルラインとして本格化。今はご協力いただいているデザイナーさんと共に、来年の春夏を進行しているところです。
――アクセサリーやお洋服に感じるトキメキと、チョコレートに感じるトキメキが並列にあるようなスタンスに新しさを感じます。
KEIKO:そう、もともとPhillyのチョコレートに反応してくれるお客様はファッションが好きな方が多いので、新しい展開についても違和感なく受け入れていただいたという感覚がありますね。
それからチョコレート自体が色んなものとの相性がいいとも思っていて。というのも、チョコって美味しいのはもちろん、可愛いらしさや癒し、芸術的な美しさ、何だかミステリアスなストーリー性など、様々な要素を秘めていて、他の領域ともリンクしやすいと感じているから。

――伊勢丹やルミネなど、様々な場所でポップアップストアを実施されていますね。
KEIKO:はい、リアルでお客様にお会いできるのは本当に嬉しいこと。Philly の売り上げはInstagram経由がほとんど。SNSなどで商品をアップしてくださるのは10代、20代の方が多いのですが、実店舗だと同世代ぐらいのお客様もたくさん来てくださったりして。特に周りにシェアしたりはしなくても、「自分へのご褒美」としてPhillyを密かに楽しんでくれている方も意外といるのかもしれないという気づきもありました。
これまで印象的だったお客様の声は、「これまでに見たことがない」や「ブランドの世界観が好き」といったもの。私の捉えている感覚みたいなものをちゃんと伝えられている気がして、ありがたい手応えを感じました。

――2018年には長女の月ちゃんも誕生されて、途中からは子育てをしながらブランドの切り盛りをされていらっしゃいますね。
KEIKO:妊娠中はつわりが大変で、一番ひどいときは、ベッドの上から一歩も歩けないという状態が1、2ヶ月続いたんです。その間は私の動きがほぼ止まってしまったので、一緒に働いてくれているマネージャーや旦那さんにサポートしてもらいました。
当時は発送も自宅で自分自身でやっていたのですが、美容師をやっていて帰りの遅い旦那さんが、夜中に一緒に梱包を手伝ってくれたりして。あの頃を思い出すと、なんだか涙出そうですね。

でも、月がよく寝てくれる子だったので、出産してからの方が思ったよりは楽に感じられました。だから、復帰という復帰は特になくって、出産直後から月が寝ている間にインスタで発信したりと、できることから仕事を再開していった感じです。
――現在、月ちゃんは保育園に通われているということですが、平日の1日の生活の流れを教えてください。
KEIKO:朝は月が7時ぐらいに起きてくるので、そこからオムツ替えや身づくろいをして、朝ごはん。それから旦那さんがお店に通うまでのちょっとが家族3人の時間で、10時には自転車で新宿にある保育園に送りにいきます。
仕事がパツパツのときはすぐに家に戻ってパソコンに向かいますが、余裕があるときはカフェでメールの返信をしたり、読書をすることも。Phillyや自分自身について、一人で色々考えながら、思い浮かぶイメージをパソコンやノートに書き込む時間も大切にしています。
午後は打ち合わせがあればそのまま外出したり、空いた時間にネイルに行ったりすることもあります。それから17時ごろに保育園にお迎えに行って、ごはん。月が寝て旦那さんが帰ってくるまでの1人の時間はまた仕事をします。

――旦那さんや月ちゃんから、ブランド運営の上で影響を受けていることはありますか?
KEIKO:旦那さんには、ロゴや包装の印象などについて、ポイントポイントで意見をもらってきました。彼もファッションが大好きだから、直感的なコメントをもらえるのは助かります。でも、私のプロジェクトとして尊重してくれて、基本的に私の意思に任せてもらっていることを感謝しています。
月が生まれてからは、クリエイティブ面での変化はそんなにないのですが、経営面で「ちゃんと稼がないと」という意識が強くなりました(苦笑)。これまで手当たり次第好きなことをやってきたから。これからはチョコレート、アクセサリー、アパレルというそれぞれの足場をかためるというフェーズに入ったと捉えています。
今年からは、チョコレートブランドの原点にかえって、型も味も完全オリジナルのチョコレートをリリース。私が描いたデザインスケッチをもとに専門の方に型を成形してもらって、それをショコラティエさんに手渡して作っていただきました。

今年は、「ミロのヴィーナス」をモチーフにした形が一番人気でした。「ファッション×アート×スイーツ」ということも意識しているので好評で嬉しかったです。


――子育てとお仕事で忙しい毎日の中で、KEIKOさんのインスピレーションソースは?
KEIKO:美術館に行くことで刺激をもらっていますね。自分が好きなものがわからないと、ものをクリエーションできないと思うので、それを発見するためによく足を運びます。行くと何かしらに興味を持つきっかけになるので、そこからアイディアが湧くこともあります。
美術館は、近場の国立新美術館、森美術館、サントリー美術館などに行くことが多いです。あと昔から、無性に六本木ヒルズが大好きで。働いている人とクリエイティブをしている人のバランスに惹かれるんです。あの街の空気やエネルギーに触れると「大丈夫」って思えますね。
クリエイティブなことをして働く人たちに、すごくリスペクトと憧れがあるから。だから、今Phillyをやっていて大変なことはあるけれど、はっきりと楽しいです。


――私も一児の母ですが、お話を伺ってKEIKOさんの仕事と子育てのバランス感がしなやかで素敵だなと感じます。
KEIKO:“両立”できているかというと、できていないと思います。もともと家事が苦手だから、洗濯ものは溜めてしまいますし、料理も毎日は作れていません(苦笑)。でも、完璧を求めないで、手を抜けるところは抜くというのもご機嫌でいるための秘訣かなと。
仕事もそうですが、長く続けていくためにはどうあればいいか、ですよね。経済的なこともそうだし、自分が機嫌よくいられる環境をどうつくっていくか。
――今後の目標を教えてください。
KEIKO:Phillyを始めたときは「5年は続けよう」と思っていましたが、気づけばあっという間に5年経っていました。色々なことにチャレンジしてきましたが、これからもチョコレートが軸というのは変わりません。
先ほど言ったことにも重なりますが、私がチョコレートに感じるトキメキやロマンを自分の好きなアートとかファッションに絡めて、新しいチョコレート作る。それとあわせて、チョコレートにインスピレーションを受けた、チョコレートじゃないものも作っていく。
色んなものに興味はあるけれど、私にとってチョコレートがやっぱり一番の“好き”であり、インスピレーションソースなんです。

文=皆本類
写真=林ユバ
【Profile】

KEIKO ROUGE(ケイコ ルージュ)
美大を卒業後、美容室SHIMAのレセプションを経て、“ときめき”が生まれるチョコレートをコンセプトに、Phillyをスタート。原料のクーベルチュールチョコレートへのこだわりはもちろん、パッケージのリボンをお好みで選べたり、アーティストとコラボしたボックスで販売するなど、「ファッション感覚の」ギフトチョコレートを提案する。
Philly chocolate