FEATURE

南米アマゾンでカカオと出会い、食材としてのカカオの奥深さを伝えている料理人・太田哲雄さん。

 

長野・軽井沢でレストランを営むほか、「アマゾンカカオ」と名付けたカカオを数トン単位で自ら輸入。料理やお菓子を作るだけでなく、国内外のレストランにカカオの卸をしています。フレンチ、イタリアン、パティスリー、バー、老舗料亭など、その取引数は数百件にも。

 

前編では、太田さんがアマゾンのカカオ村と出会い、ビジネスを始めるまでのストーリーを伺いました。

後編の今回は、アマゾンカカオを使って実際にどんな料理やお菓子を作っているのか、料理人としてのアプローチや、地元・長野で行っている未来への種まきについてお聞きしました。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

インタビュー時、作りたての「ショコラ ショ」でAPeCAスタッフをもてなしてくれた太田さん。「ショコラ ショ」とは、温かいチョコレート・ドリンクのこと。

太田さんが作るそれは、アマゾンカカオを削り、長野の浅間山のふもとで汲んできた湧き水を使ったもの。芳醇なカカオの香りと力強い味わいが同居する、インパクトのある一杯です。

 

「カカオ100%で、ほんの少しだけ砂糖を入れています。本当は2~3日寝かせた方がこなれた味になるんですが、作りたてもおいしいですよ」。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

カカオ100%のチョコレートはとても苦くて、そのままでは飲んだり食べたりできない印象があったので、意外でした。

 

太田さんにそう話すと「よく聞きますよね。でも100%が苦いって、リンゴジュース100%がまずいって言ってるのに近いじゃないですか。70%の方がおいしいって、何か違うと思いませんか」。

 

これはチョコレートの世界が作り上げたロジックかもしれない、という太田さん。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

「カカオ50%にしてミルクや砂糖など別の材料を入れれば残りの50%が浮く。その分チョコレートを量産できるから最終的に利益率が上がるんです。私はカカオ100%を前提に、それぞれが好きな使い方を試していけばいいんじゃないかと思うんですよね。だから私自身は割ったり混ぜたりは一切しない。いつもカカオをそのままで扱ってるんです」。

 

カカオは発酵食材。発酵臭や酸味はあえてそのままに
カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

太田さんはアマゾン・ペルーにあるカカオ村と契約を結び、カカオのさまざまな可能性を探っています。そもそも太田さんのアマゾンカカオはどんなところで育ち、どんな特徴を持っているのでしょうか。

 

「カカオ村はペルー北部、周囲を山に囲まれたサン・マルティン県のタラポト市という場所にあります。病害に弱いクリオロ種のカカオを無農薬で丁寧に育てています。虫がカカオに寄り付かないよう、近くに匂いの強いバナナやココナッツの木を植えるなどもしていますよ。これらは強い日差しからカカオを守る”シェードツリー”の役割も果たしてくれます」。

 

カカオごとに個体差を出しているのも特徴のひとつ。

 

「先月と今月で、採れたカカオのアロマが違っても全然OK。カカオの育つ場所によってバナナの香りやココナッツの香りがしてもいい、という育て方をしています。アマゾンカカオを買ってくれたお客さんによって、アロマの印象が異なることもありますよ」。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

発酵や乾燥は、雨をしのぐ屋根だけがついた簡素な小屋で行われるそう。

「自然発酵なので、毎回左右される作り方になっちゃいますね。ワインの専門家からは『もっとしっかり設備を整えないと』って言われちゃうんですが、経済的に難しいんですよ。村人たちが住んでいる家だって、風でトタン屋根がひっくり返っちゃうようなところ。そこで高額の機材を買うって無理な話じゃないですか。アマゾンではカカオ農園を持てるだけで、もう勝ち組。そこで働いている村の人たちの人生を背負ってるので、失敗して潰すことはできないんです」。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2
アマゾンカカオのカカオニブ

そして、太田さんが特に大切にしているのが、カカオマスの発酵臭。

 

「ショコラティエの方たちは酸味や発酵臭があるカカオをあまり好みませんが、カカオは発酵食材。漬物と同じなのに発酵臭がしないって逆におかしいですよね。だからうちのカカオはあえてしっかり残します。今はバナナの葉をかぶせて発酵させるオーソドックスな方法ですが、東南アジアではジャスミンの葉を加えて香りを付けている農園もあると聞きます。私も『納豆菌で発酵させたらどうなるか』など、挑戦してみたいことは多々ありますが、それも失敗すればその年の利益に影響が出てしまう。怖くてためらってしまいますね」。

 

納豆菌!挑戦は難しいにしても、どんなカカオになるのか興味がありますね。

 

料理人としての発想から生まれる、カカオを使った大胆な料理
カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2
浅間山の湧き水に70時間ひたしたカカオで作ったジェラート。乳脂肪分はゼロなのでベジタリアンの方もOK。精進料理のデザートにも出せるという

世界的なチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」で2年連続出展を果たしている太田さん。2019年度はアマゾンカカオと赤ワインで煮込んだ牛頬肉や、カカオと玉ねぎのグラタンを。2020年度はカカオを発酵食材と捉え、ショコラ冷麺やビビン麺を提案。数多のシェフや来場者を驚かせました。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2
日本の郷土料理や工芸品と、アマゾンカカオの魅力を組み合わせた「ショコラ冷麺」「ショコラビビン麺」。

こうした斬新なアプローチができるのは、太田さんが料理人だからこそ生まれる発想なのかもしれません。

 

そう問うと、「料理人は食材を煮ても焼いても蒸してもいい。インド料理や精進料理のアプローチでもいい。パティシエやショコラティエの方たちよりも、使える引き出しの数が多いからじゃないでしょうか」。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

太田さんは毎年アマゾンを訪れるうちに、現地のレストランとカカオ料理を作ったり、料理学会や講習会に呼ばれたりするようになったそう。

 

「レストランとのコラボでは、チョコレートの昆布締めを作りました。カカオ特有の渋味は、人間の脳で旨味と捉えられます。そこに昆布の旨味をのせることで、より旨味として感じやすくする。学会や講習会では、旨味成分のグルタミン酸とイノシン酸の掛け合わせ方や、食材の合わせ方など、旨味の形成をロジカルに説明できるようにします」。

 

さらに太田さんは続けます。

 

「パティシエやショコラティエでも、カカオをクーベルチュールとしてしか捉えていないのか、フルーツとしてのアプローチをしているかで、発想が変わります。私は作ったものを食べただけで分かります。クーベルチュールを使うにしても、実際にそのブランドのカカオ産地を訪れて育て方を学び、理解したうえで作ると、味のスケール感がグッと広がるんです。これはカカオに限らず、野菜やフルーツを使う料理人やパティシエすべてに言えること。実際に農家さんを訪れてみてほしいと思いますね」。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2
2020年7月、太田さんは高野山で在家得度を受け、お坊さんになった。その時掲載された新聞。「海外で信心深い方たちと接するに触れ、日本人の信仰心の低さに気付いた。食と宗教は切っても切れない関係。今あるものに感謝して生きなければならないと思うようになった」という
ペルーを、長野をより豊かに。アマゾンカカオと目指す道

アマゾンカカオを扱って5年。東京から長野に戻り、自身の拠点となる店も持ちました。

 

「今後やりたいことはありますか?」

そう聞くと、「長野に対して、そして今の中学生高校生たちに対して、未来への種まきができないかと動き始めています」との答えが返ってきました。

 

まず始めたのは、地元・長野の高校生をアルバイトとして雇うこと。

太田さんはコロナ禍を機に、キャラメルポップコーンやカカオケーキ、カカオジャムの販売を始めました。高校生たちにはその梱包や袋詰め、著書や最近発売されたアマゾン旅のDVDといった発送作業を、土日を中心に任せているそう。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2
太田さんが世界各国で少しずつ買い集めてきたという、アンティーク家具を配した店内

「うちは軽井沢でもトップクラスに給料が良いと思います。海外のような自由度の高い働き方で、仕事中でも飲み物はもちろん、僕が作ったり買ってきたりしたお菓子も食べてOK。その代わり、時給ではなく成果報酬。今日は1000個梱包と決めたら、終わるまできっちり対応させます。梱包がない日はアンティーク家具の手入れや銀食器磨きなどをしてもらっています」。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

その目的は、大切な何かに気づいてもらうこと。

「彼らは私が取材を受ける様子も見ていますし、著書も読む。アンティークにも触れる。アマゾンカカオを使ったお菓子や料理も食べる。この場で働くことをきっかけに、国内外の現状に目を向けて、視野を広く持った大人に成長していってもらえたらと思うんです」。

 

長年決まったお店に卸すだけにしていたお菓子の個人販売を始めたのも、生まれ育った長野を豊かにしたい、という想いからだと太田さんは言います。

 

「お土産やギフトとして認知されるような何か…、長野で言えば『雷鳥の里』のような銘菓をゆくゆくは作りたいですね。地元に雇用が生まれるし、活性化にもつながります。また、閉鎖して放置されているスキー場に緑をよみがえらせたい。木を植えて森を作り、野生動物が木の実を食べに来られるようにもしていきたいと考えています」。

 

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2
太田さんの大きな手。「お菓子を作りすぎて腫れが引かず、マッサージ店で手だけを2時間もみほぐしてもらうこともある」という

太田さんが目指すのは、カカオを通じて日本もアマゾンも豊かにすること。

 

サスティナブルな取り組みを続けながらも、さらに今、料理人としての興味は未開の地・シベリアにも向かっているとか。

 

アマゾン料理人・太田哲雄さんは、これからも私たちをあっと驚かせる進化を続けていくのかもしれません。

 

文=田窪綾

写真=新井まる

 

【Profile】

カカオを通じて日本もアマゾンも豊かに。 「アマゾンカカオ」太田哲雄シェフインタビュー Vol.2

太田哲雄(Tetsuo Ota)

1980年、長野県北安曇郡白馬村生まれ。19歳でのイタリア留学をきっかけに料理の道へ。日本での修業後、スペイン「エル・ブジ」、ペルー「アストリッド・イ・ガストン」など、街場から星付きの名店、セレブのプライベートシェフなど通算11年の料理経験を積む。その後、現地の食文化を学びに入った南米・アマゾンで、無農薬栽培のクリオロ種を育てるカカオ村に出会う。以降、直接カカオを買い付けて国内外のシェフを卸すフェアトレード・ビジネスをスタート。これまでの経験は書籍に、アマゾンへの旅の様子はドキュメンタリーDVDにもまとめられている。2019年8月には長野・軽井沢に自身のラボ兼レストラン「LA CASA DI Tetsuo Ota」をオープン。現在は長野の食材を使った料理作りやアマゾンカカオの普及、企業の商品コンサルティングなど幅広い活動を続けている。ボーダーカットソーがトレードマーク。「制服代わりに着ているが特別好きなわけではない」と本人談。(別の服を着ていると多くの人に「今日はボーダーじゃないんですか」と聞かれるため)。よく着るブランドはセントジェームス。